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♯12 ハート柄の手紙

六月中旬



 夕方の六時過ぎ、今日の俺は来月のシフト作りに頭を悩ませていた。

 

 七月には鮮魚部門の一大イベント……土用丑の日があるのだ。


 丑の日って実は年に、立春・立夏・立秋・立冬の四回があるらしいが、イベントとして大きくやるのは七月のイメージが強いと思う。


 この日は鮮魚部門が、一年を通して最も主役になる日と言ってもいいと思う。


 売り場にある平台は鰻一色になり、いつもは単価が高くて売れない鰻がバンバン売れる日になる。


 それに伴い、売り場の大幅な変更、POPや暖簾のれんなどの販促物も沢山必要になる。


 そして、部門員の一人は売り場に出て、試食係をやることになるのだ。


 ホットプレートを持って、鰻の焼きあがった良い匂いを売り場に充満させてもらう重要な係だ。


 去年、俺がやった企画だと、中国産と国産の鰻の食べ比べはとても好評だった。今年もそれはやろうかなぁと思っている。


「うーん……」


 この日は特に人員が必要になる日だ。

 部門員はほぼ全員で臨みたいのだが、どうも希望休を考慮するとうまくシフトが合わない。


白河しらかわさんの早出は無理だよなぁ……」


 土日は特に配置を厚くしたいんだよな……。

 でも学生アルバイトにそこまで負担をお願いするわけには――。


水野みずの君いるー?」


 パソコンの前で頭を悩ませていると、青果部門のチーフがうちの作業場にやってきた。


「あれ? 青果の親方おやかたじゃないですか。珍しいですね」 

「親方って言い方はやめてくれよ。水野みずの君と四つしか変わらないんだし。これ、うちの部門の鰻の予約の紙」

「あっ、ありがとうございます!」


 丑の日は、アルバイトを除いた全店員に予約のノルマが課せられる。

 社員なら三つ、パートさんなら必ず一つは鰻を購入するといった具合にだ。


 ある意味、自爆営業に近いことをしていると思う。


 悪しき習慣だとは思うが、その売上を見込んで計画を立てているので、これがなくなると部門責任者としては非常に困る。


 うちの会社って、売上《《額》》や利益《《額》》よりも、売上の前年比が着目されがちなんだよなぁ……。


 前年の売上比が100パーセント超えていれば優秀な部門。

 逆に100パーセントを大幅に欠けてしまうと、そこの部門責任者は真っ先に人員配置の見直しが行われてしまう。


 ……要は飛ばされてしまう可能性が出てくるのだ。


「……本当は今年からやめさせたかったんですけどね」

「やめさせる?」

「だって、青果や他の部門にまで予約を強制させるっておかしいと思いますし。でも店長が伝統だからと言うので……」


 鰻の単価ってとても高い……国産なら普通に千円を超えてくる。

 時給が高くないスーパーにとって、それはかなりの痛手になる金額だと思う。

 そもそも好き嫌いがはっきりする食べ物でもあると思うし……。


水野みずの君は真面目だなぁ」

「めんどくさいだけなんですけどね」

「俺はそういうのに慣れちゃっったよ」

「……」


 青果部門チーフの行方なめかたさんが、少し困ったような笑顔を浮かべた。


「あっ!」

「どうしたんですか?」

「そうそう! 忘れるところだった! これ、うちの若い子から」

「へ?」


 行方なめかたさんが、ハート柄の封筒を俺に渡してきた。


「何ですかこれ?」

「うちの若い子が水野みずの君のことを気になっているみたいでさ。ほら、今年入った新人の子。新入社員の中でも可愛いって有名だよ」

「はぁ……?」

「鮮魚のチーフはモテモテだね~! 後で結果は教えろよ!」


 そう言って、行方なめかたさんは自分の作業場に戻っていった。

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