騎士団
何回か同じ世界観のものを書いて投稿していたのでもしかしたら似たものを見たことがある人がいるかもしれません。※当該作品は削除されています。
本人が読みたいような世界観のものが見つけられなかったので自分で書き始めたものです。拙い文章かと思いますが生暖かい目でお読みください。
彼らの物語に名前をつけるとすれば、どのようなものが相応しいだろうか。
窓の外に広がる街を横目に一人呟く。
この王国、いや、世界をも背負った英雄達の話を誰も知らなくては些か寂しいだろう。
例え彼らがそれを望まなくとも、実際にそれを目にした私にはこれを後世まで語り継ぐ責務があるのだ。
それこそが、この私があの方たちと共に行動を共にすることになった理由だと思うから。
「シド!そっち行ったぞ!」
前方から投げられた言葉に反応し、隊列を抜けてきた狼型の魔獣を叩き斬る。
自身の黒髪が紅色に染まる。
「これは……またなんか言われそうだな……」
返り血で汚れた装備に溜息をつきながら、剣についた血を振り払う。
「こいつらもまた、何でこんな時期にこんな量で……」
アスティナ王国領ヘルティアの領内にあるノルディス大森林では、異常事態が起きていた。
今しがた叩き斬った魔獣──ワーウルフは、森で十匹程度の群れが1,2個あるかないかの筈なのだが、今日倒しただけで軽く50は超える。あまりにも数が多すぎるのだ。
この異常事態の調査の為に、ヘルティア領の騎士団、ラドーグ騎士団が態々森に討伐に来ているのだが、一向に減る気配がない。
突然、声が響く。
「オーガだ!!」
轟音と共に二人の隊員が吹き飛ばされる。
その場所からは大きさは人間の倍以上、口から突き出る日本の牙に頭に生えた双角を高々と掲げた魔物──オーガが複数体姿を表わす。
「隊列を整えろ!包囲陣形だ!」
後方から騎士団の団長であるケビン・ランドールの声が響く。
その声に続くように隊列が形成されていく。
五人一組の対大型魔獣用の少数包囲陣形だ。
「主よ、我が騎士へ御身の加護を与えたまえ──堂柱剛体」
後方支援の魔術師から防御魔術の支援を受け、三人がかりでオークの攻撃を受け止める。
その隙に横から別の隊員がオーク目掛けて斬撃を与える。
見事なチームワークでなせる業だ。
しかし、強靭な皮膚に阻まれ、どの隊も有効打を与えられていないようだ。
やはり、数が多すぎる。
というのも、本来オーガは騎士十人がかりで倒すもの。それを防御を無理やり魔術でカバーしているに過ぎないのだ。そうなれば、カバー仕切れていない攻撃面ではどうしようとも有効打になり得る攻撃力には遠く及ばないのだ。
攻撃を止め、横から斬る。有効打を与えられないのだからこれの繰り返しになってしまう。いくら知能の低いオーガといえども何回もこれを繰り返されれば自ずと学習するもの。やがて綻びが出て、瓦解する──その時は想定より早く訪れた。
一隊の攻撃役がオーガに蹴りを入れられたのだ。
本来攻撃を受けることのない隊員に防御魔術による補助など有るわけもなく、凄まじい衝撃を生身の体だけで受けた隊員は動けなくなる。
そこへ防御役への関心を無くしたオーガがゆっくりと近付いていく。隊員へ手を伸ばし、その身体を握り潰す──刹那、この状況をケビン団長の横で静観していた女性が動き出す。
先程までそこにいた筈の彼女は、オーガの目前へと迫り、剣に手を翳す。
忽ち剣はバチバチと何かを迸らせる。
突如、雷のような轟音と稲妻のような電気の道を残し、彼女の姿が消える。
次にその姿を認めたときには、その背後にいたオーガが消え去るどころか、周囲にいたオーガをもその姿は肉塊へと変貌していた。
「ふぅ……今後の為にもあまり魔力は使いたくなかったのだけれど……」
オーガを撃滅した女性、ラドーグ騎士団第3騎士隊副隊長アリシア・スミスが青い髪を靡かせながらぼやく。
「まぁまぁ、オーガなんてこのあたりじゃ出ないし、そう言ってやんなって。」
顔に苦笑を浮かべながら宥めるも、
「あんたはあんたで隊長としての自覚を持ちなさいよ!幾らいざとなったら私達魔剣士がいるからって、ちょっとぼんやりし過ぎなんじゃない?前線にばっかり行ってないでちょっとは今後のことも考えなさいよ!」
逆効果だったようだ。百倍返しで文句が返ってきた。
魔術と剣技を合わせた強力な攻撃を行うことができる魔剣士は現在のこの異常事態においては温存を指示されている。この隊にいるアリシアを含め、騎士団では全10名しかいない魔剣士は貴重な戦力なのである。
しかし、何故俺は前線に出ているのかといえば、魔剣士は魔力さえ残っていればどうにかなるからだ。
アリシアのような魔術特化の魔剣士なら兎も角、俺のようなどちらかというと剣技がメインの魔剣士は魔術を使わなくてもある程度は戦える。なら、少しくらいは前線に居ようという事だ。まぁ、アリシアの今後のことも考えるべきという意見は御最もなのだが、些か俺の性に合わないようだ。まぁ、なるようになるだろう。
そうこうしているうちに陽も暮れ始め、森の警備も兼ねて野営をする。予め決めておいた見張りの順番通りに休憩に入る。
あるものは人目も気にせず雑魚寝し、またあるものは口いっぱいに夕飯を頬張る。
シドはさしもの騎士とはいえ、長時間の戦闘の疲れに加えて緊張の糸も切れ、すっかり眠りについてしまう。
「─長!隊長!起きてください!!」
部下であるノーマンの声で目が覚める。
あたりはすっかり暗くなり、松明の明かりもほとんど消されている。ノーマンが来たということはおそらく巡回の時間なのだろう。急いで支度をして、先に待っているノーマンの元へと向かう。
夜の森は酷く静かだ。
月明かりも木の葉に遮られて届かない。まさに暗闇の世界。
少しでも油断をすれば魔獣に食い殺される危険さえある。
突然、ノーマンが立ち止まる。
「どうした?」
「なんか、金属音が聞こえたような...」
耳を澄ませるも、何も聞こえない。
「気のせいなんじゃないのか?」
「いいや、絶対聞こえました!ちょっと見てくるっす!」
否定するもそう言って走り出していってしまった。
慌ててシドも後を追う。
五分ほど走ったところで、金属音が明瞭に聞こえ始め、松明のような明かりが見え始める。
ノーマンの聴覚に感心しながらも、剣を抜く。
血の匂いだ。声もする。
どうやら馬車列が盗賊に襲われているようだ。
中心部にある馬車は貴族などが使う乗用馬車のようであり、おそらく金目の物を狙ったのか、その貴族の身代金が目的か。
数はおよそ三十、対して馬車列の護衛と思われる騎士は十程度しかいない。
既に大部分がやられてしまっているようにも見える。
一度本隊に戻って応援を呼ぶか?しかし、それではおそらく間に合わない。
なら、やるしかないか...
「ノーマン、お前は本隊から応援を読んで来てくれ。」
「分かりました。でも、隊長はどうするんです?」
「俺はちょっと、時間を稼いでくる。」
そういいながら盗賊へ近づき、剣を振るう。