8:言いたいことはそれだけですか?
アルファポリスで投稿している作品を、こちらの方でも遅延投稿することにしました。
早く続きが読みたい方は、アルファポリスの方を探してみてください。
8
騎士団駐屯地の中庭。
その一角で、俺と彼は対峙していた。
「ずいぶんと余裕そうじゃねぇか。ガキが調子乗って、後でピーピー泣きわめいても知らねぇぜ?」
彼、犬獣人族の男の名前はタウロ。
大柄な犬が二足歩行したみたいな容姿で、モフモフの青い体毛と白い腹毛が特徴的だ。
……腹毛が、というのは、なぜかこの男、いい気になって上半身をさらしているからである。
筋肉ムキムキな人は脱ぎ癖がある、というのはたまに耳にするが、たぶんきっと、彼もそういう類なのだろう。
……ならば、こちらも対抗して魔力の量を見せてやろうではないか。
なんて一瞬思ったが、しかし、それはちょっと、あんまりかっこよくないな、と考え直す。
雑魚相手に魔力量で威嚇?
違うだろう。
そこは徹底的に格の違いってやつを見せつけて、『どうだ、降参するか?』と煽ってやるのが正しい強キャラムーブではないだろうか。
だとすれば、ここで言うべき返答は、こうだ。
「言いたいことはそれだけですか?」
煽り慣れていないせいか、ちょっと声が震えてしまったが、まぁ、これから慣れていけばいい。
俺は今、ここにいる誰よりも強いのだから。
わずかに震えた俺の声に気が付いたのだろう。
強気に張り合っていると解釈したタウロは、ニヤリと何か企んでいるような笑みを浮かべて、こう返した。
「いや……。ただ戦うだけじゃ面白くねぇ。
勝った方が負けた方の言う事になんでも従う。それでどうだ?」
「なんでも?」
「あぁ。法に抵触しない限り、何でもだ」
言われて、考える。
何でも言う事を聞く、か。
俺がタウロに勝ったら何お願いしようかな。やっぱり、モフモフさせてくれ、だろうか。
なんかあいつの腹毛、めっちゃ気持ちよさそうだし。
俺はニヤリと笑みを浮かべると、その申し出を承諾した。
「いいですよ。できるものなら、ですけど」
二人を囲う野次馬の人垣が、触りとどよめいた。
きっと、タウロの実力をみんな知っているから、そんな風に煽っていく俺を見て心配しているのだろう。
しかし、案ずることなかれ。
これでもゲームの中じゃあ対人戦でもそこそこ成績は上位に食い込んでいたんだ。
たかがレベル二桁前半の相手に負ける道理はない!
「開始!」
審判役の騎士が槍をあげて、試合開始を告げた──次の瞬間だった。
タウロは腰の木剣を抜いて、ものすごい勢いでこちらに向かって突っ込んできた。
「ッ!?」
【アストゥート】。
剣術スキルレベル2で取得できる、突進垂直斬りの物理攻撃スキルである。
この距離と速さでは詠唱が間に合わない。
俺はとっさに横に跳びながら、次に来るだろう攻撃に備えて、防御魔法を詠唱した。
「【ウォール】!」
直後、展開された障壁に、地面から跳ね上がるような斬撃、ほぼ同時に上から降り降ろすような斬撃が来る。
(今度は【スネークバイト】か!)
同じく剣術スキルレベル2で取得できるスキルが連続的に行使されるのを、っさらに一歩下がりながら回避する。
【ウォール】が守ってくれるのは一撃だけ。
二連撃技の【スネークバイト】から身を守るには力不足なのである。
「【ソーンバインド】!」
バックステップで回避しつつ、束縛魔法を行使する。
足元から太い茨の束が生えてきて、彼の動きを拘束しようとするが──。
「温いわ!」
ぐるりと回転するように剣を振り回して、茨の束を切り裂いたのである。
刀術スキルレベル8で取得できるスキル、【円陣破り】だ。
拘束系の効果を持つスキルを解除する追加効果がある。
(【アイスカーペット】【スタンシュート】のコンボは使えないか……! なら、これはどうだ!)
「【スネア】【ウィンドカッター】!」
突如、追撃しようとしたタウロの動きが急激に遅くなる。
支援魔法スキルレベル9で取得できる阻害魔法、【スネア】の効果だ。
これにより相手のAGIのパラメーターが一時的に10%ダウンする。
さらにこれに加えて見えない上に速い風属性魔法の【ウィンドカッター】。
弾けるものなら弾いてみろ……!
「【ストーンスキン】!」
(魔法!?)
風の刃が到達するぎりぎりの瞬間、タウロの肌が石のような灰色の魔力でコーティングされ、俺の魔法を弾く。
【ストーンスキン】。
支援魔法スキルレベル5で取得できる防御魔法。
何もできなくなる代わりに、3秒間だけ、自分に対する全ての攻撃を無効化することができる。
純粋な剣士だと思っていたから、これに関しては完全に想定外である。
なるほど、自信にあふれていたわけだ。
……しかし、魔法使い相手に3秒も与えるとは、愚策だったな。
「【エクスプロードマイン】」
バックステップで距離を取りながら、タウロの周辺に罠を張る。
これで、一歩でも動けば俺が設置した地雷魔法に呑まれて、最悪足に本を失う事だろう。しかしこれについて対策している可能性がある。
だから俺はさらに先を予想して、魔法を準備する。
「【トルネードマイン】」
これで地上と空中に罠が張れた。
これでどうあがいても四肢のうちどれか一つは確実にもげるだろう。
それでもまだ来るのならば……!
3秒が経過し、彼の【ストーンスキン】が解除される。
直後、タウロの周囲で爆発が起き、炎の竜巻が上がった。
きっと野次馬は全員、彼が死んだと思ったことだろう。
しかし俺にはあの一瞬、彼が踏み込むような動作をしていたのが見えていた。
「【リフレクション】!」
ギリギリ発動が間に合った防御魔法に、ガツン! と重たい衝撃が頭の上からやってきた。
「ケッ、これに反応するか、マーリン!」
「そっちこそ!」
互いに、ニヤリと笑みが浮かぶのを感じる。
あぁ、楽しい!
もっとやり合いたい!
はじき返されたタウロが、再びこちらへと詰め寄てくる。
俺はそれを防御魔法で受け、いなし、デバフで隙を作って攻撃を仕掛けることを繰り返す。
彼が、俺のレベルの魔法攻撃に追いつけているのは、ひとえに戦場の勘だった。
俺はただただ、それをレベル差という数字で追いすがっているにすぎなかったが、しかし次第に、タウロは体力が、俺は魔力が底をつき始める。
戦い始めて、どれくらい時間がたったかもわからない今。
俺たちは互いに互いの戦い方を学習して、学習して、学習しまくっていた。
「だったらこういうのはどうだ!?」
無詠唱。
戦っている最中に気づいた方法で魔法を操作して、大量の氷の槍をタウロにぶつけていく。
一方で彼も自慢の剣術で魔法を弾き、雨の中を突進する選択を取った。
「まだまだぁ!」
杖と剣がつばぜり合いをするかに思えた瞬間、地面から伸びてきた石柱にタウロが反応して、回転するように身をこなし、横薙ぎの斬撃に切り替える。
どうせ躱されると思って倒れも俺で、後ろに跳んで回避しつつ、【リフレクション】を張って迎撃、【ウォーターボール】で攻め続け、よけた先にある【エクスプロードマイン】に誘導する。
爆炎が起こり、タウロの体が火に包まれる。
しかし、もうすでにトラップだらけの地面を走りまわされていることは承知しているのか、反応が早い。
すぐに炎の中から抜け出そうとバックステップを踏む──が、逃げられない。
「なっ……チ!?」
炎がタウロに絡みついて、はがれないのである。
支援魔法スキルレベル87で取得できる魔法【インテングルフレイム】。
この魔法は相手に炎上の状態異常を与える魔法で、炎属性の魔法と併用して仕掛けることで、デバフの効果時間と威力を10%加算させる。
炎上は継続的に、1秒最大HPの15%のダメージを与え、その持続時間は5秒。
対抗手段がない相手には、最大HPの60%以上のダメージを与えられる計算である。
「こう何度も逃げられると腹が立つんでね、ちょっとだけ油断を誘わせてもらったよ!」
ちょっと大人げないが、まあ、初級魔法の範囲である。
きっと許してくれるよね。
「ぐあっ、あぁ熱い……が、これくらい……!」
捨て身の勢いで、こちらに突進してくる。
しかし残念だけど、もうお前の負けだ。
「もう少し遊んであげても良かったけど、そろそろお開きだ」
杖の先端に、水滴が集まり、凝集する。
水魔法スキルレベル2で習得できる【ウォーターボール】に似ているが、ぱちぱちとわずかな電気を帯びていることからも、別の魔法であることがうかがえるだろう。
「複合魔法【ユニ・テンペスト】」
野球ボールほどにまで圧縮された水球が、炎上しているタウロに向かって飛んでいく。
そしてそれが彼にぶつかった瞬間、轟音と共に光の柱が昇った。
このゲームにおける最大の特徴。
それは、魔力反応と術式の組み合わせを自分で自由に組み合わせることで、新しい魔法を造り出せることである。
魔法系のスキルレベルをすべてレベル100まで到達させることによって使えるようになるこのシステムは、まさに、魔法使いに憧れた子供のころからの夢を実現させる画期的なシステムで、ゲーム時代はこれで作った魔法をスクロールというアイテムに換えて販売するというのがかなり流行っていたものである。
この魔法は、そうやって作られた魔法の一つであり、俺のオリジナル魔法の第1作目でもあった。
水属性と雷属性の魔力反応によって電気分解を起こす、というだけの魔法だが、これは燃えている相手にぶつけることでさらに魔力反応を起こさせ、水素爆発という魔力反応に転化させるのである。
これによって、この魔法一つでは大したことのない威力でも、相手の状態によって与えられるダメージ量が大きく変わり、場合によっては一撃で相手をしとめることも可能になるのである。
まぁ、今回ばかりは、それをやってしまうとタウロが死にかねないので、直前でタウロに魔法攻撃を一度だけ無効化する【マナ・プリヴェンティブ】を引っ掛けてしのいだけれど。
「……」
轟音と閃光が、徐々に収まる。
すると、その中心から丸焦げになったタウロが、気絶した状態で姿を現し、その場に崩れ落ちた。
「……ほら、審判さん。判定を」
完璧に決まった、と審判がいるであろう場所に目を向けて、判決を催促する。
しかしそこにはもうすでに誰もおらず、あるのは瓦礫の山と荒れ野原だけだった。
どうやら、さっきの模擬戦の影響か、飛び火した魔法によって、城郭もろとも破壊してしまったらしい。
戦闘に集中しすぎて気が付かなかったが、これ、ひょっとして俺、やってしまったのでは?
「……さすがに、これは賠償請求だけじゃすまなさそうだなぁ」
途方に暮れるが、もう遅い。
俺はアイテムストレージから最大HPの50%を回復させるミドルポーションを取り出すと、タウロの体にぶちまけた。
頭の上にあるHPバーを確認する。
どうやら9割方回復してくれたようだ。
俺はそのことを確認すると、とりあえずそろそろ来るであろう偉い人を、タウロの横で座って待つことにした。
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