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3:魔法とは、パズルゲームのようなもの。

 アルファポリスで投稿している作品を、こちらの方でも遅延投稿することにしました。

 早く続きが読みたい方は、アルファポリスの方を探してみてください。

挿絵(By みてみん)


 3


 翌朝、目が覚めると元の世界に戻っていた、なんていう事はなくて、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 昨日はいろいろあって疲れた。

 きっと今日も、初めてをたくさん経験するのだろう。

 そんなことを考えながら、身支度を整える。


 部屋に内接された洗面所で顔を洗い、寝癖を整える。


(……そういえば、この世界、中世っぽい雰囲気の割にはやたらと文明レベルが高い気がするんだけど、もしかして中世じゃなかったり?)


 蛇口を閉め、掛けられていたタオルで顔を拭きながら、思考を巡らせる。


 明らかに縫製がしっかりしたタオル。

 お湯と水を切り替えることができる、金属製の蛇口。

 加えて、目の前に輝く、奇麗なガラスの鏡。


 元の世界では当たり前すぎてスルーしていたが、そういえば写真だって結構最近できたもののはずではないだろうか?

 あのモノクロ写真、やたら画質が良かったし。

 ゲーム時代、カメラなんてアイテムは一度も登場したことはなかったはずだ。

 スクリーンショットは普通に使えたけど、世界観的に違和感がある。


 ……まあ、考えても仕方ないか。


 柔らかくていい匂いのするタオルをもとの位置にかけなおすと、ドライヤーと櫛で寝癖を整えた。

 余談だが、俺の今の髪はウェイブがかかっているものだから、櫛を通すのがかなり大変だった。

 髪の毛が引っかかって、とても痛い思いをしたので、今度からは別の方法を模索することにしようと心に決めた。

 あと、あるならカチューシャも欲しい。

 髪が長いと、顔洗ってるときに髪まで濡れるし、それ伝って服までべちょべちょになるのはいただけない。


 ゲームの時みたいにウィンドウが開けるなら、ゲーム時代ため込んだ装備品で替えが利くのに、今となってはこれが一張羅だ。


 せめてもの救いは、最強装備を揃えて設定しているところか。


 鏡の前で、改めて自分の装備を確認する。


 青を基調としたこのローブは、大魔術師のローブと呼ばれるアイテムで、MPの自然回復速度を250%高め、ついでに魔法攻撃力を50%強化してくれる。

 もともとベージュ系の色だったものを、イベントクエストで手に入る特別な染色アイテムで、自分のイメージカラーに合わせて染め直したものだ。

 首からかけているこの金属製のリングも、同じく魔法系の強化アイテムで、名前を大魔術師のタリスマンという。

 魔法耐性を250%底上げして、MPの総量をレベル×10%強化してくれる。

 俺の現在のレベルが、最高レベルの999だったから、強化倍率は99.9倍である。


「……?」


 そこで、ふと頭の上に疑問符が思い浮かぶ。

 俺の魔力量は、たかだか初級魔法数発程度で弾切れを起こすほど少なくはないはずである。

 それなのに、昨日のレッドファング戦では息切れするほど疲れてしまった。


 あの時はいろいろいっぱいだったからそこまで考える余裕はなかったが、今思えばかなり変だ。


 せめて、今のステータスを確認する方法でもあれば話は別なんだけど……。


 それについては、昨日の晩に散々試した。

 しかし、何をやってもステータス画面すら開けられない。

 魔法を使った時みたいに、何かを思い出すような感覚でやり方が分かるのではと半分期待していたのだが、完璧に裏切られた始末である。


 ──と、その時だった。

 不意に、腹からスライムを絞ったみたいな音が出たのは。


 最近、なんだかよく腹が減る。

 前はかなり小食だったはずなのに、昨晩は珍しく三回もお替りしたからなぁ。


「この体、本当にどうなってるんだろう」


 疑問に思うが、解消する手段を持ち合わせていない。

 俺は仕方ないとため息を吐くと、朝食を摂りに食堂へ向かうべく部屋を出た。


 見張りの兵士はまだそこに立っていて、朝から知らない人に会うのは緊張するなぁ、と思いながら、挨拶してくる彼らに、小さく頭を下げる。


 正直、彼らについてはあまり信用はなく、まだちょっと警戒していたりする。

 とはいえ、警戒したところで何もできないのだけれど。


「これからどちらに?」

「え、えっと、その、朝ごはんを食べに、食堂へ……」


 槍、それも刃引きしていないものを持っている彼らにビビリながら、行き先を告げる。

 すると彼は、『そうですか、ではお供いたします』と言って、俺の後ろについた。


 うぅん、凶器持ってる人に後ろに立たれるの、なんか怖いなぁ。

 急にドスって背中刺されたらどうしよう……。


(念の為……)


 俺は物理攻撃を一回だけ無効化する防御魔法【プリヴェンティブ】を小声で唱えることにした。


 これで、万が一があっても大丈夫だろう。


 ***


 石造りの廊下を歩きながら、食堂に向かう道中。

 何かちかちかと光が目に当たるのが気になって、街側の壁にだけある窓の方にちらりと視線を移した時だった。

 駐屯地の敷地、少し庭になっている場所で、数人の兵士が剣で切り合っているのが見えた。


 全員鎧の上からローブのようなものを羽織っていて、時折その隙間から日光が反射してキラキラと輝いているのである。


「あぁ、あれは朝練ですね。新人教育の一環で、生活習慣作りと体力づくりを目的に、起床直後から行われる鍛錬なのです」


 気になっているのが分かったのだろう。

 見張りの兵士が気を利かせて説明してくれる。


 見張りだけでなく、きっと駐屯地の案内も仕事の中に組み込まれているのだろう。

 なかなか合理的な判断である。

 ……なんて感心していたその時だった。

 不意に、もう一人の見張りの騎士がそばまでやってきて、こんな提案を持ちかけてきたのは。


「マーリン殿は魔法が使えるのだと聞き及んでいます。どうです、試しに参加してみませんか?」

「え?」


 動揺して、杖を落としかける。

 確かに使えないことはない。

 しかし、今の俺がどれだけ戦えるかなんてわからない。

 ここはもうゲームの世界じゃない。

 動かすのはキーボードでもマウスでもなく、自分の体なのだ。

 俺はそんなに運動神経がいいわけではないし、喧嘩らしい喧嘩だってしたことがないのだから、急にそんなことを言われても困る。


 ……しかし、自分が今、どれくらい戦えるか気になるのもまた事実で。


「……えっと、じゃあ、その、お願いします」


 せっかく異世界に来たのだから、もっと魔法を使ってみたいというその欲求に、俺は逆らうことができなかった。


 ***


 そんなわけで、食堂に行く前の軽い運動という体で、新人たちの朝練に混ぜてもらうことになった。


「これより、対魔法使い戦を想定した実践訓練を行う。

 協力してくださるのは我らが騎士団長のご友人、マーリン殿だ。こう見えて、一瞬にして暴漢三人を制圧することができる手練れの魔法使いである! 決して見た目で判断して驕らぬよう心掛けよ!」


 芝生の上。

 城郭の壁際に立って、新人騎士たちにそう指示を下すのは、彼らの教官役でもあるロバートソン伍長。


 なんか俺のことをすごい人みたいに紹介しているが、実際はそんなでもないので、あまり誇張しすぎないでほしい。

 なんか目がぎらついててすごく怖いから。


 ちなみに彼らは正確には騎士ではなく従騎士と呼ばれる身分の人たちで、別名盾持ち、あるいはエクスワイヤと呼ばれている。

 彼らの仕事の基本は、騎士に仕えて、その人の装備を持ち運んだり、鎧を着せたりする傍仕えである。

 聞く話によると、どうやら近々従騎士から騎士にランクアップする予定なのだとか。


「あぅぇっと……その、マーリンです。よろしくお願いします……」


 何か挨拶を、と目線で訴えかけられ、何を話せばいいかわからず、とりあえず名乗ることにする。

 正直長年人と会話なんてしてこなかったから、急に振られても台本用意してないし、何言っていいかわからなくて困る。

 次からはちゃんと予告してほしい。


「「よろしくお願いします!!」」


 大きな声であいさつが飛んでくる。

 みんな、元の世界にいたころの俺と同じ年くらいなのに、背もでかいしなかなかパワフルである。

 こんなのとこれから戦うなんて言い出したのいったい誰だよ、ぶん殴ってやりたい。


 とりあえず笑みを浮かべて相手をする。

 あぁ、頬がこわばっているのが自分でもわかる。

 きっとぎこちない顔になっているんだろうなぁ。


 そんなわけで、人生初の実践訓練が幕を開けた。


 模擬戦は一対一で行われることになった。

 魔力にまだ余裕がありそうなら二人目以降も続ける手筈である。


 まず初めに選ばれたのは、剣使いの少年だった。

 少年とは言え体は大きく、既に大人の風体であり、小柄な中でもさらに小柄な俺の目には、まるで巨人のように映っていた。


「それでは、第一回戦、開始!」


 何とかという名前の伍長さんの合図を皮切りに、剣士が雄叫びをあげながら突っ込んでくる。

 魔法使いは遠距離攻撃に特化しているから、まずは距離を詰めようとするのは正しい戦法だ。

 しかし、剣士というのは近距離で、すなわち近づかなければ攻撃できない。

 だから、相手の攻撃というのはだいたい絞られてくる。

 俺はと言えば、その直線上のルートに、ただ魔法を設置するだけでいいのだ。


「【アイスカーペット】【スタンシュート】」


 剣士の足が氷で縫いつけられる。

 勢いあまって転んだ騎士は、そのまま俺の魔法に直撃して気絶した。


 魔力の減りは……昨日ほど感じられないな。

 スタミナもまだある。


 ……昨日とのこの違いは、いったい何なのだろうか。


 少し考えてみるが、答えは出ない。


 でも、とりあえずまだまだやれることだけは確かだ。


「そこまで! 勝者、マーリン殿!」


 伍長さんの判定を聞いて、まだ大丈夫だと頷いて答える。

 果たして伝わったかどうかはわからなかったが、頷き返してくれたのでたぶん大丈夫だろう。


 一方で見学していた従騎士たちの方へと視線をやると、こっちはあまりにも呆気ない終わり方に、ぽかんとした表情である。

 伍長さんの方を見れば、ちょっとため息をついていたし、きっと彼の戦闘能力は、というよりも、今の彼らの実力が、伍長さんにとって期待外れもいいところだったのだろう。


「だから驕るなと言ったのに。いいかお前ら! 相手は魔法使いだ! 油断せず、ちゃんと頭を使って戦え! 次!」


 それからも、俺を倒すべく挑んできた騎士たちは、あるものはジグザグに接近することで回避を試みたり、ジャンプして【アイスカーペット】を回避しようとしたりと、さまざまに知恵を絞っていたが、しかし皆、為す術なく破れていった。

 正直言って、弱すぎた。

 というのも仕方ない話である。

 この【アイスカーペット】【スタンシュート】コンボは、俺が編み出したコンビネーションの中で、対人戦においては最強を誇る使い方だからだ。

 もし仮に【スタンシュート】をパリィされたとしても、その先には絶対よけられない【アイスピラー】が待っているし、【アイスカーペット】の時点で突破されるようなら、【マッドカーペット】や【ショックエリア】といった、嫌なデバフコンボがある。

 魔法使いの基本は近づかれないこと。

 それさえ守っていれば、だいたい勝てるのである。


 問題は、遠距離攻撃を仕掛けられるタイプの敵が現れた時だ。


「どいつもこいつも不甲斐ない。こうなったら、俺が直々に手本を見せてやろう」


 見かねた伍長さんが腰の鞘から剣を抜く。


 もちろん訓練用の木剣だったが、なぜか彼が持つと、まるで真剣のような嫌な凶気が纏わりついているように感じた。

 その正体はたぶん──。


(研がれてる……)


 木剣なのに、光を反射してきらめいている。

 あれで殴られたら、痣ができるというよりも刀傷みたいになってしまいそうである。


 それは流石に反則、とは思うが、しかし武器の整備も武人の腕の一つ。

 どのような武器を準備し、どんな作戦を使うか。そこもすでに勝負の領域なのだと、彼を見て察する。


 だとすると、きっとあの反射光で何かしてくるに違いない。

 考えられるのは、目つぶしか。


 ゲームにはなかった戦法。

 目眩とか暗闇なんていう状態異常はあるにはあったが、しかし攻撃の命中率が下がるだけで、画面自体は見えていたから、対策なんてほとんどしなかった。

 あるとすれば、事前に対策用の保険魔法を使うか、治るまで離れて時間稼ぎくらい。

 俺の場合はMPが勿体ないのと、詠唱時間が隙になるので、ほとんど後者の戦法を取っていた。


 困ったな、どう対策したものか。


 一瞬、考える。

 ちなみに目くらましの対策魔法はゲーム上存在しない。

 あるとするなら使われる前に攻撃をあてて失敗させるくらいだが、この距離を考えるとほぼ不可能に近い。


「だれか審判を頼む」

「では自分が」


 見張りだった騎士が名乗りを上げて、審判役を交代する。


 正面に立って、伍長さんが剣を構えた。


「痛くはしないので、ご安心を」

「お、お手柔らかに……」


 にこりと笑みを浮かべるその瞳が笑っていない。

 その奥にある見透かしたような感情が、騎士ってこんなもんか、と少し調子に乗り始めていた俺の心を引き締めさせる。


 ……油断は禁物、ね。


 杖を構え、作戦を組み立てる。

 自分が相手ならどう立ち回るか、全てのパターンを用意し、組み合わせ、準備する。


 まるで、パズルゲームのように──。


「いざ尋常に、始め!」


 審判が槍を上げる。

 直後、予想通り伍長が木剣を傾けて目くらましを仕掛けてきて、思わず目をつむる。


 ここから予想される敵の動きは大まかに四パターン。

 一、そのまま接近。

 二、背後に回って奇襲。

 三、石を拾って投げてくる。

 四、上空から攻撃……は、アニメじゃあるまいし、とは思うが魔法がある世界だ。可能性はある。

 これらの事から導き出される最適解は、ただ一つ。


「【インパクト】!」


 無属性魔法スキルLv.1で取得できるゼロ距離範囲攻撃魔法である。

 間近まで接近された際に距離をとる用途で使われるこの魔法は、熟練度レベル十の状態ではノックバックの追加効果が100%発生し、さらに飛び道具による攻撃を一度だけ無効化する。


 魔力が収束し、弾ける感触。

 その中に何かが触れる感覚があり、俺はそちらに向けて杖を振りつつバックステップした。


「【ソーンバインド】!」

「がっ!?」


 視力は戻らないが、外した感覚。

 かすめたか。

 ならば追撃が来るはず。


「【インパクト】【アイスカーペット】!」


 魔法でパリィを決め、追撃されないように足止めする。

 しかし手まで封じてはいない、木剣を投げてくると予想して、横に飛ぶ。

 力むような息遣い、直後、横を通り抜ける物体の気配。


 しかしあれだけ作戦作戦と連呼していた伍長さんだ。

 唯一の攻撃手段である剣を手放すとは思えない。

 という事はブラフ、たぶん投げたのは鞘の方。

 また投げてくるはず。


 さっきの呼吸音、気配、タイミングに意識を集中し、魔法名を唱える。


「【インパクト】!」


 カン! と何かがぶつかる衝撃。

 はじき返される棒状の物体の気配。


「ふへ」


 武者震いがして、思わずニヤリと笑みを浮かべる。


 これでもう相手は武器を持っていない。

 相手の位置もなんとなくわかる。

 動いていないなら、当てられる……!


 俺は杖を掲げて照準すると、魔法名を唱えた。


「【ウォーターボール】……!」


 水属性魔法Lv.2で習得できる攻撃魔法の一つ。

 俺が使える魔法の中ではかなり弱い攻撃魔法ではあるが、対人での模擬試合にならばこの程度で十分だろう。


 体の中から体力をもぎ取られる感覚。

 力が川の流れのように心臓から腕を伝って、杖の先端へ。

 ぎゅるぎゅると圧縮されて、魔法が形になる感触。


 思ったより、力が吸い取られる……!


 そう思った、次の瞬間だった。


 衝撃で、杖が跳ね上がったのである。


「うひゃぁ!?」


 思ったよりも威力のあったそれに、驚いて変な声が出て、途中から意識して閉じたままにしていた目が、思わず開いた。


 するとそれは、ものすごい勢いで伍長さんの頭の上を通過していき、城郭にヒット。

 壁に大きな穴をあけてしまうのだった。


「……や、やっちゃった……」

 本作品をお読みいただき、誠にありがとうございます! もしこの作品を気に入っていただけましたら、ブックマーク追加や感想、ツイッター宣伝などよろしくお願いします! また、作者のツイッターアカウントでは、作品の進捗状況の報告や、新しい表紙絵の制作過程を投稿していますので、もし気になった方は是非、そちらの方もご覧ください! これからも応援よろしくお願いいたします!

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