9:魂が震えるような
アルファポリスで投稿している作品を、こちらの方でも遅延投稿することにしました。
早く続きが読みたい方は、アルファポリスの方を探してみてください。
9
あの後、初日に会った例の尋問官の女の人が出てきて、酷く怒られることになった。
あの女の人、やっぱり怖くて嫌いだ。
ちなみにレベルを覗いてみたら78だった。
思ったより強くてびっくりした。
「それで、勝負はお前の勝ちだったわけだが……お前、俺に何命令するつもりだ?」
説教から解放されて、バツとして城郭の再建築の手伝いをさせられている最中。
タウロは、砕けたレンガにモルタルを塗りながら、そんなことを俺に尋ねてきた。
「そうですね。最初は、そのモフモフな腹毛を堪能させてもらおうとか考えてましたけど」
「なんだそんなのでいいのか?」
「今回の模擬戦で気が変わりました」
『ほら、いいぜやれよ』と両手を広げる彼を無視して、言葉を続ける。
今回の戦闘で、思い知ったことがいくつかあった。
所詮、俺はゲームの知識しかなくて、実戦の経験なんて欠片もない。
あるのはレベルと、ゲームで培った、相手の次の行動を予測する目くらいで、純粋な魔法使いタイプの俺には、今回みたいに接近された場合や、相手を生かしてとらえることを考えた時にとれる行動の引き出しが少ないのである。
だから、俺が今回彼に求めようと思うのは、そんな刹那的な願望を満たすものじゃなく、今後、自分の生死に関する状況に相対したときに生き残れる術を得ようと考えたのだ。
「なんだ?」
怪訝そうにこちらを見る彼に、俺はこう答えた。
「私に、剣の稽古をつけてください」
沈黙が流れる。
驚いて声が出ない、というよりも、どちらかと言えば呆れて声が出ない、といった表情なのが気にかかり、俺は『何か問題でも?』と返答を催促した。
するとタウロは大きなため息をついて、後頭部を掻きながら、さて、どう答えたものか、と悩むような表情を作りながら、しぶしぶといった様相で口を開いた。
「やめとけ、お前に剣の才能はねぇ」
言われて、ムッとする。
「た、確かにお……私は運動が苦手ですけど、そこまで言われるほど神経無いわけじゃ──」
「違う、そうじゃねぇよ」
反論に待ったをかけて、説明の仕方を少し悩み、ゆっくりと口を開いた。
「体の使い方の問題だ。それによって、人には適性のある武器ってのが変わってくんだよ。なんつうの? 反射神経? とか、癖とか、まぁ、そういうのがあってだな。だいたい見りゃ、何があってるかはすぐわかるもんなのさ。
特に、お前の場合は小さい動きが苦手な癖があるから、やるならデカい武器……そうだな。
槍か、あるいは大鎌なんかが向いてんだろ」
「槍か大鎌……」
言われて、どうやら頭ごなしに却下されているわけではないらしい事が分かり、少しだけ安心する。
「どうする? それでもいいなら教えてやれんこともないが。あと、お前もちんたらしてねぇで、ちょっとくらい手伝えよ。壊したの大半お前なんだからよぉ」
城郭の修理に戻りながら、タウロがそう提案してくる。
槍か大鎌。
確かに、それなら今使ってるこの杖とも、形状的には相性がよさそうだし、剣よりもそっちを習った方がいいのかもしれない。
俺は、うんと頷くと、杖を地面に突き刺して、魔法名を唱えた。
「【サモン:グレムリンズ】」
黄色い魔法陣が展開されて、中から黄色いチョッキを着てゴーグルをつけた兎の集団(30羽くらい)がやってくる。
「うぉお!? なんだそいつら、魔物か!?」
いきなり登場した得体の知らない存在に驚くタウロに、ちょっとクスリと笑って解説する。
「魔物じゃなくて、私が使役している精霊です。物を作ることが得意な種族なので、ここは彼らに任せようかな、と」
「精霊……。初めて見たぜ、御伽噺じゃなかったんだな」
俺の周りに集まってくる兎たちに指示を出しているのを横目に見ながら、ぽつりとつぶやく。
召喚魔法スキルの取得は、特定のクエストをクリアする必要があるし、現実になったこの世界では、かなり条件が厳しいのだろう。
「グレムリンたち、この城郭を直して」
「「キュー!」」
指示を出すと、グレムリンたちがどこから出したのかわからない工具を手に掲げ、敬礼。
一斉に瓦礫の山へと駆けていった。
……何あれ、可愛すぎるんですけど。
これからちょっと、ペットとして何匹か手元に残しておこうかな。
作業を始めるグレムリンたちを眺めながら、そんなことを考える。
現実になったんだし、本来の用途以外の使い方とかもできないだろうか。
「魔法使いサマは便利な魔法をたくさんお持ちでいらっしゃる」
「タウロだって魔法が使えるじゃないですか」
「それは嫌味か?」
「いえ、そんなつもりは」
グレムリンはモノづくりに長けた召喚獣だ。
ゲームだった頃の使い方は、アイテム作成画面で『グレムリンに手伝ってもらう』というボタンを押すことで、アイテム作成にかかる時間が短縮されるというものだった。
確か、一匹で1%の短縮だったから、今の状態だと30%の短縮になるのか。
(ふむ。本来とは違う用途に利用か……)
考える。
ゲーム時代、戦闘時に限り、召喚獣の姿を真似て、召喚獣の能力をコピーできるジョーカーという召喚獣がいた。
こいつにグレムリンの能力をコピーしてもらって、時間を短縮できるかどうか、試してみようか。
……とは思ったけど。
ちらり、と横で休んでいるタウロを見ながら考えを改める。
もしそんなことが可能なのだとしたら、これはちょっとした奥の手になる可能性がある。
味方であるとはいえ、わざわざ手の内を晒すのも気が引けるし、この実験に関しては、また後日こっそりすることにしよう。
「それで、稽古は受けんのか、受けねぇのか?」
再度尋ねてくるタウロに俺は首を縦に振った。
「もちろん、受けます」
「なら、明日の朝日の出と同時にここ集合な。遅れんなよ?」
***
翌朝。
中庭に到着してみると、従騎士の少年たちが整列して、例のナントカ伍長との朝練に励んでいた。
そういえば、ミハイルさんたちに”あの伍長”と言わしめた彼は、いったいどれほどのレベルなのだろうか。
気になってレベルを確認してみると、その数字は──21だった。
「そ、そんなに変わらねぇ……」
思わず声に出てしまう。
まぁ、昨日の戦闘で、レベルに純粋的な強さはあまり関係がないっぽいことは、何となくわかったけど、なんかこう、違和感がぬぐえないというか。
この世界のレベルって、どういう基準でつけられているんだろう。
あとでシオヤキさんにメールで聞いてみよう。
そんな風に思いながらタウロを待っていると、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おぉい、マーリン!」
振り返る。
するとちょうど彼が長い木の棒を投げてきたところだった。
「わっとぉ!?」
慌てて、指が絡まって取りこぼしそうになるが、何とか両手でキャッチする。
よく見ると先細りになっていて、先端に丸いクッションのようなものが括り付けられている。
おそらく、こっちが穂先という事なのだろう。
「まずは、それを片手でキャッチできるくらいにはならねぇとな」
「が、頑張ります……」
それから俺は、毎朝タウロから槍の手ほどきを受けることになった。
***
「そういえば、マーリンは冒険者にはならねぇのか?」
稽古が終わって、食堂。
山のように盛られたステーキとパンを食べながら、タウロはそんなことを聞いてきた。
「……そういうのは、まだ考えてないです」
「ふぅん、なんで?」
「それは……」
聞かれて、何と答えればいいかわからなくて、言葉に詰まる。
学校になじめなかったらと思うと怖いから、なんて言ったら、怒られるかもしれないし。それはちょっと、怖い。
「ま、言いたくなきゃ構わねぇさ。人には様々な事情ってモンがある。それをむやみに聞き出すのは野暮ってモンだ」
「……はい」
みんな、優しいな。
その優しさが、なんだか胸に染みて、自分がなんだか情けなく感じてくる。
そんな風にして、なんだか暗い感情を胸の内にため込んでいると、そんな俺の様子を察したのか、タウロは、軽く俺の背中を叩いた。
「お前はまだ子供なんだ。ま、ゆっくりやっていけばいいさ。それに──」
タウロの言葉が一瞬、途切れる。
短い沈黙に、俺は彼の顔を見上げた。
「俺は、お前の師匠だ。もし何かあったら、全部俺に言え、絶対何とかしてやっからさ」
ニッ、と笑みを浮かべるその笑顔がまぶしくて。
俺はその時初めて、心の奥底から、魂が震えるような尊敬の念を抱いたのだった。
「……はい……っ!」
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