第3話 武装解放拳・龍焔
人々の方へ向かっていったクリーチャーに追いついた賀志皆龍吾は武装解放拳・龍焔を使用し、戦闘を開始する。だが一筋縄では行かず、クリーチャーに隙を見せてしまう。
そして雷馬もクリーチャーと戦闘をしていたがなかなか決定打を見出せずにいた。そこで雷馬はクリーチャーの容姿などから弱点を見つけようとする。
「逢葉社長! ブラッディウォールの門が開き、クリーチャーがデモンズシティから出てきたという報告が相次いでいます!」
「……始まったか、あいつらを信じるしかねえな……!」
ブラッディウォールの方を見て、咲は言った。
「なんでいきなり門が開いたんだよ! あの巨大な門は自動で開閉するのか⁉」
「おい見ろ! あの翼が生えたバケモン……こっちに来るぞぉぉ!」
ブラッディウォール周辺の街は混乱に包まれていた。無理もない、突然異形の怪人が目の前に現れたのだから。
「皆さん落ち着いてください! 一度に動くと危険です!」
「この状況で落ち着いていられるか! 君もはやく逃げろ!」
(どうしよう……。このままじゃ……、雷馬……龍吾……!)
華恋の指示を誰も聞こうとはしなかった。人間は焦っているときに本性が出るのである。すでに人間どうしの衝突で何人も怪我人が出ている。
華恋は必死に頭を回転させるが、人々をまとめる方法は何一つ思い浮かばなかった。
「うわあぁぁぁぁあ!」
翼の生えたクリーチャーはあっという間に逃げる人々に追いついた。そしていきなり急降下し、逃げる人を噛みつこうとしたその時だった。
「――うぉぉらぁぁあ!」
なんとか間に合った龍吾が右手に装着した武装開放拳・龍焔でクリーチャーの顔を横殴りし、クリーチャーを吹き飛ばす!
「龍吾! 雷馬は⁉」
「壁のすぐ近くでもう一体のヤツと戦ってる! この翼野郎は俺が引き受ける! ここはもうすぐ戦場になるぞ、離れてろ!」
龍吾は民衆と華恋にそう言うと、リュウエンウォーリアークリスタルを手に取り、スイッチを押した。
『リュウエンウォーリアー』
システムを起動させ、武装開放拳にあるスロットにクリスタルをはめる。武装開放拳からは雷馬の武装開放デバイスと同じように右肩に装着したアームドコントロールデバイスへとチューブが繋がっている。
「武装開放……!」
トリガーを引き、コントロールデバイスへクリスタルの成分が流れていく。そしてコントロールデバイスが展開し、空間上にアーマーが創り出され、龍吾に装着されていく。
龍吾は武装解放者リュウエンへと姿を変えた。
機械的なアーマーと龍のような鎧が混ざり合った姿でクリーチャーを威圧する。
「おい翼野郎……見えるか? この炎はお前らクリーチャーへの憎しみそのものだ、俺がここでお前を消し炭にしてやるよ」
龍吾は怒りとともにその拳に炎を宿らせた。
「ヤレルモノナラヤッテミロ。サタン様ノ大イナル意思ニハ誰モ抗エナイ」
「っ! お前……人間の言葉が分かるのか……?」
「何ヲ焦ッテイル? 噛ミ砕カレタイノカァ!」
龍吾に噛みつこうとするクリーチャー。だが龍吾はそれを間一髪でかわし、クリーチャーの顎にカウンターアッパーをくらわせる。クリーチャーが怯むと、龍吾はたたみかけようと腕に力を込める。しかし、クリーチャーは翼を広げ龍吾の手の届かない場所まで舞い上がると、再び上空から急襲を仕掛ける。
「ッ⁉︎ コイツ――」
「危ない! 龍吾!」
(くっ! ダメだ、決定打を与えられない! このまま戦いが長引けば、クリーチャーより体力の低い人間のほうが不利だ……!)
時を同じくして雷馬もクリーチャーに決定打を与えることが出来ず、苦戦していた。
(ただ闇雲に斬っても体力を消耗するだけか……せめて敵の特徴さえつかめれば――)
雷馬はクリーチャーの姿に注目した。
(黒色の体毛に光る目、そしてあの鋭い爪。俺はどこかで見たことがある。何かあのクリーチャーの姿に酷似した絵をどこかで見たはずなんだ。考えてる時間は無い……一か八か試すしかない!)
素早く雷馬に接近し鋭い爪で切り裂こうとするクリーチャー!
――今だ!
雷馬はその瞬間地面に仰向けに倒れクリーチャーを上空へ蹴り上げる。だがクリーチャーの爪が少し当たってしまう。
(ぐっ! この爪、アーマーを貫通しやがる!)
そして上空に蹴り上げられたクリーチャーは空中で体勢を立てなおし、着地と同時に片足で雷馬を踏みつける!
「ゔああぁぁああああああ!」
「所詮人間ジャ敵ワナイ、オマエモココデ死ネ!」
そう言うとクリーチャーは足にさらに力を入れる!
――こいつ、喋れるのかっ……!
雷馬は焦りながらも余裕そうにこう言った。
「命をかけて試した甲斐があった……。お前、今よく空中で体勢を立てなおしてきれいに足で着地できたな、まるで猫みたいだったよ……」
「…ナニ?」
「お前にそっくりな見た目のヤツが嘘か本当かわからない伝説ってのに登場するんだ。そいつは猫の特徴を持つ人型のバケモノ。まぁ根拠はそれだけだったからほぼ賭けだったんだけど……、まさか図星だったのか?」
「――チッ!」
クリーチャーは手の指の鋭い爪で雷馬を殺しにかかろうとした。だが、
「ヴヴッ⁉」
雷馬を踏みつけている方の足全体にとてつもない痛みが走る。見ると、武装開放剣の剣身が全て足に入っていた。
「着地するときは足元に気をつけとけよ? 地面に倒れてるヤツが剣を真上に突き立ててるかもしれねえからなぁ! きれいに着地してくれたおかげできれいに貫けたよ、ふとももの中までえぐれてるだろうな……!」
雷馬は再びクリーチャーを蹴り上げる。クリーチャーは空中で体勢をなおしたが片足が使い物にならないためうまく着地できず、地面に叩きつけられる。
「悪いな、俺の勝ちだ」
雷馬はスロットにセットされているクリスタルのスイッチを押し、グリップに付いているトリガーを引く。
この動作をすることでウォーリアークリスタルの力を一時的に引き上げることができるのだ。
『思考を分析……了解。送られたウォーリアークリスタルの成分を強化し、武装開放剣の威力を引き上げる』
アームドコントロールデバイスに内蔵されているAIが雷馬の思考を分析し、開放剣に強化した成分を送り、剣身に力が宿る。
「言っただろ?甘く見るな……って」
青く光る剣身で勢いよくクリーチャーの腹を斬ると剣身が触れた部分が青い閃光を発したその刹那、轟音を響かせながら爆発した。まるで雷のように。
「ヴアアァァァァァァァアアア!」
クリーチャーは叫びながら倒れ、爆発で発生した煙に包まれた。
「なんとか……、勝てた……殺されてもおかしくなかった……」
雷馬の足は震えていた。喜びよりも恐怖のほうが大きかったのだ。
「……そうだ! このクリーチャーがつけていた首輪みたいなやつが何だったのか調べて報告しな……え?」
雷馬は撃破したクリーチャーの方を見た。しかしそこにクリーチャーはおらず、なぜか人間が倒れていた。
「そんな……まさか……」
「……へっ、俺の右腕のお味はどうだ?」
「ア……レ……? ナン……デ?」
クリーチャーは狙い通り龍吾の右腕に噛み付いた――はずだった。
「言うの忘れてたけど、俺の右腕を食べる時は牙が砕けるのと火傷に注意するんだな」
噛みつかれる寸前、龍吾は右腕を後ろに引くことでタイミングをずらしていた。そしてクリーチャーが口を閉じる瞬間に、思いきり牙を殴った。
「その立派なたてがみ……お前、ライオンだろ? なんで翼があるのか知らねえけどよ。百獣の王が牙をなくすなんて情けねえなぁ!」
龍吾は開放拳の横についている刃で翼を斬って損傷させ、クリーチャーを飛べないようにした。
「バカ……ナ」
龍吾はクリスタルのスイッチを押し、トリガーを引いた。
「コントロールデバイス。こいつをぶっ飛ばす」
『了解。攻撃能力の強化』
コントロールデバイスが展開し、空間上に成分を放出する。その成分は段々と龍のような形になっていく。
「これで終わりだ! ハァァッ!」
リュウエンが殴るのと同時に巨大な炎の龍がクリーチャーに噛みつく!
「ソンナ! ……アリエナイッ! サタン様ァァァァァァァァァ!」
龍はクリーチャーを包み込んだあと爆炎となり、クリーチャーは力尽きた。
「喰われたのはお前の方だったな、ライオン翼野郎」
龍吾はクリスタルをスロットから外し、武装を解除した。
雷馬と龍吾の活躍により、クリーチャーは二体とも撃破された。
「龍吾、やったね! ……けど危ない戦い方しすぎ! けど本当に良かっ――、龍吾?」
華恋の言葉を聞かず、龍吾は力尽きたクリーチャーが人間に戻っていく様子を見ていた。
「どうしたの? もうあのクリーチャーは倒したんじゃ……え……? なんであそこに人が倒れているの?」
「そういうことか、なんとなくわかったぞ。なんでコイツとあっちにいるもう一体のクリーチャーしかデモンズシティから出てこなかったのか……」
――その時だった。
「おい、何だよあれ! モニターに変な映像が流れているぞ!」
「今度は何だよ!」
混乱する人々の声を聞いた龍吾と華恋はビルに付いているモニターを見た。
「……まさか、奴らがハッキングしたのか!」
モニターには異形の鎧を纏った何者かの姿とブラッディサンの紋章が映し出されていた。
「刮目せよ、これは宣戦布告だ。私の名はサタン、ブラッディサンのトップだ。一年前にデモンズカラミティを引き起こし、大勢の人間を殺した。我々の目的はこの国の全土をブラッディサンの領地にすること。抵抗したいのなら好きにすればいい、殺される覚悟があるのなら」
やはり実戦は訓練と似ているようで違います。
一年ぶりとなるクリーチャーとの戦闘で雷馬と龍吾は苦戦をしながらもなんとか勝利をおさめました。
そして遂にブラッディサンのトップ、サタンと名乗る者が現れ、国全体へ宣戦布告を行いました。
彼の他にもブラッディサンにはとてつもない力を持つ幹部達がいます。
その一人が第1話の最後に登場した男。
つまり、人間をクリーチャーに変え、門へと向かわせた男です。
彼もまたサタンと同じように雷馬達とは違うシステムで鎧を纏うことができます……と、余計なことを喋りすぎましたね。
次回は第4話、とても重要なお話です。今まで作中で語られていなかった、主人公達が所属しているネムレジャスティスという組織のことについて深掘りしていきます。
そして、ブラッディサンと戦う組織はネムレジャスティスだけではありません。次回、新たな組織が登場します。
それでは、お楽しみに——。