竜人
「──ロズルキ」
レミールがその姿を睨み、呟く。
「お、どうやらここが当たりのようだ。久しぶりだね?レミール。そして初めまして、シド。」
言いながら丁寧に貴族流の辞儀をする様は、貴族のような気品を感じさせる。
「お前なのか?ロズルキってのは。どうしてこんなことをする?」
「ん?あぁ、君に会うためだよ。」
「会うためって...俺はお前を知らないんだが?」
「ハハ、君は且つて──」
「っ!!」
言い終わる前にロズルキの身体が崩れ落ちる。
ロズルキのいた場所には灰燼のようなものだけが残され、甘い香りが部屋に満ちている。
シドはすぐさまロズルキの姿を探すが、見つからない。
「ロズルキはいませんよ。」
先程まで黙って様子を見ていたレミールが口を開く。
「やっと毒が効きましたか。やれやれ、竜人は頑丈で厄介ですね。」
「……毒?」
シドはレミールから突然出た単語を思わず聞き返す。
「えぇ、毒ですよ。甘くて良い香りでしょう?」
言われてシドは咄嗟に口元を手で覆い、側にいた男やアリシアを確認する。
「あぁ、安心してください。あなた方人間には大して害のないものですよ。まぁ、嗅ぎすぎるのも良くはありませんが。」
少しずつ、満たされていた匂いが別のものへと変化していく。先程まであった部屋とほぼ同じ匂いだ。
部屋に空いた穴からは外の景色が見え、壊された壁や柱の残骸を集めたり、瓦礫の下敷きになってしまった人の救助をしたりしている様子がある。神殿の損傷は激しく、一部は崩落している部分もあり、神殿としての機能を維持できるかは定かではない。
「あのロズルキはおそらく分身ですね。同時に他の神殿にも現れたとの報告が多数上がっています。そちらも神殿にいる衛兵で撃退はできたようですが、こちら以上の被害が出ていて、おそらく神殿としての機能は果たせないでしょう。」
同じように外の景色を見たレミールが語る。
あの男は何をしようとしているのか、何のためにここまでの事を平然とすることができるのか。
考えれば考えるほどシドの胸の内には怒りが堆積していく。
「レミールさん、俺は何をすればいいですか?」
意を決した様に真剣な面持ちでシドは聞く。
「まずは他の竜人と接触するのが先決かと。」
「私も、行きます。レミール様。」
アリシアが後ろから意を決したように真剣な面持ちで入る。
「あら、宜しいのですか?貴方は確か騎士団にいることが……いえ、失礼しました。」
二人からの視線を受け、レミールは話を続ける。
「先程申し上げたとおり、ほとんどの神殿はその機能を失っています。しかし、ただ一つだけ、確実に安全且つ貴方のこれからの道筋を知れる場所があります。それは──」