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可愛がったのなら最後まで面倒をみましょう

作者: 那賀月

初投稿です。

文章書くのも久しぶりの初心者です。

誤字脱字ありましたらご指摘ください。よろしくお願いします。

むかしむかしあるところに、そんな言葉で始まる昔話が迷信だと言われたのはひと昔前のこと。

現代社会には所謂 妖怪や怪物と呼ばれたモノが市民権を獲得し、堂々とその正体を晒して生活している。

人も妖怪も入り混じり、数はすくないものの、人と妖怪が結婚し、子供をもつ家庭もある。

そんな平和な国のお話。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


香川(かがわ)ひなたはごくごく普通の女子高生である。平凡な容姿に平凡な成績。特徴といえば指が長く、爪の形が綺麗と褒められる手くらいだ。ネイリスト志望の友人にピカピカに手入れされ、それだけはちょっと自慢できると思っている。

そんな彼女には最近悩みがあった。

ふとした瞬間、視線を感じるのだ。それは学校だったり、外出中だったり色々なのだが。

最初は気のせいかと思っていた。ストーカーができるほど自分が魅力的だとは思わなかったし。

しかしひなたはその視線の主を見つけてしまった。


環様(たまきさま)?ナイナイ。あの人がストーカーとかあり得ないでしょ?」

「だよね…やっぱり私の勘違いなのかなぁ…」


しょんぼりと落ち込むひなたの爪を丁寧に磨きながら、玲奈(れな)は首を振った。

環様こと三国 環(みくに たまき)は彼女たちが通う高校の生徒会長を2年生にして務めるカリスマ的存在である。文武両道、眉目秀麗、品行方正の四字熟語がよく似合う、まさに完璧な王子様。おまけに有名ホテルの社長令息で、お金持ちともなれば女子生徒の憧れの的である。


「たまたま目があっり、偶然いただけでストーカーとは違うかもだけど、気をつけなよ?ひなたはよく見ると可愛い顔してるんだから」

「よく見ても可愛くはないよー?」

「もうっ。またそんなこと言って!ほらっ、手入れ終わったよ」


マッサージまでしてもらってピカピカになった手をうっとりと見つめ「ホント綺麗な手…」と玲奈は満足げに呟いた。


「夏休みになったら絶対ネイルさせてね!いろいろ試してSNSにアップしなきゃ」

「あんまり派手にはしないでね?」

お手柔らかに、と微笑んでひなたは席を立つ。

「そろそろ帰ろうか。私バイトあるけど、ひなた、ひとりで大丈夫?」

「大丈夫。今日はまっすぐ帰るから」


校門のところで別れ、ひなたはひとり徒歩で帰宅する。


「あ!今日、発売日だった」


お気に入りの作家の新刊は発売日にゲットすべし、と本屋へと足を向ける。

レジにいる爽やかな青年が「いらっしゃいませ」と柔らかく挨拶してくれるのに会釈して、新刊コーナーへと足を向けた。

彼は若いがこの店の店主で、ろくろっ首の末裔だ。一度立ち読みをしている時に彼が首だけで店内を見回っていて、思わず叫んでしまってから顔見知りになってしまった。

ひなたにとっては恥ずかしい思い出だ。


(あれ?)


本屋で目当ての本を手に、他にも物色していたひなたは通り過ぎた棚の間に見えた人物にどきりとする。

本を探しているフリをしながらくるりと回りながら観察しても、その人は例の環様にしか見えない。


(いやいや、偶然。偶然たまたまだよ)


そうに違いない。そう結論づけて会計を済ませ、ひなたは店を出て歩き出した。


「あ、あのっ」


突然目の前に青年が立ち塞がった。近隣の制服を着ているので、高校生だとわかる。


「はい?」


全く知らない人に怪訝な顔のひなたには構わず、青年はちょっと赤い顔で「これ…」と小さな紙を差し出した。


「君がよくこの本屋にくるの見てて、可愛いと思って。よかったら、連絡くれないかな?」

「ふへっ?」


変な声が出て、慌てて口を塞いだ。

これは所謂、告白?ナンパ?になるのでは?

人生初の経験にひなたは顔を赤くして何もいうことができなくなる。


(どうしよう?受け取ったらお付き合い?まずはお友達からって言った方がいいの?)


お互いにもじもじとして甘酸っぱい雰囲気の2人を、通りすがりの人がちらちらと見ているのがいたたまれない。

意を決してひなたが口を開いて紙を受け取ろうとしたその時…。


「あぁ、ここにいたんだ。探したよ」


爽やかな声が割り込んで、腰にするりと腕が回った。突然の接触にぎょっとしてその腕の主を見上げ、ひなたは蒼白になる。


「たっ、たまきさま…?」

「ごめんね、遅くなって。どうしたの?」


爽やかに微笑むのは全校生徒どころか、近隣学校にも顔の知られた有名人、そしてひなたがストーカーと疑った、三国 環だった。

男子校生はうろうろと視線を彷徨わせ、ひなたにピタリと寄り添う環を見て、がっかりと肩を落とす。


「いえ。なんでもないです…」


小さく言って、彼はそのまま背を向けて逃げるように走り去った。

後に残ったのは未だ固まって動けないひなたと、彼女の腰をしっかりと抱いてにこにこしている環だ。


「危なかったね、香川さん」


何でもないような顔で環は腰から手を離して、今度は手を握る。そしてそのままひなたの手を引いて歩き出した。


「あっ、あのっ、三国センパイっ?」

「とりあえずこっち来て」


有無を言わさず歩いていく環の背中を見ながら、ひなたは必死に下を向いて歩く。


(誰かにこんなところを見られたら、明日からどうなるか…)


大人しく手を引かれてしばらく歩くと、環は小さな公園で足をとめた。


「あの、三国センパイ…?」


どうしてあそこに?とか、何で邪魔したのか?とか聞きたいことは山ほどある。


(ホントにストーカーなんですか?とか)


口を開こうとしたひなたは、環の顔を見上げてまたピシリと固まる。

環はひなたを見つめていた。

頬は赤く、目は少し潤み、ふうっと吐く息が色っぽい。色気がダダ漏れの美青年がそこにいた。


(な、なななななっ???)


色気に当てられ、一気にかあっと全身が熱くなる。

そんなひなたの様子などお構いなしに、環はゆっくりとその手を伸ばし、赤くなった頬に触れる。


「ひなた…やっとさわれた」


(ひいっ…)


心の中で悲鳴をあげて、あまりのことにキャパオーバーになったひなたは人生初の気絶をしたのだった。





「ひなたっ!無事?!」

「玲奈ちゃん…」


気絶をした次の日、ひなたは学校を休んだ。

目覚めたら自宅の自分のベッドの上で、あれは夢だったんだと思い込もうとしたが、母親に呑気に「昨日のかっこいい人、彼氏なの?」とウキウキ聞かれて絶望し、熱を出したせいだ。


(何で自宅知ってるのー?!)


玲奈には事情をメールで連絡したら、心配して学校の帰りにお見舞いに来てくれたのだ。


「はーっ…それホントの話なのよね?」

「嘘偽りなく、事実です…」


全てを聞き、玲奈はうーんと考え込んだ。


「昨日、環様が誰かと手を繋いで歩いてるのを見たって子がいて、学校でアレは誰だって騒ぎになってるのよ…」

「あぁあぁああっ。もう学校に行けないぃ〜」


頭を消えて唸ったひなたの頭をヨシヨシと撫でて、玲奈は「大丈夫」と慰めた。


「それが誰かはまだバレてないみたい。だから大丈夫よ」

「でも、三国センパイがストーカーだってわかっちゃった…」

「それなんだけど、たまたま居合わせてひなたが困ってるように見えたから、知り合いのふりして助けた、とかじゃないの?」

「私の名前知ってたし、その後ウチまで送ってくれたのに…?」


さすがにそこまでされて、好意的にとるのは難しい。

環に会うのも怖くて学校に行けなくなりそうだ。


「でもこのまま引きこもってる訳にはいかないし、ちゃんと学校は来なよ?私も一緒にいるし!」

「玲奈ちゃん…ありがとう」


熱も下がってきているし、明日は登校できると伝えると、玲奈は「また明日」と帰って行った。





(どうしよう)


翌日登校してきたひなたは校門が見える位置で咄嗟に植え込みの影に隠れた。


(何で門のところに環様が…っ)


朝からキラキラとした美貌が眩しい。校門のところで誰かを待つように佇む環に、他の生徒がざわつきながら距離をとって様子を伺っている。

環の待ち人は十中八九ひなただろう。

なぜならば、環がひなたに執着していると確信してしまったのだ。


「おはよー。ひなた、何やってるの?」

「玲奈ちゃん…」


涙目で植え込みの影に隠れるひなたを見つけた玲奈は目を見開いた。そして校門で騒つく生徒とその中心の環を見て顔をしかめる。


「なるほど」


状況を把握した玲奈はひなたの手をとり、門とは違う方向に歩き出した。


「こっち。先生たちの通用門から入ろう」


こくんと項垂れて歩くひなたに「他に何かあった?」と尋ねるとややためらってポツリと。


「朝、家にバラの花束が届いた」

「こわい!そして重い!」


人生初のバラの花束が、例え顔が極上にいいからといってストーカーからなんて悲しすぎる。

父親は渋い顔をして、母親は呑気に笑いながらも花瓶に生けていたが、ひなたは怖くて直視できなかったのだ。

玲奈と共に職員用の通用門を潜り、2人は無事に学校に入ることができた。

生徒会の仕事もあるせいか、環と顔を合わせることなくその日の下校時間を迎える。


「ひなた、ごめん!今日もバイトだから一緒に帰れない」

「大丈夫。ちゃんとまっすぐ帰るから」


悲壮な顔の玲奈を宥め、ひなたは笑って頷いた。


「でも心配だから、私が先に行って、門のところに環様がいないか見ておくよ。メールするから、それ見てから出てね?」

「わかった。ありがとう、玲奈ちゃん」


教室で待つのは何となく心配だったので、ひなたは玲奈と別れると人の少ない裏庭に向かった。

今の時期は夕方でも陽が降り注いで暖かく、ベンチに腰掛けて日向ぼっこをしながらメールを待つ。

あまり知られていないのか、誰もいないことが多いのでひなたはここが気に入っている。

ピロンっ。

メールの着信を確認すると、玲奈だった。


ー環様、校門のところにいたよ。また裏から出た方がいいかもε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘


絵文字にくすっと笑ってひなたはうーんと伸びをした。その足に突然するりと柔らかいものが触れた。


「にゃおん」

「あ、猫ちゃん」


足にすり寄ってきたトラ猫にひなたは破顔する。

時々ここに座っていると猫がやってくることがある。その中でもよく来る三毛猫をミケと勝手に呼び、ひなたは可愛がっている。今日はいないようだ。


「初めて見る子だねー」


トラ猫は人懐っこく、ひなたが座っていると撫でろとばかりに膝に乗って擦り寄ってくる。

首の下を撫でると目をうっとりと細めてゴロゴロと喉を鳴らした。

しばらく撫でて毛並み堪能していると、ふいにトラ猫がぴくりと動きを止めた。そのままひなたの足元に飛びおり、ふーっと毛を逆立てて唸り出す。


「どうしたの?」


猫の視線の先を辿ったひなたはぎくりと身体をこわばらせた。


「三国センパイ…」


猫と睨み合う環の柔らかい色の髪がざわっとなびいた。その瞳の瞳孔がひゅっと細くなるのを見て、ひなたは目を丸くする。


「このっ、どろぼう猫がっ!」

「はいぃっ?」


ドラマの中でも聞かなくなった言葉に驚くひなたの前で、環がボフンッと煙に包まれた。その身体が一瞬で麗しの美青年からよく見知った姿に変わる。


「み、ミケちゃんっ???」


シャーっと毛を逆立ててトラ猫を威嚇し追い払ったのは、いつもひなたが可愛がっていた三毛猫の「ミケ」だった。

トラ猫を茂みの向こうまで追い払い、一目散にかけてきた「ミケ」は助走をつけてジャンプしてひなたの胸に飛び込んだ。いつものくせでつい抱きしめてしまってサァっと青くなる。

そんなことはお構いなしに「ミケ」はぐりぐりと頭をひなたの腕に押し付ける。


「ひどいよ、ひなた!僕というものがありながら、他のヤツにふれるなんてっ!あいつ、君のテクニックにメロメロだったじゃないかっ」

「いや、言い方っ?!」

「僕の身体に満足できなくなったのっ?あいつにデレデレした顔してーっ!」

「いやだから言い方っ!」


にゃあにゃあと騒がしくぐりぐりをやめない「ミケ」に、ひなたは混乱しながらも呼びかける。


「三国センパイ?」

「うん」

「ミケちゃん」

「にゃあんっ」


(いや、使い分けるんかーいっ)


思わず心の中で全力でツッコミを入れてしまった。

腕の中の可愛い「ミケ」を見つめ、ひなたはいつもと少し違う姿に目を丸くする。

見た目はいつもの三毛猫。しかしゆらゆらと揺れる尻尾は2本。


「ば、ばけねこっ?」

「ひなた、失礼だよ」


ゆらゆらと2本の尻尾をくねらせて、拗ねたような声で「ミケ」が言う。


「僕は猫又。学校ではあんまり知られてないけど、三国家は猫又の一族なんだ」





それから環はひなたにまとわりつくのを隠さなくなった。

普段は人間の姿で付き纏い、何くれと世話を焼き、たまに猫の姿でひなたの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして甘える。

そうしているうちにすっかりと絆されてしまったひなたは、なし崩しに環と付き合うことになってしまった。環の家族に紹介され、あり得ないほど気に入られ、囲い込まれて…気づいた時には高校生のうちに婚約が確定していた。


「なんでこんなことに⁇」


すっかり逢瀬の場所になった裏庭のベンチで、いつのまにか逆転した座り位置となった環のひざの上、呆然とひなたは唸った。

そう、環のひざの上。ベンチに座った環のひざに横座りしたひなたを抱きしめながら、美貌の婚約者はご機嫌だ。

ひなたの髪に顔を寄せて、すーはーすーはー匂いを嗅いでうっとりしている。


「はぁっ。ひなたの匂い、たまらない…」

「いつも思うけどヘンタイですかっ?」

「仕方ないじゃないか。ひなたがいい匂い過ぎる…」


最初は抵抗していたが、もう諦めた。

ため息を吐いて脱力しているひなたの匂いを胸いっぱい吸い込んで、環は悩ましげにため息を吐いた。色っぽい。


「うちの家族もひなたに手を出しそうだし、いっそ高校卒業したら家を出て同棲しようか?ご両親にはちゃんと説明するから。日当たりのいい部屋がいいよね!ね?いい考えでしょ?」


ニコニコと笑って言うが、彼の中では決定事項なのだろう。この短い付き合いで、環の恐ろしいまでの行動力は()()()()()()()

こうなったらひなたに求められるのは頷くことだけだ。


「そもそも、どうして私なんですか?」

「あれ?言ってなかったっけ?」


きょとんとした後、環は極上の笑顔でひなたの頬に軽くキスをする。それだけでひなたはぽんっと真っ赤になった。


「君の匂い、僕ら猫系の妖にはたまらなく好ましい匂いなんだよ。それを嗅ぐとうっとりして気持ちよくなる。つまり、ひなたはマタタビだね」

「はっ?」

「おまけにその手!もう僕の理想そのもの!しかも僕を撫でる時の絶妙な加減がもうもうっ!理想の手にそんなことされたら一発で骨抜きにされちゃうよね」


「ひなたはテクニシャンなんだから〜」なんて頬を染めて惚気たように言われても、内容が頭悪すぎて呆然とするしかない。


()()環様が、匂いフェチに手フェチ…)


「あ!もちろん、君のその素直な性格も大好きだけど。うちの家族も隙あらば、みたいなところがあるから早めに囲っておきたいなぁ」


ふふっと笑う瞳の奥になんだか暗い炎があるようで、ひなたはふるりと身体を震わせる。

そんなひなたをぎゅっと抱きしめて、環はそっとその耳に唇を寄せた。


「猫又はもともと飼い猫が妖になったもの。だから飼い主に執着する。やっと見つけた飼い主を逃すと思う?」

「ひえっ」

「ひなた、大好きだよ」

「ひえぇっ」


情けない顔で青くなったり赤くなったりする婚約者(飼い主)の少女を抱いて、環はそっとささやいた。


「これからはミケじゃなくてタマって呼んでね」


ぱちんとウインクして言う婚約者(飼い猫)のお願いに、ひなたは全力で首を振るのだった。





「この泥棒猫」と「タマって呼んで?」がキーワードで、それを入れたいがためのお話でした。

すーはーすーはーして、好きな子の匂い嗅ぎまくる美形、可愛くないですか?

ひなたを溺愛、執着する環様をもっと書きたくなったら書くかもです。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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[良い点] ひなたちゃんがウラヤマシィー! 面白かったです!
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