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第十六話:王都での決戦

前回のあらすじ!!



女王陛下に受難「ランカスター反乱」

 冬の間よりランカスター市と連絡が取れないなど、悪い予測が悪い噂を呼んでいたが、ついに女王陛下が事実を認めた。

 帝国崩壊後を国王陛下とともに支え、我々に豊かな生活をもたらし続ける女王ではあるが、今後の対応ではその指導力が改めて問われることになる。


――ペルサキス新聞 紀元2年3月2日より



女王陛下、ランカスター人絶滅を宣言

 先日行われた記者会見により、アレクシア女王陛下が、反乱を起こしたランカスター人の絶滅を宣言された。

 既に正規軍の殆どを動かしているという話も飛び交い、軍需物資や食料などが高騰を始めている。今後の市民生活への影響について、本誌ではアレクシア大学経済学教授であり王国議会議員の……


――週刊ペルサキス 紀元2年3月14日号より



エクスカリバーに夢を見せられた。

正直なところ、アストライアに今では感謝すらしている。

俺にあの邪悪な力を継がせたことこそが、奴の存在理由であったと言ってもいい。

徹底的に、アレクシアとニキアスを殺し尽くす。

それが俺の役目、俺の命の意義、俺の(ここから意味不明な文字列)


――アルバートの日記 紀元2年3月頃 ※このページから先はすべて、意味不明な文字と血液で塗りつぶされていた。

――紀元2年4月


 少しずつ前線を押し上げるペルサキス軍。

 正規軍に傭兵にとありったけの人数を動員し、ここで終わらせてやるとランカスター王都に迫る。

 数年前に帝国宰相ソロンが用意した一万の兵どころではなく、最初から十万もの大軍を以て押しつぶす準備を続けていたニキアスは、アトラースの一室でアレクシアとムラト、ソフィアの他、本国から呼び寄せたテオなどの将軍や上級士官らと共に会議を始めていた。


「さて諸君。敵の目前ではあるが、改めて意志の統一を図る。アレクシア、説明を」


 ニキアスが改めて顔ぶれを見渡し、静かに水を飲み。

 重々しく口を開き女王を指すと、アレクシアは言葉を続けた。


「ランカスター市の人口は、以前の調査では約五十万人ですの。彼らが旧帝国人を追放したのであれば、数万人程度は減っているはずですわ」


 そしてランカスター市の地図と統計表を手に、攻め滅ぼす地の説明を続け。


「事前に命令はしましたが。今回は、戦闘員・非戦闘員に関わらず無差別に殺戮します」


 報道のあったことは事実だと言い放つと、参加者の多くからはため息が漏れた。

 依然小競り合い等の戦いを続けるムラト将軍やソフィアらの士官たちは固く口を結び、まだ戦争に入ってこられていない、ため息をついた者達を鋭く睨みつける。

 それを手で制したアレクシアは、静かに頷いた。


「人道的ではない、ということは重々承知しております。しかし、帝国時代に散々痛めつけ、縛り付けても尚復活する相手。後世の、わたくしたちの子孫のために。ここで憂いを断つ必要がありますわ」


 ここで殺すと。子孫の為に歴史からランカスターを消すと。

 そう続けて、彼女はごとりと、王家の紋章の入った鉄の兜を置いた。


「貴方がた軍人の、兵士の罪でなく。国家の罪でもなく。我々王家の罪として背負いましょう」


 従者が一人ひとりに兜を配り、女王がそれを被れと促す。

 個人の罪ではなく、王家にやらされたことだと。

 ”匿名で””自分より偉い者の命令”でやらされる時、人間がどんなに残虐になれるかを、アレクシアはよく知っていた。


「その兜には簡易的ですが防毒呪文が掛けられています。戦地では外さないことですわ。テオ将軍、計画を」


「はっ! 開戦と共にペルサキス翼竜大隊が奇襲、アトラースに積まれた”悦楽薬”入りの呪文爆弾を投下します。煙を吸った場合、一時間程度の間全身の麻痺と恍惚感で動きが取れなくなりますので、風向きには十分な注意を……」


 アレクシアの新薬から大学で更に研究を進め、快楽を引き起こす薬効を抽出した”悦楽薬”。

 中毒症状は弱まっているが、それ故より簡単に制御できるとして麻酔薬としての他に、軍事利用の研究もされていた。

 テオが作戦の説明を終えると、女王はそれに代わる。


「無力化、殺戮、制圧。単純な作戦ですわ。北方からは共和国とやらの増援も来るでしょうが、それはさしたる障害になりません。我々はランカスターに注力します。以上、ニキアス。ここからは貴方の出番でしょう」


 アレクシアが締め、ニキアスは手をたたいた。


「急ぎで聞きたいことがあれば、聞いてくれ」


 顔ぶれを見回し、全員が納得したのを確かめて。


「では乾杯だ。帝国式で」


 従者が素焼きのコップを配り、酒をつぐ。

 皆がそれを掲げたのを、彼は満足そうに見渡した。


「我らは忌まわしき因縁に決着を付ける。王国から、この大陸から子々孫々の憂いを取り除く。戦うぞ諸君。未来のために」


 口上を述べ、乾杯と告げて。

 一息で飲み干し、床にそれを叩きつけて割ると、皆がそれに続く。

 解散し、散っていった士官たちを見送って。

 残ったニキアスとムラト、それとムラトの直属に編入されたソフィアと話していた。


「では、発艦準備にかかりますので。ニキアス、ムラト、ソフィア。下は頼みますわよ」


 アレクシアは最も信頼のおける二人に笑顔を向けた。

 ムラトは恭しく深々と礼をし、ニキアスは力強く笑い返して。


「あぁ、勿論。ソフィアも、せっかくニケおばさんの義足あげたんだから頑張ってくれよ」


「こ、光栄です国王陛下!」


 ガチガチに固まったソフィアの腕をつかむと、アレクシアに向かって頭を下げさせた。

 その頭を見下ろして、少し前にカエルを食べさせられた女王は思わず笑う。


「ふふふ、ソフィア。貴女の度胸は非常に買っていますわ。最近わたくしとの会話を避けているようですが……怪我が治った今、以前見せた覚悟をお見せ頂けると」


「はっ! 承知しております! 誠心誠意尽くさせていただきますので!」


「実は話を聞いてるけど、僕でもあんなイタズラはしないからね。楽しみにしてるよ。ソフィア」


 ヤバい。国王陛下まで知っていたのかと。全力で汗をダラダラとかく彼女。

 その震える肩をニキアスがばしばしと叩くと、ムラトが呆れた顔で彼女を見て、ぽつりと聞いた。


「おい、ソフィア嬢。貴様何したんだ?」


「い、いえ、何もしておりません将軍閣下!」


「ムラト、イジメないでやってくれ。結構面白かったんだ」


「まぁ面白かったので、わたくしは許してますけれど。働きに期待していますわよ」


 ほんの少し、和気あいあいとした空気が流れ。

 いよいよ王都での決戦に向けて、ペルサキス軍は動き出す。 

 


――ランカスター王都



 遠くからだんだんと近づいてくるアトラースの威容を眺め、アルバートとエリザベスは険しい顔をする。

 何度も牽制に部隊を出したが、圧倒的な物量で攻めてくるペルサキス軍には手も足も出ず。

 それでも善戦はした方で、少しずつ戦力を削いでいるところではあるのだが。


「そろそろ、向こうも万全だな」


「そうねぇ。ここ一ヶ月でこっちの損害は百もないけど、向こうは結構出てるんでしょ?」


 やれやれと声に出すアルバートの横顔を、エリザベスが見つめる。

 彼女は王都の防衛のため至るところに軍を張り巡らせ、アレクシアが放ってくるであろう呪文爆弾の対策に精を出していた。

 一方の彼は時折進軍中のペルサキス軍を強襲し、そこそこ戦果も上げていたのだが渋い顔。


「恐らく三百程度か。士官級も数人は潰したが、あの物量だ。こっちが勝つとしたらやはり、ニキアスとアレクシアを殺すしか無い」


 戦わず逃げるを徹底してくる相手で、やりづらかった。と吐き捨てて。

 予め戦力を全然削らせてくれなかったとぼやきつつ、改めてあの君主二人を倒さなければいけないとため息をつく。


「援軍はあまり宛にしたくないしな。俺がやるしか無いか……」


「共和国の、セルジオスからの援軍ねぇ。まぁ一応来てるけど、反ペルサキスってだけでしょあいつら。頼りになるわけないじゃないの」


 エリザベスも続けてため息を付き、王城の一角で訓練している共和国の軍人たちを思い返す。

 練度に関してはランカスター軍はおろか旧帝国軍にも満たないなぁと、せいぜい肉の壁くらいにしかならないだろうと、諦めたように遠い目をしていた。

 ただ一応、彼らが手配してくれる食料や物資に関しては感謝していた。


「それはそうだが、食料は相変わらず入ってきているんだろ?」


「向こうって派閥争い激しいみたいだし、若干心配なのよねぇ」


 それもいつまで届くやらと。若干悲観的に。

 既に共和国は二分され、ペルサキスとの共存を目指しているセルジオスの一派が多数派になりつつある事には気付いていないものの。

 エリザベスはなんとなくそんな空気を感じ取っていた。


「奴らの手を借りたところで、借りを作りすぎては意味がない。極力俺たちだけでやるべきだ」


「まぁそれはそうだけど。陸は止めるしアトラースってのもある程度応戦してみせるわ。問題は継戦能力なのよね」


 アルバートはあくまでも自分たちでやると言い切り、彼女もそれに同意したが。

 可能な限り市内を要塞化しているけれど、いつまで持ちこたえられるかなと。

 せいぜい半年保つかどうかだが、勝ちに行くならそんなに悠長なことは出来ないだろう。


「それに関しては短期決戦しかない、ということはわかっている。アトラースを撃墜し、奴らの士気をくじこうというわけだが」


 それは彼も分かっていて、短期決戦で終わらせることしか考えていなかった。

 市内の地図を出して、アトラースのいる方角から線を引いて、王城の上に大きくバツを付ける。

 それを見たエリザベスも、アルバートにしか出来ない作戦を少し考え、やはりこれしかないかと首を振った。


「王城の真上までおびき寄せてエクスカリバーで斬る……作戦にもなってないけど。剣はちゃんと届くんでしょうね」


「可能だな。今の俺には、アストライアの魔法もある」


 正しくはユースティティアの力。しかしそんな事はどうでも良く、剣に戻されたエクスカリバーが悲しげに紅く煌めく。

 アストライアの宿る、アンナの左腕とともにエクスカリバーに封印された少女の意識は、心から泣いていてもなんとなく煌めくのが精一杯だった。


「……泣くなエクスカリバー。アトラースを斬ったら出してやるから。お前の手だって後で必要になる」


 アルバートも若干悪いと思っていたので、とりあえず慰めると。

 少しだけ機嫌を直したように、一度ぎらっと刀身を光らせ、剣は大人しくなった。

 それを見たエリザベスは眉間に手を当てて、なんだコイツらとばかりに。

 眼の前で話し合う人外二人を、呆れた目に見つめていた。


「あんた、しょっちゅう意味わかんないパワーアップするけど、配下が人間だってことは忘れないでよね」


「当たり前だ。人間のほうが都合がいいからな」


 ん? と、彼女は首をひねる。

 都合がいいってどういう意味で? と尋ねようとしたが、彼は遠くから近づくアトラースを見据え、低く唸り声を上げた。


「さて、そろそろ時間だぞエリザベス。いくら死んでも、あの要塞を王城まで連れてこい」


 唸る声、見据える瞳、きらきらと輝き逆立つ黒髪。

 その横顔に、明らかに人間とは思えない迫力と狂気。

 妻を殺された恨みは分かるが、それがここまで人を変えるのかと。

 彼女は背筋に寒気が走ったのを、冗談で誤魔化して。


「ったく、人使いが荒い王様だこと」


「昔のお前ほどじゃない」


 決戦が、始まった。

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