♯44.5 スーパー銭湯と白河さん
年末年始の連勤を終えての初めての休日。
俺は、朝から《《ある》》場所に行こうとしていた。
その名もスーパー銭湯!
俺がいつも行っている地獄のスーパーとは違い、こっちは天国のほうのスーパーだ!
大きいお風呂に、熱めのサウナ!
食事が取れるところもあり、ゆっくり休める場所もある。
そして入館料もそこそこ!
独り身にとても優しい、コストパフォーマンス抜群の施設である。
「私、初めてスーパー銭湯に行きます」
「そうなんだ……」
でも今日は一人じゃない。
何故か白河さんがクルマの助手席にいる。
「いってらっしゃーい!」
「わざわざ見送りに来ないでよ!」
「なんでー! 私もチーフに会いたいのに!」
外には白河さんのお母さんもいる。
なんでこうなった……。
昨日、帰ってからの白河さんとの電話のやり取りを思い出す……。
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『連勤お疲れさまでした! 明日はゆっくり休んでくださいね!』
『ありがとう。疲れたから明日は朝からスーパー銭湯にでも行ってこようかなぁ』
『……スーパー銭湯?』
『えっ!? 行ったことないの!?』
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そんなこんなで白河さんと一緒に行くことになってしまった。
白河さんは冬休み中。
今日のアルバイトはいつも通り夕方から。
午前なら全然問題なしということだ。
そのスーパー銭湯は隣町の駅前にあるので、今は白河さんの家に彼女を迎えにきているところだった。
「チーフ! 汐織のことよろしくね~!」
「は、はい……!」
今更だが、白河さんのお母さんにチーフって呼ばれるのおかしくない?
しかも、新年初デートがスーパー銭湯ってどうなのだろうか。
江尻さん風に言わせるとおじさん臭くないだろうか?
「チーフ! お母さんがうるさいから早く行きましょう!
「う、うん……」
そんな疑問が脳裏に浮かびながらも、白河さんに促されるがままクルマのアクセルを踏む俺なのであった。
※※※
「白河さんって温泉好き?」
クルマを運転しながら、白河さんそんな質問をしてみる。
「……」
「白河さん?」
「じ、実は苦手でして……」
「えぇええ!?」
思わずクルマのブレーキを踏んでしまった!
急ブレーキ気味になってしまったので、急いで白河さんの体の前に左手を出す。
「どういうこと!?」
そのままクルマを路肩に寄せる。
「ひ、人前で裸になるのに抵抗がありまして……」
「修学旅行のときとかはどうしてたのさ!?」
「だ、誰もいない時間を狙ってひっそりと……」
お、思ったよりも大きな弱点だった……。
俺の浅はかな考えだと、温泉が苦手な人間なんて存在しないと思っていた。
「早く言えば良かったのに!」
「だ、だってぇ……」
つい良からぬことが思い浮かんでしまったが、必死にそれを振り払う。
「戻ろうか? 無理して行くような場所じゃないし」
「い、いいんです! 行きたいのは本当なんです! お風呂は大好きですし!」
「でも……」
「大和さんが好きな場所は私も知りたいんです! 私、頑張りますから! ちゃんと入浴セット持ってきましたし!」
「……」
「お願いします! 大和さんの好きな場所に連れて行ってください!」
「うーん……?」
こ、これ、たかがスーパー銭湯でそんな必死になる話なのだろうか……?
「や、大和さん……」
「とりあえず向かうけど、無理そうならちゃんと言ってね。俺も《《汐織》》が苦手なものをはちゃんと知りたいから」
「は、はい!」
俺がそう言うと、白河さんが元気よく返事をした。
※※※
施設内にある、畳の休憩室に二人並んで腰をおろす。
片手にはお互いにコーヒー牛乳を持っている。
「大和さん、とてもいいお湯でした!」
白河さんの顔が紅潮している。
髪は半乾きで、服装は館内着に着替えている。
……いつもより色っぽいような気がする。
「大丈夫だった?」
「はい! 朝なので人が少なくて良かったです! あとは隅っこのほうを移動したので!」
「隅っこ!?」
あんなことを言っていたの白河さんは、いざとなるとあっさり銭湯に入る覚悟を決めた。
そして今、とても楽しそうにコーヒー牛乳を飲んでいる。
「ぷはー! 冷たくて美味しいです!」
「ね? 結構悪くないでしょう?」
「はい! とても楽しいです!」
「お昼になったら館内の食堂に行ってみようか」
「はい! 私、お腹ぺこぺこです!」
一時はどうなることかと思ったが、楽しんでもらえたみたいで良かった。
……こんな若い子と、新年一発目のデートがスーパー銭湯ってきっと俺くらいじゃないかなぁ。
「いいですね、こういうの。私、おじいちゃん、おばあちゃんになっても大和さんとこんな風にここに来たいです」
「汐織が良ければいつでも」
「わ、私はもちろんですが……」
呼び捨てに慣れていないのか、白河さんがいちいち自分の名前に反応する。
俺もまだ意識して彼女の名前を呼んでいるので少し恥ずかしい。
「あははは……、でもダメですよね。もう少し慣れないと」
「慣れる?」
「だ、だって――」
「あぁああああ! 分かった! 分かったからそれ以上は言わなくていい!」
白河さんが派手に自爆しようとしていた。
よ、良かった、止めることができて……。
値下げ発言のときもそうだったが、白河さんってたまにとんでもないことを言おうとするんだから!




