カツラギ公国は燃えているか!?
------- 新星暦2521年5月2日
サルガッソ宙域と呼ばれている星団。
数十の恒星系によって成り立っている。
見た目は・・・ごく普通のありふれた星団ではあるが・・・決して普通ではない!!
このサルガッソ宙域は宇宙船の墓場とも呼ばれ・・・ワープ航法が使用不可となってしまう要注意地帯。
もちろん・・・人類の立ち入りも拒否するような前人未到の宙域でもある。
そんな前人未到宙域の中央部に・・・星間国家が存在していた。
その名はカツラギ公国!!
その歴史は古く・・・2600年前、このアマルガワ銀河を支配していた銀河帝国によって、
この星系の統治を委任され封国されたのがカツラギ公国であった。
そして・・・現在も 何の問題もなく支配し続けていた。
そのカツラギ公国所属、第10惑星を周回する通信ステーションから・・・
・・・星系外から流れてくる異常な時空間変化をキャッチした。
この異常な時空の流れは・・・2600年ぶりの感知である!!
それも・・これまでないような異常な数値をたたきだした。
かなりの大質量が迫ってくる反応。
それは500隻におよぶ大艦隊であった。
侵略の始まりである!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
第4メルテリア共和国艦隊・総旗艦エルフイートの甲板デッキでは 多数の小型艇が離着陸を繰り返していた。
この小型艇の目的は この未知なる星系内の索敵と調査である。
そして・・・小型艇からの調査データーが次々と送られ 艦隊司令部のディスプレイに表示されていく。
有益な情報から・・無駄な情報まで・・・あらゆる情報、征服するべき未知なる星系の詳細情報を全て表示していった。
この時点では、どこにでもある普通の星系だと 司令部内にいる誰もが そう思っていた!
ここでいう普通とは・・軍事的に問題のない無人星系だということである!!
しかし・・・この星系は違っていた。
この小型船から送られてくる情報から・・とんでもない事実が明らかとなった!!
この星系に人類が住んでいる!! 有人星系だったのだ!!
前人未到で既存のワープ航法が使えない未開なるサルガッソ宙域!!
この宙域の星系は全て無人星系であると思い込んでいたのだが・・・まさか人類が住んでいたとは・・・驚きである!!
「ま・・まさか、伝説のカツラギ公国!?」
白髪をした艦隊総司令官デルスデル提督は・・・なにやら感慨深げに呟いた。
伝説やロマン・・・または歴史を好む人しか知られていない国名、カツラギ公国。
または、オカルト話に属するといってもいいほどの怪しげな国名でもあった。
おそらく・・・一般の人たちにとっては無関心、ほとんど知られていないであろう。
小型艇からの調査データーによると・・・この星系に人が住んでいるのは間違いなさそうである。
それを証拠に・・・人工物体ともいえるものを いくつか確認したのであるが・・・
・・・それは かなりあれというか・・・たいへん珍しい!!
というか・・・古代の遺物のような人工物体であった。
例えば・・・ガス惑星の衛星軌道上にある古めかしい形式の採掘ステーション。
古すぎるというか・・・もはや文化財レベル、5000年以上前の骨董品にしか見えない。
同じく・・・各惑星の軌道上に設置してある時代遅れな通信ステーション・・・
・・・いまだに電波通信!! 6000年前の古典技術を使用している。
そして・・わずかながら、エネルギー反応がある第三惑星。
予測であるが・・その第三惑星に人類が住んでいるのであろう。
だが・・共和国基準からすれば エネルギーの発生量が少なすぎるのである。
おそらく初期型の核融合炉で 細々と発電をしているのかもしれない。
とにかく・・・
この星系の技術力は あまりにも初期的、原始的・・過ぎたのであった。
初期宇宙時代に移住し・・そのまま孤立したのだろうか!?
実に・・・これはこれとして興味深いが・・・伝説のカツラギ公国とはまったく正反対であった。
ちなみに カツラギ公国伝説とは・・・
そう!! それは かつて神代の時代に存在した偉大なる銀河帝国。
人類の滅亡から人々を救い、救済した神のような国。
強力な軍事力と科学力で銀河系に安定と平和をもたらした国。
しかしながら・・・現在、銀河帝国は存在しない。
人類の所業に嫌気を差した銀河帝国人たちは、この銀河を見捨て・・・
どこか遠い・・遠い銀河へと旅発ってしまったのである。
だが・・・すべての銀河帝国人が去ったわけではなかった。
唯一、このアマルガワ銀河に残り・・・この銀河の行く末を見守り続ける存在。
それが銀河帝国を構成する諸邦の一つ、カツラギ公国である!!
いわば・・・
あの偉大な銀河帝国の文明と技術力を 今の時代に受け継ぐ後継国。
伝え聞くところでは・・・
恒星をダイソン球で包みこみ・・驚異的量のエネルギーを獲得・・・
高度な技術力で人々が幸せに暮らすあの銀河帝国時代を再現した夢の国であるという。
・・・だが、この星系の原始的文明をみると・・伝説で語られているものとは違いすぎる!!
「うむ・・・この星系の文明は低すぎる。ダイソンもしていない!! 伝説のカツラギ公国とは別ものだな!! 間違いない」
デルスデル提督は自らの思考に納得したところで・・・参謀の一人が走り寄ってきて一つの報告をした。
この星系を領有する国から 共和国艦隊に向けて警告の通信を受けたというのである。
「ほう!! 原始的技術しか持ってないので 国家形成はしていないとおもったが・・・一応、国家組織はあるのだな!!」
「はい。彼らは・・自らのことをカツラギ公国と名乗り通信をおくってきました!! 通信内容は
<< この星系はカツラギ公国の領土である!! 所属不明の艦隊に告ぐ。 ただちに停船し訪問理由を告げよ >>
であります!!」
デルスデル提督は この通信内容を聞いたとたん・・・体全体が固まってしまった。
カツラギ公国! カツラギ公国!
聞き間違い!? まさか・・・
デルスデル提督は 思わずその参謀を睨みつけてしまった。
「なんだと!! カツラギ公国!? カツラギ公国と名乗ったのか!!」
「はい 通信では間違いなく カツラギ公国と名乗っています」
カツラギ公国の伝説を知らない参謀にとって・・なぜ提督が こんなに驚き睨んだのか まったく理解できなかった。
骨董品のような採掘ステーション!!
いまだに電波通信の通信ステーション!!
伝説とまったく違うではないか!!
「こんな・・こんな カツラギ公国などあってはならん 絶対に認めん!!」
デルスデル提督は おもわず本音をもらし 周囲にいた参謀たちは驚いた。
唯一・・参謀の中で一番の若手であるエーレル大尉だけは・・・提督の驚きに理解を示したのであった。
エーレル大尉も カツラギ公国伝説を知る一人であったからである。
デルスデル提督や参謀のエーレル大尉のように伝説やロマンを愛する者なら
カツラギ公国に何らかの思いを・・・または夢を・・希望を見ていたのかもしれない!!
"" カツラギ公国は究極なる技術力を有するユートピア!! 誰もが幸せに暮らせる国 ""
たしかに カツラギ公国と名乗る国は存在した!!
しかし・・・伝説で語られるような銀河帝国の遺産を受け継ぐ国ではなかった!!!
カツラギ公国は なんの変哲もない遅れた辺境国家だったのだ!!
子供の頃から信じ込んでいたものが・・現実と違い デルスデル提督は 何とも言えない気持ちに陥る。
エーレル大尉も同様に何か大切なものを失った気持ちになった。
「このカツラギ公国は・・どうやら あまり技術が発達してないようです・・ワープ技術さえ確率していない可能性さえあります。
小型の宇宙船らしきものが確認できますが・・見たところ低技術力で作られているようです。
当初の予定通り・・・即座に占領し・・我が国の補給基地とすべきです 」
デルスデル提督の心中をよそに カツラギ公国伝説を知らない参謀の一人が発言をした。
「そうだな!! さっさと侵略して・・・こんなカツラギ公国など なかったことにしてしまおう」
伝説を否定されたデルスデル提督の本音のはいった発言である。
サルガッソ宙域内にある進路上の星系を全て占領し・・補給基地化するというのが 共和国首脳部の基本的戦略だったのである。
首脳部はカツラギ公国伝説など まったく信じていないし・・・考慮すらしなかった。
そして・・・
幸いなことに カツラギ公国の文明は かなり遅れており、占領も容易く成功するであろう。
・・・カツラギ公国が銀河帝国由来の文明を持っていないことは、共和国艦隊にとっては幸運だったのである。
そういうこともあり・・デルスデル提督は半分は残念でありながらも 半分は安堵するのであった。
もしも カツラギ公国の文明が銀河帝国に匹敵するのなら・・・共和国艦隊などあっというまに壊滅することになるのだから・・・
「カツラギ公国の本星は・・・どうやら第三惑星であるようです 直撃を加え即座に占領いたしますか?」
「いや!! その前に・・・すこし威嚇をしてみるのもいいだろう」
第4メルテリア共和国艦隊は 外縁部に設置してあるカツラギ公国通信宇宙ステーションへと・・進路を向けた。
まずは軽い挨拶程度の侵略である。