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♯11 お出かけした次の日は気まずくなる

 うーん……俺、何かしたかなぁ。


 昨日のデートでがっかりさせちゃったとか?


(あり得る……)


 彼女は、職場の俺しか見たことがなかったわけだしな。

 プライベートの俺を見て、がっかりしたというのは十二分にある話だ。


(……)


 正直、ちょっと寂しいかも。


「ち、ちちちチーフ……」


 あっ、白河しらかわさんが早々に売り場から戻ってきてしまった。


「どうしたの?」

「こ、これ、値付けラベルが付いていなかったので……」

 

 白河しらかわさんが、値札のついていない銀鮭のパックを持ってきた。


「あ、ごめん! 気がつかなかった!」

「い、いえ……」


 白河しらかわさんが震える手で、そのパックを俺に渡してくる。


「そ、それでは値下げに戻ります……」

「うん」


 そう言って、白河しらかわさんは、全く俺の目を見ずに値下げに戻ってしまった。


 えぇえええ!? 目を見てもらえないほど嫌!?


 高校生の女の子が、年上の人に憧れるというのはよくある話だ。

 それが一過性のものかもしれないということもよく理解している。


(……でも、なんでこんなにがっかりしてるんだろうな俺)


 彼女の純朴さが眩しくて、その光に当てられてしまったのかも。


(いけない! いけない! 仕事は仕事)


 落ち込みそうな気持ちをなんとか奮わせて、俺は発注の業務を行うことにした。




※※※




白河しらかわさーん、そこにいつもの置いといたから飲んでね」

「は、はひぃ……」

「今日は忙しくないから、張り切らなくても大丈夫だからね」

「あ、ありがとぅございますぅ……」


 白河しらかわさんの声が震えている。

 舌も上手く回っておらず、口足らずな小さな子供みたいだ。


「あっ、今日はいつものじゃなかったかも」

「い、いつものじゃない?」

「コーヒー、得意じゃないでしょう。今日はオレンジジュースを買っておいたから」


 そう言って、白河しらかわさんにそのジュースの缶を直接渡す。


「ど、どうしたんですか今日は?」

「んー? よく考えたらみんな同じやつじゃなくても良かったかなって。白河しらかわさん、昨日はオレンジジュースを飲んでたでしょ」

「き、昨日……見てくださってたんですか……」


 白河さんの頭からプシューと煙が出たように見えた。

 顔がモーリタニア産の蒸し蛸みたいに真っ赤になってしまっている。


「きょ、今日の白河さんおかしくない? 大丈夫!?」

「す、すみません。大分、昨日のことを意識してしまって……」

「意識?」

「なんだか昨日のことが夢みたいで……今日はちゃんとチーフの顔が見ることができません」

「……」


 白河しらかわさんがぷいっと後ろを向いてしまった。


 ……。


 ……。


「ぷっ――」

「ち、チーフ?」

「あははははは! そんなことで、さっきから様子がおかしかったの?」

「わ、笑うことないじゃないですか! 一緒にお出かけした次の日は、なんとなく気まずくないですか!?」


 確かに白河しらかわさんの言っていることは分かる。


 昨日は普通に話していたのに、次の日になると職場のかしこまった話し方になる。


 お互いのプライベートな姿を見たあとに、仕事モードのお互いを見なければならい。


 二人だけの秘密を共有しているような……そんな感覚が気まずい雰囲気を作ってしまうのだと思う。


「ち、チーフはそういうのに慣れているからいいかもしれないですけど!」

「慣れてないよ。嫌われたかと思って落ち込んでた」

「え?」


 俺がそう言うと、ようやく白河しらかわさんが俺の方を振り向いてくれた。


「ど、どういうことですか?」

「あー、スッキリしたから仕事しよー」

「えぇえ!?」


 俺が作業場の端っこにあるパソコンまで戻ると、白河しらかわさんも俺の後ろをひょこひょこと付いてきた。


「わ、私がチーフのことを嫌いになんて――」

白河しらかわさん」

「は、はい!」

「そろそろ値下げに行ってきて」

「~~~っ!」


 俺がそう言うと、白河しらかわさんは素直に、裏からガラガラと音を立てて値下げの機械を持ってきた。


「やっぱりチーフは意地悪ですっ!」


 口ではそう言いつつも、白河しらかわさんの口元は笑っている。


「それに私、いつでもチーフに値下げしていただくのを待ってますから」

「へ?」


 そう俺に言い残して、白河しらかわさんは売り場に行ってしまった。


「……ぷっ」


 やっぱり白河しらかわさんは少し天然だと思う。

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