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第十三話:未来

前回のあらすじ!



アレクシア様、ニキアス様、ご結婚おめでとうございます!!

 結婚式に続き音楽祭。実に華やかに行われたそれらの式典を、ひと目見ようと実に50万人の人々が中心街に押し寄せた。本誌では今後のペルサキスの発展を祈念し、お二人の半生を振り返る特集を行います。第2面に続く……



雷神アレクシア様、雷にてゼノンに裁きを下す!

 音楽祭にて行われた、大罪人ゼノンの処刑。ペルサキス近郊のあらゆる場所からその裁きの雷を目にした読者も多いであろう。雷神として祀られるアレクシア様が、我々の守護神として君臨していただく、という象徴になったはずだ。

 しかしアレクシア様は、その裁きは法律に基づき、決してご自身では進んで裁くことをしないと宣言を成された。これは市民に警察や法曹の皆が彼女の手を穢すことの無いよう、真実を追求する努力をしなければならない。という意図であろう。我々報道に携わる者たちも、虚偽を報じることのないように努めていく。


――『ペルサキス新聞』 帝国暦99年5月25日

――アレクシアが静かに歩く。



 彼女の一挙手一投足を見守る観客たちが歌を中断して見つめる中。

 演奏を止めさせたアレクシアがゼノンに掛けられたベールを取らせると、観客たちは口々に彼への憎悪の罵倒を繰り返す。

 その声に満足した顔をして、彼女は彼の顔を見て皮肉っぽく笑い、話しかけた。


「悪党にしては随分歓迎されましたわね。ペルサキスの人間として、貴方を処刑します」


 ゼノンはなんの反応も示さず、ただただ殺されるのを待っているようだった。

 アレクシアはわずかに落胆したが、憎悪の力を振り払った彼女は以前よりはずっと落ち着いた様子で、彼から少し距離を取る。


 では。と呟いて、天に両手を掲げる。


 雲の中で雷鳴が鳴り響き、それを聞いた観客たちがアレクシアの起こす雷の奇跡に目を奪われる。

 以前見たはずの連合国の招待客や、元々ペルサキスに住んでいた住民たちが歓声を上げて、それに釣られた皆が再び彼女を讃えるために歌い出した。


「……なかなか心地よいものですわね。アストライアに、神祖も感じたのでしょうか。この高揚感、全能感。言葉に尽くしがたいものがありますわねぇ」


 自分を信じる民の意志の力、つまり神の力に含まれる負の感情。怒りや悲しみ、憎しみを全てねじ伏せた彼女。

 その瞳は虹色に煌めき、白金の髪も虹色の光を放つ。


 神々しさに圧倒された観衆は皆、彼女を見つめながら歌を歌う。


「呪文、いりませんわね」


 もう、気合を入れるために叫ぶ必要など無い。

 自分の意のままにこの世界を操ることができると直感した彼女はそう感じて、何も言わずに腕を下ろす。


 真昼のように照らされた競技場の中心に、天に聳える光の柱とも言うべき一条の雷が、大地を揺るがす轟音とともに突き刺さった。



 雷を落とし気を失ったアレクシアは、ニキアスに抱えられながら競技場を後にする。

 彼女の起こした奇跡を讃える大騒ぎは朝まで続いていた。



――翌朝、ペルサキス城寝室


 

 結婚式に続けての音楽祭も終わり、今日はただのお祭り。

 今晩に帰る客人たちの見送りも予定されている中、今日まで主役の夫妻は爽やかな朝を迎えていた。


「まさか気を失うとは。ちょっと気合入れすぎましたわね?」


「いやー、すごかったよ。うん。自分の語彙力のなさを恨みたいほどに」


 ベッドに寝かされたアレクシアがむくりと起き上がり、傍らに座るニキアスが清々しい笑顔で出迎えた。シェアトは朝まで騒いでいた観客たちを解散させて寝に行ったところ。

 自信を深めた彼女は大きく伸びをしながら、思いついた言葉を声に出す。


「これでアトラースも動かせますわ、確実に」


「……アトラース?」


 先日、彼女が研究に没頭していた飛石を用いた巨大飛行船。

 それを今なら完全に扱えると確信を持った彼女は生き生きとした表情で続ける。


「飛石を使った新兵器ですわ。そうですわね……翼竜大隊用の空中母艦であり、巨大質量兵器であり……とにかく首都を破壊し尽くすために作る予定の、天空の巨人ですわね」


 雷だけで既に相当な兵器だと言うのに、それを応用して更に大きな兵器を動かすというのか。と、アレクシアのさらっとした発言にニキアスは興味をそそられた。


「運用については僕の方で考えたいな。構想を詳しく……」


 彼が身を乗り出して聞こうとしたところ、朝食を運んできた侍女と、それにぴったりと続いて入室してくる男がいた。

 侍女は心底怯えた顔をして、二人に告げる。


「えぇと、朝食なんですが……あと、ミラクからのお使いだそうで……すみません、剣を突きつけられておりまして……」


「ふむ。なんの要求かな君は」


 ニキアスが答えると、男は無言で大きな包みを置いていく。

 何事かと身構えたニキアスと、枕元から短剣を取り出すアレクシアに、男が一言話した。


「女王陛下からの贈り物」


 それだけを告げてずかずかと去る後ろ姿に、アレクシアとニキアスは思わず顔を見合わせた。

 侍女が泣きながら朝食を用意して走り去ったところで、ぽつりと呟くニキアス。


「流石に処刑だろあれ。追わせるか」


「あー、いや、ミランからのでしょうし。まぁ協力関係にあるので許してあげましょ?」


 アレクシアが彼をなだめて、包みをほどこうと立ち上がる。

 ん? ミラン? とニキアスが首を捻っていると、彼女の口から素っ頓狂な叫び声が聞こえた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???」


「どうしたんだ?」


 口を開けたまま凍りついているアレクシアの後ろから覗き込んだニキアスは、それが何かわからなかった。

 ただ自分の妻が震えているところを見るに、これは何かとてつもないものなんだと思ってはいたが。


「ドラグーン? にしては随分形が違うが」


「全ッッッッッ然違いますわ!!! これ、どこから!? いや、まさかこれは……五百年は先の……」


 そう言って、ドタバタと走っていくアレクシア。

 ニキアスはそのドラグーンのようなものを手にとって少し触ってみる。ペルサキスで使われているドラグーンよりも遥かに金属の重みを感じて、さらに銃身の途中から箱が出ている。


「なんだこれ?」


 その箱を取り外すと、中から出てきた大きな弾。ほのかに火薬の匂いを感じるそれは、恐らく弾丸と火薬が一体になったものだと気づいた。


「凄いなこれは。技術力という意味ではウチより上か?」


「戻りましたわ!! やはりこれは、お父様の仕業ですの!!」


 小さなノートを持ったアレクシアが顔を出す。

 しばらくそれとドラグーンを見比べていた彼女は、ため息をついた。


「技術的には可能、とかそういうレベルじゃねーですわよこれ……自動小銃なんて、いくら設計図があっても作成できるなんて……!!」


「君の日記ってことは、未来の技術か。で、どうすごくて、どうやったら作れるんだ?」


「……ドラグーンは一発一発弾と火薬を詰めなきゃいけないんですの。紙に小分けにしておいて入れる、なんてこともしてますけど。これは弾と火薬を真鍮の鞘に詰めたものを、発射の反動で次々と装填して連射することができる兵器ですわ……肝心の弾丸の方を作るのは恐らく無理ですわね。密封する加工技術なんかありませんのよ。それで諦めましたのに」


 ニキアスはしばらく考え込んで、言葉をひねり出す。


「…………なんで、皇帝が作れるんだ?」


「全くわかりませんわね。銃身の方はライフリングもされていませんし、従来のドラグーンを流用改造したものだということは分かりますが、弾丸はさっぱりですわ」


 この時のアレクシアには知る由もないことだが。

 皇帝直轄軍の精鋭たちが、冬の間ずっと真鍮の薬莢を作り続けていた記録が残されている。

 皇帝の書いた設計図をもとに鍛冶職人たちが作成した薬莢に火薬と弾丸を入れて組み合わせて、身体強化を掛けた肉体で一つ一つ丁寧に一生懸命プレスを掛けるという、気の遠くなるほどの工程。

 不良在庫もかなりの量抱えてはいたが、それでも百年祭の反乱に持ち出す二百五十丁分の弾丸数万発を用意していた。

 統一後の彼女はその記録を読んで開いた口が塞がらなかったという。


「ペルサキスでの実用化は無理ですわね。ほんとどうやって作ったんだか、ですわ」


「対策はあるかい?」


「これは純粋にドラグーンの上位互換なので対策はありませんわね。ただこの一丁は役に立つとは思うのですが」


 中央でしか作れない兵器なら、まぁそれ相応の使い方があるかと判断したアレクシア。

 この新型ドラグーンはしばらくの間その存在自体を最重要機密に指定された。


「まぁこれは一旦しまっておきましょ」


「そうだねぇ。んで、ミランとか言ってたけど、彼女が女王ってどういう事だ?」


 あぁ、とアレクシアが相槌を打って。


「言葉通りですわよ。ミラクの女狼が女王本人ですの」


 え? と聞き返すニキアスに、アレクシアはミランの話をした。



――



「…………は?」


「ですから、まぁほぼ事実ですわよ」


 信じられない。とばかりに、今度はニキアスが口を開けたまま凍りつく。

 すっかり冷めた紅茶を二人で飲んで、冷たくなったトーストを食べて。


「いやまぁ……うん……そう……信じよう」


 しばらく反応に困っていたニキアスが、観念したようにうなだれる。

 そんな反応になりますわよねぇ。とアレクシアは苦笑いをして、言葉を返した。


「不老不死、なんて馬鹿げてますわよね。気持ちはよくわかりますわ」


「だろ? まぁ女神の血縁なら……わからないでもないけど」


「んで、なんでミランだけが不老不死だと思います?」


 ニキアスは首を傾げて考え込む。

 アレクシアは既にその理由に見当がついていたようで、ニヤリと笑った。


「アストライアの予備の肉体ですわよ、ミランは。本人は気づいていない気もしますが、いざという時の保険でしょうね」

 

 笑いながらアレクシアは続ける。

 自分なら恐らくいざという時の保険は残すだろうと仮定して、アストライアの考えを推察する。


「顕現するには理想の肉体であるわたくし。それは理解していますわ。ただアストライアは今アンナの肉体を使っているように、空の肉体でないと使えない……だから、理想の肉体であるわたくしを奪うには殺す必要があるのですわね」


「なるほど?」


「だから、ミランはわたくしを殺すための保険として必要なんですわねぇ。アンナの肉体が壊れた時の。多分ミランを殺すか、肉体を奪うための何かは仕込んでいると思いますわ」


 ひどい母親だな……とニキアスは絶句して。

 アレクシアはミランに少し同情して続けた。


「彼女、死にたいって言ってましたけれど。ちょっと気が引けてきましたわ」


 本人にこれを言っても苦しめるだけだろうか。と考えを巡らせるアレクシアとニキアス。

 しかしミランの目的は自分たちと同じであるほうが都合がいい。黙ったまま進めていこうと二人は合意した。

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