♯19 白河さんとお出かけデート 前編
土用丑の日を終えて、七月の最終週。
今日は白河さんとシフトを合わせて、お出かけをする予定の日だ。
この前の食事とは違い、今日は初めからちゃんとデートという名目でのお出かけだ。
「小西さんは、ちゃんとやってくれてるかなぁ」
店から少し離れたコンビニで、白河さんと朝一で待ち合わせをすることになった。
コンビニに着くと、すぐにコンビニの入り口前で待っている白河さんの姿が見えた。白河さんは俺のクルマに気が付くと、ぴょこぴょこと飛び跳ねるように、こちらに近づいてきた。
「ち、チーフ! おはようございます!」
助手席のドアガラスから、すぐに白河さんの元気な挨拶が聞こえてきた。
「おはよう白河さん。とりあえずクルマにどうぞ」
「し、失礼します……」
俺がそう言うと、白河さんが手を震わせながらクルマの助手席に乗り込んできた。
「えぇえ!? 二回目なのにまだ緊張してるの!?」
「だ、だってぇ……」
白河さんが助手席で肩をすぼめている。
小柄な白河さんが更に小さく見えてしまった。
「ところで遠出するって、ちゃんと親には言ってきた?」
「そ、それはちゃんとお母さんには言ってきましたが……」
「ちなみになんて言ってたの?」
「頑張れって言われました……」
頑張れってどういう意味……?
白河さんの家でのやり取りが微妙に気になるなぁ……。
「ち、チーフ、これをどうぞ……」
「これ?」
「チーフがいつも飲んでいるコーヒーを買っておきました」
「い、いいの? お金は出すよ!」
「たまには私にもお金を出させてください」
まさか学生のアルバイトにそんなことを言われてしまうとは。
お金の感覚がしっかりしているというか、なんというか……。
「……それじゃありがたく頂戴します」
「はい、そうしてくれたほうが嬉しいです」
会ってからずっと緊張していた様子の白河さんが、ようやくここで少し笑ってくれた。
「白河さんは自分の買ってきたの?」
「はい! 買ってきましたよ!」
「なに買ったの?」
「えへへ」
白河がはにかみながら、手提げバックからその飲み物を取り出した。
「チーフとお揃いです」
自分の顔の前で、両手でその缶コーヒーを持って、俺に見せつけてきた。
※※※
今日はある所に向かって、クルマを走らせていた。
俺的には今日行くところはそんなにノリ気ではない。
……が、白河さんがどうしても見てみたいというので決まった場所だ。
「普通、女子高生が市場なんかを見たいって言う?」
「えー、だって一度は見てみたいじゃないですか。自分が値下げしているのはどこからくるのかなぁって」
「真面目だなぁ」
市場……我々生鮮部門の主な仕入れ先になっているところ。
ここで本部のバイアーが商品を買い付けて、各店舗に商品を分荷していくことになる。
これは俺の肌感でしかないのだが、スーパーの出世は、バイア―コースと店長コースに分かれているような気がする。
バイアーは会社として自分が担当している部門の数字を注視する係。
店長は実店舗で店全体の数字を管理する係だ。
バイアーとは、要するに商品の買い付け係だ。
店に陳列する商品を見つけるためにメーカーと打ち合わせはしないといけないし、新鮮な魚を市場に買いに行くためにお日様が出る前から仕事をしなければならない。
会社全体としての数字責任があるので、普通のチーフとは重圧が全然違うと思う。
「チーフ、私、そんなことよりも聞きたいことがあります」
あれ? 自分で行きたいって言ったくせに早々にその話を切り替えられてしまった。
「聞きたいこと?」
「江尻さんの件はどうなったのでしょうか?」
あっ、ちゃんと覚えてたんだ。
江尻さんとは、先日俺にラブレターを渡してきた青果部門の女の子のことだ。そう言えばあれ以来、白河さんとはそのことについて話していなかった気がする。
「気になる?」
「気になります。意地悪しないで教えてください」
白河さんの語尾に少し怒気がこもっている。初めて彼女のそんな姿を見たかも。
「なーんもないよ。普通に断った」
「そうなんですか?」
「白河さんとこうしてお出かけしたりしているのに、また別の子とやりとりする余裕ないって」
「余裕があったらするんですかっ!?」
「そういう意味じゃなくて」
白河さんの大きな目が吊り上がっている。
頬もぷくーっと膨らんでいる。
……申し訳ないけどちょっと可愛い。
「あんまりそういう話はしないほうがいいかなぁと思ってたんだけど」
「なんでですか! 私、今日は真っ先にそのことを聞こうと思ってました!」
「えぇえええ、そうなの!?」
「そうです!」




