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使徒

何が起こった。

さっきまで一緒に馬車を囲んでいた仲間が殺された。

さっきまで目の前の騎士を殺そうと迫っていた仲間が燃え死んだ。

さっきまで襲っていたはずの俺らが襲われる側になった。

これも全て()()()()()()()()()()()()、だ。

敵の増援?それにしては早すぎるし、第一いくら強いとはいえど一人なわけない。

ならば他にもあいつの仲間が潜んでいる?

いいや、それなら今出てきていない意味が分からない。

ならば、あいつは何だ?今も仲間を殺し続けているあいつは一体...

突然、壁代わりにしていた乗用馬車の扉が開く。

この状況で貴族様に何ができるかと、待ち構える。

煌光煌耀剣(アウラ・ソラリス)

女性の声が響く。

瞬間、盗賊全てが光で包まれてゆく。

そして、()()()()()()()()()

頭上からの斬撃、いや、掃射だ。

盗賊の頭上に光の剣が現れ、それが盗賊を次々と斬り刻んでゆく。

一瞬の出来事に、認識する前に事が済むため、避けることは叶わない、圧倒的な暴力。

それと同時に流れる微かな甘い香り。

シドは突然の出来事に呆気に取られていると、声をかけられる。

「あなたは、どちら様ですか?」

見れば、馬車から白い修道服のようなものに見を包んだ赤髪の女性が降りてくる。

何より目を見張ったのは、その背中についた翼と、頭上にある円光だ。

翼は片方は黒、もう片方は白の二翼あり、飾りではなく本物のようだ。

これまで様々な種族を見てきたが、このような奇妙な体型をした種は見たことがない。

驚きで硬直していると、背後から足音が聞こえてくる。

それと同時に、聞き馴染みのある声が耳に入る。

「隊長〜!増援ですよ〜!!」

ノーマンだ。どうやら無事に本隊から増援が来たようだ。

もう片付いてしまったが。

「うおっ、すげぇ、もう片付いてる…」

何処かからそんな声が漏れてきたが、それは俺も同感だ。

一瞬にして盗賊が蹴散らされた。

おそらくはこの目の前にいる女性の仕業だろう。

一体何者なんだ?この先程の技といい、体型といい……

「これはこれは宣教官様!!!」

団長が駆け足で目の前の女性に話しかける。

「お前、何か失礼なことしてないだろうな?」

話しかけていた顔とは打って変わって俺には鋭い眼光を向けてくる。

慌てて否定するも、怪しまれているようだ。

団長はさっきの女性に話があるようで、二人で少し離れていった。

そんなところへ訝しげな視線を向ける者が一人、アリシアだ。

何故か先程からこちらを怪しんでいるようだ。

「あんた、本当になにもしてないんでしょうね?」

「してるわけないだろ?そもそも誰かも知らないのに」

「え?」

しばらくの沈黙が訪れる。

何かおかしいことでも言っただろうか。

何故アリシアはこんな未知の生物を見るような目で俺を見るんだ。

周りにいたノーマンや他の騎士もそうだ。

そんなに変なこと言ったか?

「あんた、それ本当に言ってるの?」

無言で頷く。

「はぁ、あんたがそんなに常識がなかったなんて、私も驚きだわ...」

何もため息をつかなくてもいいじゃないか。

シドの不満げな顔を見てか、アリシアはさらに深いため息をついて続ける。

「あの方は神理聖典の使徒様よ...」

神理聖典、それはこの世界の守護者と呼ばれる使徒の組織だ。だから見慣れない翼と円光があったわけだ。

ん?だとすれば何故こんなところにそんな大層な人が?

そんなところへケビン団長からの招集が入る。

テントでは、今回の調査任務に従軍している第一騎士隊、第二騎士隊の隊長、副隊長が集っていたことから、どうやらこの任務の今後に関わる重要事項のようだ。

各隊の隊長、副隊長が揃っところで団長の口が開く。

「ご苦労、皆に集まって貰ったのは他でもない、宣教官様の事だ。あの方をヘルティアの神殿まで護衛することになった。しかし、我々は調査で動くことができない。そこでだ、シド・プロモス第三騎士隊隊長!」

突然の呼び出しに少し遅れて反応する。

「貴様の指揮する第三騎士隊に宣教官様の護衛を任せることになった──」

「──待ってください!!」

アリシアが団長の声を遮るように割って入る。

この場にいる団長以外の誰もが驚いた様子でアリシアを見つめる。

「このような重要な任務であれば、通常はこの中で練度が最も優れた第二騎士隊に行かせるべきでは、と具申します。」

「いいや、貴殿の言う事は理解できるが、ダメだ。」

間髪入れずに即答される。

「何故です?!」

「ふむ…まぁ、言っても構わんだろう。使徒様のご指名だからだ。了承できるかね?アリシア・スミス第三騎士隊副隊長。」

渋々アリシアも引き下がる。

うつ向いていて顔は見えないが、強く握られた手で分かる。これは絶対にキレている。

まぁ、昔から真面目な奴だったし、急に任務から外されて怒ってるのか?

どうやら招集の内容はそれだけだった様で、そのまま解散になった。


結局アリシアがその後機嫌を直したのかもわからぬまま迎えた朝。

護衛する馬車の傍には既に使徒がいた。

彼女はゆるりと服の端を摘み上げ、頭を下げる。

頭の円光と、大きく開かれた白と黒の翼から、神々しい雰囲気を纏っている。

「初めまして、私は神理聖典第五席次、宣教官レミールです。どうぞ、レミールとお呼びください。」

ニコリと笑い掛けるその笑顔は、昨日、盗賊を殲滅せしめた魔法を使用した人物とはとても思えない。

「こちらこそ、初めまして。第三騎士隊隊長、シド・プロモスと、副隊長のアリシア・スミスです。」

俺の紹介に合わせてアリシアがお辞儀をする。

どうやら昨日の怒りは収まっているようだ。

レミールは一瞬首を傾げたが、あぁ、と納得した様子で馬車へと乗り込んでいく。

シドたちも馬を取りにこの場を去ろうとするも、レミールに呼び止められる。

「何処へ行くのですか?」

「馬を取りに……」

レミールは考え込む素振りをした後、その必要はないと続ける。

「だって、シドさんとアリシアさんにはこの馬車に乗ってもらいますから。」

「「え?」」


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