12:スロウァー
アルファポリスで投稿している作品を、こちらの方でも遅延投稿することにしました。
早く続きが読みたい方は、アルファポリスの方を探してみてください。
12
作戦は以下の通りに勧められる。
まず、弓兵部隊、カタパルト部隊の二部隊が両翼から面制圧を行う。
しかし敵はモンスター。
動けば死ぬからと言って、塹壕も持たない彼らを完全に足止めはできない上、スロウァーもいる現状、ぎりぎりまで接近は実質自殺行為なので、弓兵部隊とカタパルト部隊が弾切れになるまで打ち尽くすまでは待機の姿勢をとる。
その後、三度目の角笛を合図にして、遊撃部隊と称される冒険者集団が敵軍に突撃。
後方に控えている軽装歩兵隊とその両翼にいる騎兵部隊も同時に進軍を開始。
遊撃部隊がモンスターと戦いながら後ろ側に回り込もうとしている間に騎兵部隊はモンスターたちの両翼に回り込み、ロの字型の包囲網を形成。
包囲を縮小させながら、敵を殲滅する。
それが、基本の作戦だった。
「遊撃部隊、突撃ぃいいいいい!!!!」
「「うおぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」
雄叫びと共に、俺たちはモンスターの集団に突撃していく。
モンスターたちのレベル平均は、だいたい20前後といったところか。
構成は、大半がゴブリンかホブゴブリンだが、中には稀にオークやハイオークが混ざっているのが見える。
「マーリン、あの豚面には注意しろ。あいつらはパーティ2、3個で囲んで討伐する。もし近くにいたら声をあげて仲間を集めろ」
「はい!」
目の前に迫ってきたゴブリンをいなして地面に叩きつけながら返事をする。
初めは喉を突いて殺そうと思ったが、人の形をしているものを殺そうとするのは、少しはばかられたのだ。
「あと、敵はちゃんと殺す!」
「は、はい!」
ドロシーさんが手に持っていたメイスで頭を殴りつけ、ぐちゃっとトマトみたいに潰れるのを見ながら、吐き気をこらえて返事をする。
当たり前だ、やらなければこっちが殺されるのだから。
口の端を噛みながら、今度は正確に喉を狙って襲ってきたゴブリンを殺す。
やや青みのかった赤い血液が跳ねて手に着くが、今回ばかりは理性で無視を決める。
手に伝わる肉の感触、心臓の鼓動に合わせて伝わる血液の圧力が、妙にリアルに手に伝わってきて、眉をしかめる。
しかし、目を離してはいけない。
一気に槍を引き抜いて、俺は次の獲物にとびかかった。
ついて、振り回して、攻撃をあてて、生きた肉を切り裂いていく。
数回ほど繰り返したころには何となく慣れ始めた自分がいた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
重い槍を振り回しているからか、それとも死が身近に迫ってきているのを肌で感じているせいか、あるいはその両方か。
いつもより体力の消耗を激しく感じながら、槍を下段に構える。
モンスターが押し寄せてくるから、休む暇がない。
基本の中段の構えは常に穂先を敵の晴眼に向けるから筋力を使う。
多少怖いけど、体力がないと息切れで文字通り死ぬだろう。
俺は構えを下段に変えて、なるべく自分の体力を温存しながら戦う方法を模索しながらモンスターを討伐していくことにする。
突くのは後ろ手を押し出すようにして、前手は緩く持って、握る手に力は極力入れない。
使うのは、後ろ手の薬指と小指、それから親指だけ。
振り回すときはできるだけ、槍の重みと反発を使って、重力に従って、槍を振り回すのではなく、振り回されるように──。
「ふぅ……っ!」
ブン! と振り回す。
俺を囲んでいたモンスターたちの胴が半分に切断され、息絶える。
どうやら、突くよりも振り回す方が体力の消耗は少ないらしい。
それにこっちの方が、石突も効果的に使えて楽だ。
……もしかして、タウロが修行の一環だって言ってたのは、こういう事だったのだろうか?
それからも、俺は一人で何匹ものモンスターを斬り飛ばしていき、気が付くとアレックスさん達とはぐれていた。
「しまった、突っ走りすぎた……!」
周りをモンスターの群れに呑まれながら、槍を振り回して敵を斬り飛ばし、アレックスさんとドロシーさんを探して回る。
周囲には怒号が飛び交っていて、どうにも人の声を判別できない。
これでは俺の声などもみ消されてしまうだろう。
タウロがいつも声を出せと言っていたのは、こういう時の為だったのかと今更ながら察する。
『いいか、万が一はぐれた時は、敵の後方を目指せ。どうせそこで合流するが、見つからないときは死んだと思って別の隊に合流しろ』
たしか、こういう時のために、アレックスさんはそんなことを言っていた気がする。
今は見渡しても見つからないし、俺もこの身長だ、彼らの方から探してもらっても見つかる可能性は極めて低いだろう。
突撃してくるホブゴブリンの足を払って、そのまま流れで首を刎ね、仕留める。
そろそろこの重い槍にも慣れてきたところだ。
このまま一人で突っ込んでも、たぶん大丈夫だろう。
そう思っていると、俺の方に向かって何かがものすごい勢いで飛来してくるのが見えた。
「マジか!?」
モンスターの間を縫うように駆け抜けて、飛んでくる砲弾と化した魔物から身を躱す。
スロウァーだ。
「ふぅ……」
息を吐きながら、モンスターを投げ飛ばしてきた敵の正体を確認する。
敵の正体はハイオークだった。
赤い皮膚に弛んだ腹。
豚のような鼻を持つ巨人で、その身長はタウロよりも一回りほど大きい。
……本当は、人を呼ぶべきなんだけど。
「やるか……!」
トリマキのいる強敵に対してとれる作戦は大まかに二種類がある。
一つはトリマキを無視して本命を攻撃する作戦。
もう一つは、トリマキを減らしながら戦う作戦だ。
前者は主に自分のHPに自信があるプレイヤーにしかできない戦い方だが、一方俺は純粋な魔法使いタイプ。
HPの総量自体はそんなに多くないし、防御力も高くない。
以上の理由から、後者の作戦を選択せざるを得ないだろう。
それに、このハイオークは近くにいるトリマキを砲弾にして戦う。
戦力をそぐためにも、こいつのトリマキには即刻退場してもらわなくては危険すぎるのである。
俺は魔物の間をすり抜けながら、一息にトリマキのゴブリンどもの首を刎ねると、背後から心臓を狙ってハイオークの背中に突き刺した。
「フゴ?」
しかし、その穂先の半分まで通ったところで、槍は動きを止めてしまう。
硬い。
いや、それだけじゃない。
槍が背骨か肋骨に防がれて、これ以上進まないのである。
これから背中を突くときは平突きにした方がいいな。
槍を引き抜こうと力を入れる。
しかし、思ったよりも力が入らず、抜けない。
どうやら筋肉を固めて抜けないようにしているらしい。
槍が入らなかったのはこれも原因か。
不意に、ハイオークが腕を振り回し、背後の俺に殴りかかってくる。
「くそっ!?」
握力が足りず、槍から手が離れる。
怯んだところに、豚の蹄のような手が伸びる。
受ければ間違いなく折れると感じた俺は、とっさにバックステップを踏むが、一瞬間に合わない。
クロスした両腕にハイオークの拳がぶつかり、浮いた体が魔物の群れに突っ込んだ。
「ちっ!」
運よく魔物がクッションになってくれて助かったが、地面だったら大けがをしていたに違いない。
鈍く痛む体に鞭を打って無理やり起き上がると、俺が殺したモンスターの死体を掴んで投げてくるのを、間一髪で回避──したが、余波で体が宙を舞った。
「あぁもう!」
このまま素手で戦うのはあまりにも分が悪すぎる。
とはいえ、ここで魔法を使ったりなんかしたら、なんかここまで槍で戦ってこれたのにチートに頼るみたいで癪に触る。
「【サモン:メリアス】! 力を貸せ!」
暗い紫色の魔法陣が展開して、手元にトネリコの木でできた、赤い刃を持つ大鎌が出現する。
メリアスは大鎌の姿をした召喚獣だ。
この召喚獣は自動戦闘というスキルを持っていて、武器単体でそこにいるだけで、周囲のモンスターを狩ってくれるのだが、今はそのスキルは封印。
純粋に武器としてだけの性能を活用させてもらうことにする。
メリアスを下段に構えて、ハイオークに突っ込む。
構えたまま走りやすいように、刃は後ろに引いて、芝を刈るように──!
「フゴォオオオ!!」
流れに乗せて、円弧を描くようにハイオークの腹を切り裂く。
軽い。
柔らかい。
手ごたえがまるで感じられないのは、きっとメリアスの攻撃力が高いせいだろう。
怯むハイオーク。
その隙に返す太刀ならぬ返す鎌でその太い首に鎌の刃を引っ掛け、ハイオークの後ろ脚に自分の足をかけながら引きずり倒した。
「ブガァァアアアアア!?!?!?」
背中に刺さっていた槍が地面に押されてそのままハイオークの体を貫通し、メリアスの刃が豚の頭を刎ねた。
「ふぅ……」
武器の性能が高いと、ここまで倒すのが楽になるのか、と槍を引き抜きながら改めて思う。
もし素の技量を高めたいのなら、攻撃力の低い武器で相手をするのが効率いいな。
とはいえ、この槍はもう使えない。
今日は諦めて、こっちの大鎌で乗り切ろう。
血でヌメった槍をアイテムストレージに収納すると、俺はメリアスを振って血振るいをして、モンスター集団の背面へと駆けだしたのだった。
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