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魔法国

──アルカナイア。

神理聖典第三席次によって運営される神殿、エーテリアル神殿の周りに発展した国。

エーテリアル神殿を治める使徒のモルフィナは魔術の番人とされ、その術を会得しようと世界各地から魔術の徒が集まる為に世界随一の魔術技術を持つことで知られている。

通称、魔法国。

街をすっぽりと覆う様に城壁と結界が張り巡らされており、魔獣などの外敵を侵入させない作りになっている。のだが、シドは今、その結界に阻まれていた。


「なんでこれ入れないんだ?」

「あんた...まさか魔獣だったの...?」

異変を察知してか、衛兵や野次馬が集まってくる。

何度試しても空中に在る見えない壁によって、指先一本とて入ることが叶わない。

門から続々と集まってきた衛兵に取り囲まれ、矛先が向けられる。

「貴様、さては魔獣が人に化けているな?」

衛兵の内の一人が槍の柄を強く握ったのか、木の軋む音がする。

鋭い眼差しをもって全身を穴が開くように睨まれるシドは焦る様子はありながらも、案外涼しい顔をしていた。おそらくはこの事態をよく理解していないのだろう。

対してアリシアはいざとなったら戦うとでも言うかのように服に隠している剣に手を掛けている。

「──。」

互いが互いの出方を伺い、睨み合いが続く。

じりじりと詰まる距離は、刻一刻と迫る戦いの匂いを濃くしていく。

突如、その匂いを掻き消すほどの出来事が起こる。

匂いの中心部、シドと衛兵の間の地面から、藍黒い光が放出され、そこから現れた黒い帯のようなものが無数に渦を巻く。

野次馬に来ていた人々はその光景に脱兎のごとく慌てて逃げ始め、衛兵ももはやシドを見ていない。

帯の出できた渦の中から黒い三叉槍が突き出る。

三叉槍はその隙間から漏れた光を掻き消すように振られ、先程まであった帯の渦がまるで最初からなかったかのように跡形もなく消え去る。

その場所には一人の女性が立っている。

青と黒のドレスから出た手には先程突き出た三叉槍を持ち、藍い瞳はその白髪によって冷徹に輝きながらシドを見つめている。

ドンッと三叉槍の柄尻が地面に付けられ、音が響くのと同時に青く光る紋様が地面に現れる。

それはこの国の門を飲み込んでしまう程に大きく、この場にいる全員を包み込んでいる。

ゴーン、ゴーンと鐘のような音が鳴り響き、地面が揺れる。

紋様の中から何かがゆっくりと現れ、次第にその全容を明らかにしていく。

それは、()殿()だ。

半透明な藍いそれは、実体があるようには到底見えなかったが、確かにそこに在った。

シドの体に異変が起こる。

ジリジリと、体が熱くなっていくのだ。

身体も重く、立っていられなくなり、膝をつく。

「ちょっと、どうしたのよ、シド!」

シドの異変を察知して、アリシアが駆け寄る。

激しく肩を上下に動かして息をしている。

「──!」

すぐ近くに人の気配がしたような気がして、剣を振る──が、それは甲高い金属音によって受け止められた。アリシアの、長い鍛錬によって癖付いた魔力を帯びた剣、それは屈強な戦士のものをも凌駕する威力である。たとえ受け止められたとしてもそれを受けた相手の武器は粉々に砕け散る。しかし、目の前のそれは違った。黒い槍の柄がアリシアの剣をしっかりと受け止めている。力んで震えている様子もなく、寧ろアリシアの剣が小刻みに震えている。

向かいから強風が吹き荒れ、神殿の壁へと打ち付けられる。

あまりの衝撃によって身体に力が入らない。

かろうじて開いたその目には、シドを掴み、その容姿からは想像もつかないほど軽々と持ち上げる女性の姿が映った。

「まさか、違うのか?いや、しかし確かにこの男には奴の痕跡が...」

掴まれながら必死に藻掻くシドをよそに、なにかぶつぶつと呟き、考え込んでいるようだ。

今しかない。

そう思い、アリシアは全身の力を振り絞り、出せる魔力を全て放出して女に斬りかかる。

目で追うのさえ難しい速度。

骨の軋むような音がした。

上手く体を動かせない。

しかし、そんなものは関係ない。

ただ、まっすぐに目の前のものを斬りつける。

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