13:次会う時は──。
アルファポリスで投稿している作品を、こちらの方でも遅延投稿することにしました。
早く続きが読みたい方は、アルファポリスの方を探してみてください。
序章最終話です!
次回から『第1章:神童植えざれば何とやら』が始まりますので、またしばらくお待ちください。
13
それから、俺はメリアスを振り回し、実戦で鎌の扱いを覚えていった。
威力が高いせいもあってかなり扱いやすく、むしろ槍よりもこっちの方が回転に力が乗せられるし、簡単に思えた。
問題は、鎌の刃が内側についていることや、刃の形状のせいで、うっかりすると自分の足を自分で弾き飛ばしかねない事だった。
まぁ、その辺は召喚魔法の特性もあって、俺が直接的なダメージを負うことはなく済んでいるのだが、足を引っ掛けて転びそうになったことは何回かあった。
引っ掛かるのは刃の向きをちゃんと意識できていないせいだろう。
手の内に意識を集中して、ちゃんとまっすぐ刃が向くように意識しないと。
「……いや、むしろこの場合は力を入れすぎているのか」
できるだけ、最低限の力を加えること、無駄な力みを排除することを考えながら、狩って狩って狩って狩りまくる。
狩りまくっている間に最適な体の使い方を更新していく。
鎌を持つ場所は柄の真ん中よりも石突に近い、割と先端を持った方がいいこと、鎌を振り回すときは足で地面を踏み込んだ時の反発力を利用すること、全体的に大振りに動くと懐まで侵入されやすいので、体さばきと足さばきを工夫して、金魚が水槽の中でターンするように動くこと、などなど。
そうやってモンスターの首を刎ね、胴体を分断していると、気が付けば俺はモンスターの群れを抜けていた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
呼吸を整えながら周囲を見渡す。
通り抜けてきた道はもはや屍の山が出来上がっていた。
赤い血の川が地面を覆いつくし、そこだけ他のモンスターが避けるように進軍していくのが見て取れる。
何人かの冒険者は背面まで到達していたようだが、アレックスさんとドロシーさんの姿は見えなかった。
合流できそうになるまで、しばらくこのあたりで戦っていようか。
そう考えていると、右翼の方から馬に乗って駆けてくる鎧姿の騎士が一人見えた。
あの体格、たぶんタウロだ。
(タウロ、騎兵部隊だったんだ)
意外だ。
きっと城郭を守って待機してる重装騎士部隊にいるものだと思っていたのに。
「マーリン!」
思った通り。
彼の声を聞いて、モンスターから離れた位置に移動する。
「タウロ、どうしたんですか?」
持ち場があるだろうにと思って、疑問を投げかける。
「いや、姿が見えたからな。怪我は?」
姿が見えたからって、そんなので抜けて大丈夫なのかよ……と、少し心配になるが、そういえば部隊長がタウロの事を『やんちゃ坊主』と呼んでいたことを思い出して、たぶんいつもの事なのだろうと苦笑いを浮かべるにとどめた。
「両腕を痛めましたけど、それくらいです。あと、すみません。槍が血脂でべとべとになって持てなくなったので、魔法で異空間に収納して、代わりにこれ使ってます」
言って、タウロにメリアスを見せる。
しかし武器の事はどうとも思っていないのか、軽く『そうか』と呟くと『んなことより、お前が無事みてぇで良かったぜ』と返した。
その呟きに、ちょっとだけ嬉しくなる。
どうやらずっと心配してくれていたのだろう。
それで、俺のことを見つけたからと、いてもたってもいられず駆けつけてくれた。
軍事行動中ゆえ、はた迷惑と言わざるを得ないその行為だったが、自分の為と思うと嬉しく思わざるを得なかったのである。
「……それで、わざわざそれだけを言いに来たんですか?」
「なわけあるか」
本題を促すと、彼は苦い顔をして否定する。
「……さっき、偵察部隊から伝令があってな。スタンピードが予報より遅れた原因が、どうやらレッドファングの連中による工作だってことが分かった。
そこでリチャードから、俺とお前で偵察部隊の援護に向かうよう別任務が下りた」
文脈から察するに、偵察部隊というのは、スタンピードが遅れた原因を探るチームの事だろうか。
その彼らが、今はレッドファングと交戦中で、援護を要している、と。
細かい事情は分かりかねるが、そういう事なら同行しないわけにはいかない。
俺はうんと頷くと、彼の馬に乗って目的地へ急いだ。
***
連れてこられたのは遠くに見えていた森の中だった。
しばらく進んでみれば、背の高い木々のせいで薄暗く、見通しが悪い。
「明かりはつけるなよ。あと、魔法の使用は解禁するが、極力控えろ」
「はい」
小声で指示を出すタウロに、首肯を返す。
しばらくすると、金属を打ち合う音が聞こえてきた。
どうやら交戦中らしい。
馬を降りて茂みに身を隠す。
二人は背を低くして、ゆっくりと目視できる距離まで接近する。
「敵は何人だ?」
ギリギリ見える距離まで近づいたときだった。不意に、タウロはそう訊ねてきた。
きっと彼も見えているはずだろうにそんなことを言うという事は、きっとこれは何かテストなのだろう。
俺は見えている敵一人だけに限らず、茂みの奥や木の上など、敵が潜みそうな場所にも注意を向けた。
しかし、それでも見えているのは、赤い鉢巻をしたレッドファングのメンバーと思われる人間一人に対峙している、鎧姿の男一人だけだ。
たぶん、鎧の方が偵察部隊の騎士だ。
一人しか見えないのは、連絡役が一人戦場の方に伝令に行ったからか?
だとしても一人しかこの場にいないのはおかしい。
戦場では三人一組で行動するように言われていたが、彼らは二人一組なのか?
「……目視一人です」
「上出来だ」
タウロが俺の頭をポンと撫でる。
「敵の人数を報告する際は、頭に”目視”という言葉を付け忘れるな。敵は見えている奴だけとは限らないからだ。
それと……まぁ、今回の場合は事前知識が不足していたからしゃあねぇが、偵察部隊は普通三人一組だ。一人仲間が見えない場合は、大方分断されていると考えるのがセオリーだ。つまり敵は最低あと一人隠れている。この時、どう探すべきかわかるか?」
「……わかりません」
しばらく考えるが、まったく手掛かりがない。
答えようがない問いに、俺は素直にそう答えた。
「正解だ。従って、援護する際は何も考えずに躍り出るのは悪手だ。
万が一こちらから死角になっている地形にハイディングされている場合、逆にこちら側が不利な状況になる場合がある。助ける場合は、予想される伏兵をすべて倒した場合か、あるいは助けるべき相手に余裕がない場合の二択だ。
後者に関しては、まぁ、経験と勘でしか見分けられねぇことが多いから、初心者の場合は完全無視でいい。
よほど明らかに不利になっている場合、つまり助けてもこいつ死ぬなって判断できるときは、余計にこちらの身に危険が及ぶ可能性の方が大きいから、これも無視しろ」
「……探すべき場所が分からないのに、どう伏兵を見抜けばいいんですか?」
矛盾する説明に、疑問を投げかける。
すると帰ってきた言葉は、なんとも乱暴な選択だった。
「勘だ」
言って、腰のポーチから鉄串のようなものを取り出して、偵察騎士の背後の草むらに向けて、およそ常人の目では追えない速度で放った。
投擲スキルレベル1で取得できるスキル【ダーツ】だ。
投擲の命中率をスキルレベル分補正し、さらにクリティカルダメージを自身の筋力値分底上げする。
多才だとは思っていたけど、投擲スキルまで使えるなんて。
「ガッ!?」
草むらからうめき声が上がって、交戦中の二人の動きが止まる。
その瞬間、タウロは草むらの影から飛び出し、見えている方の敵へ接近。
遅れて、俺は草むらで隠れている方に向かって飛び出す。
ありえない。
本当に勘で伏兵に気づくなんて!
これが漫画やアニメの世界なら、きっと気配探知とかそういうスキルがあるのだろうが、ゲームだった頃はそんなスキルは存在しなかった。
つまり、正真正銘、これは彼の勘で見つけ出したものだと言えるのだ。
本当に、いったい何者だよこいつは。
草むらの中に潜んでいたレッドファングの脳天に鉄串がぶっ刺さっているのを確認しながら、そんなことを考える。
「おーい、ちゃんと頭上も注意しとけよー?」
少し離れたところから、どうやらもう倒し終えたらしい敵の死体を担ぎながら、俺に呼びかける。
「はーい……っと」
見上げた、次の瞬間だった。
「わっ!?」
何か黒い物体が木の上から落ちてくるのが見えて、とっさに回避してメリアスを構えた……が。
「……」
よく見ると、それは額を鉄串に貫かれたレッドファングの死体だった。
「2発……」
あまりにも早い投擲。
俺でも見逃しちゃったね。
俺は、鉄の額当てを貫通している串の刺さる角度を見て、心の中でぽつりとつぶやいた。
どうやらあの時放っていた鉄串は、一本だけに見えて、実は同時に二本打っていたらしい。
タウロ、なんて恐ろしい子なんだ。
武芸の天才すぎじゃねぇか?
それから俺たちは、レッドファングの死体と、負傷した偵察騎士2名(見つからなかった方はかろうじて生きていたので、回復魔法で治療した)を引き連れて、城郭まで帰還した。
ちなみに俺たちが森を出たころには、もう既にスタンピードは終わっていて、冒険者たちは倒したモンスターの数などを部隊長に報告しているところだった。
「後のことは俺がやっとくから、お前も早く報告してこい」
門の前まで来たところで、タウロに背中を押されて冒険者たちが並ぶ列に追いやられる。
いつもの俺なら、こういう時、彼と離れるのが少し不安に思うところだったが、死線を潜り抜けた後だからか、微塵もそんな感情になることはなかった。
「わかりました。またあとで会いましょう」
軽く頭を下げながら別れの挨拶をする。
しかし、その言葉を聞いた途端、彼は『あっ』と何かを思い出したように声をあげた。
「すまん、マーリン。そのことについてなんだが、俺、この後王都に戻んなきゃいけねぇんだわ」
頭の後ろを掻きながら、申し訳なさそうに口を開いた。
「え、そうなんですか!?」
頭の中を、彼のセリフが木霊する。
そんな急に言われても困る。
だって、彼からはまだ学べていないことがたくさんあるのだ。
まだ槍の稽古だって途中だし、せっかく体に合った使い方を覚えたんだから、彼に技を見てもらいたい気持ちだってあるのに。
それに、まだちゃんとお礼も言えてない……。
「ま、たぶんそのうちまた会えるだろうし、そんな心配すんな! 弟子だろ?」
ちょっとだけ泣きそうになるのを、彼の最後の言葉に心を押されて、押しとどめた。
なかなか急な話ではあったが、今生の別れというわけでもない。
俺は、差し出された拳に拳を返すと、彼の挨拶に、今の自分の意思を乗せて答えた。
「次会う時は、師匠よりでかい戦果持ってきます!」
「おう、期待してるぜ!」
こうして、俺は冒険者になる意思を固め、師匠と一時、分かれることになったのであった。
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