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木洩れ陽の路地と風の丘 (久石譲:魔女の宅急便・イメージアルバムより)

作者: 日下千尋

私の名前は丹波山(たばやま)夏美、父の仕事の転勤で山梨県上野原市から神奈川県横浜市に引っ越してきました。

4月には中学生になります。

母から卒業祝で買ってもらった角野栄子の原作「魔女の宅急便」、友達からもらった色紙、親友の小菅亜由美からもらった、手作りのぬいぐるみをもって新居へと向かいました。

家に着くと引っ越し業者がやってきて荷物運びが始まっていました。

家具などの配置を終えると引っ越し業者はいなくなり、今度は段ボールに詰めてある着替えや食器などの準備が始まりました。

その日の夜はコンビニで買ってきた弁当で済ませました。

次の日の朝、私と父は母と一緒に近所にあいさつ回りをしました。

みんなとても感じがよく、丁寧にあいさつをしてくれました。

中には引っ越ししてまだ日が浅く、新しい生活に慣れていないという心配りで近所の人からおかずをおすそ分けしてもらったこともありました。

近所の人からこんなにやさしくされて本当にうれしかったです。

入学式までにはまだ日数があったので、日曜日にはバスに乗って駅前でも散策してみようかと思いました。

まず驚いたのはバスの本数でした。上野原では午前中に5本、午後4本が当たり前でした。しかし横浜は違います。午前中どころか、1時間に6本近く走っていたので、驚きました。乗るときも後ろから整理券ではなく、前から現金220円を前払いすれば好きな場所まで移動ができる、夢のような場所でした。

駅前は大きなショッピングセンターが並んでいて、一日いても飽きないところでした。

行きたい場所がたくさんあるので、まずは文房具屋へ行って新しいノートや下敷き、蛍光ペンなどを買いました。

次に向かったのは本屋でした。図書カードが少し残っていたので「魔女の宅急便」の2巻を買うことにしました。

今日の収穫はこれくらいかな。調子に乗ると小遣い無くなるかです。

帰りもバスの乗り遅れても心配しなくていいのが横浜の魅力でした。

上野原にいたころは最終が夕方5時でしたので、夜遊びが出来ませんでした。

でも、いくらバスが夜遅くまであっても門限が6時までとなっていたので、夜遅くのバスは利用できません。

中学生になったわけなんだし、門限を7時にしてもらいたいけど、石頭の両親に交渉するのは難しすぎるので、しばらくはおとなしく従うことにしました。

そして迎えた入学式。真新しい制服に袖を通し、玄関で一枚記念写真、そして校門で一枚写真を撮りました。

「もしかして君、一年生?」

「はい、そうですけど。」

「よかったら、一枚とりましょうか。さ、お母さんも横に並んでください。」

私は先輩と思われる人に言われるままに母と並んで校門をバックに写真を撮ってもらいました。

「失礼ですが、お名前は?」

「あ、私ですか?私はこの学校で風紀委員をやっています2年1組の牛久保(うしくぼ)直美です。あなたのお名前は?」

「私は丹波山(たばやま)夏美です。少し前に山梨の上野原から来ました。」

「ということは、学校はもちろん、横浜も初めてなんだよね。ようこそ茅ヶ崎南中学へ。3年間思い切りエンジョイしてください。あと、ついでだから紹介するけど、横にいる地味な彼女は今宿(いまじゅく)清美。」

「こら直美、地味は余計だろ?」

「家ではジャージばっかじゃん。悔しかったら、ピンクのワンピでも着てみたら?」

「上等だごるぁ!それを着て駅前のショッピングセンターに行ってやるよ。ついでだから男をナンパしてくるから覚悟しておけよ。」

「あの、入学式が始まるから、行ってもいいですか?」

「あ、ごめんね。ピンクのワンピを着る地味な今宿(いまじゅく)さんが足止めをさせたからね。」

「おい、牛久保直美、あとで覚えとけよ。あ、丹波山(たばやま)さん、新入生の教室は2階の奥の教室だから。お母さんは1階の保護者控室へどうぞ。」

私と母はそれぞれ別の部屋へ向かった。

教室へ入ってみると、当たり前ですが知らない人ばかりでした。

私は指定された席に座り、一人で孤独感を味わっていました。

小学校の時は知っている人ばかりだから、気楽に話が出来ましたが、ここはもう上野原ではなく、横浜なので早く新しい友達を作ろうと思いました。

そういえば、亜由美はもう友達できているのかな。そう思ってぼんやりと教室を見渡していました。

周りはすでに友達が出来て楽しそうに会話をしていました。

こんな孤独はもう耐えられない、今すぐ上野原に戻りたい。街が不便でもいいから昔の友達に会いたい。そう思った瞬間、私に声をかけてきた女の子がいました。

「こんにちは、見ない顔だね。どこから来たの?って、どうしたの?幽霊みたいな顔して!」

「山梨の上野原から来ました・・・・実は周りに話し相手がいなくて・・・」

「山梨か。周りが自然でいいところだよね。私、大自然って大好きだから。私の名前は都岡(つおか)美緒、よろしくね。あなたの名前は?」

「私は丹波山(たばやま)夏美です。」

「あのさ、敬語なしにしない?」

「上野原ではなんて呼ばれていたの?」

「普通に『丹波山さん』って。」

「マジ!?じゃあ、私が考えてあげる。」

「普通に苗字でいいよ。」

「だーめ。じゃあ、夏美だから、『なっつん』は?あと、苗字が丹波山だから『たばちゃん』は?」

「じゃあ、『たばちゃん』で。」

「了解!よろしくね『たばちゃん』。」

「ありがとう。都岡(つおか)さんは名前が美緒だから『みーちゃん』でいい?」

「お!可愛い呼び名、ありがとう。」

教室に担任の先生が入ってきて体育館まで案内された。

先輩たちの歓迎の言葉、校長先生や来賓の挨拶など済ませたあと、再び教室へ戻った。

「まずは入学おめでとう。先生の名前は鴨居実だ。担当科目は数学、部活はサッカー部だ。俺のことをどう呼ぶかは、お前たちのセンスに任せる。あ、一応言っておくが俺は曲がったことが嫌いで、特に無断で遅刻した人間には廊下で正座をしてもらうから覚悟するように。部活の朝練で遅くなる時には、部長か顧問を通して、俺に伝えるように。ま、硬いことはこの辺にして、3年間どう過ごすかは君たち次第だ。遊ぶのもよし、部活に専念するのもよし、男女交際するのもよし、勉強するのもよし。そして、卒業式を迎えた時には、満足した顔で校門を出るように。では、せっかくなので、君たちの自己紹介をお願いしようか。すれ違うたびに『おい』とか『そこのお前』、『君だよ、君』っていうのは嫌だからな。」

みんな一人ずつ自己紹介をしていきました。そしてついに私の順番がやってきました。

「今年の3月の末に父の仕事の転勤の都合で山梨県上野原市からやってきました、丹波山夏美です。いろんな趣味を持っていますが、最近夢中になっているものは読書です。角野栄子の原作『魔女の宅急便』の本は一番のお気に入りです。映画には出てこないシーンがたくさん出てきて、とても面白いです。あと最近つけられたあだ名は『たばちゃん』です。それではよろしくお願いいたします。」

そのあと、みーちゃんの自己紹介が終わり、順次最後まで行きました。

終業のチャイムがなり「明日は部活紹介とオリエンテーションがあるから。」鴨居先生はそういって、教室を後にしました。

入学初日の放課後、早速みーちゃんこと都岡(つおか)美緒と一緒に帰ることになりました。

「さっきの自己紹介で驚いたんだけど、たばちゃんって魔女の宅急便好きなんだって?」

「うん、でもまだ2巻しか読んでいないから。」

「DVDでは見ないの?」

「もう見たから。面白かったよ。」

「私はDVDだけ見ていれば満足かな」

「原作も結構面白いよ。よかったら、貸そうか。」

「せっかくだけど、字ばっかの本って苦手だから。」

「そうなんだ。」

「ごめんね。それより、せっかく友達になれたわけだし、うちに来ない?」

「いいの?」

「もちろんだよ。」

「いつにする?」

「今日は?」

「少しだけなら。」

「じゃあ決まりね。」

「家はどこ?」

「ここだよ。」

ここは近所の児童公園から少し離れた場所でした。

「美緒の家って、この園の近くだったんだね。」

「うん、時々ここへ来るよ。」

「そうなんだ。」

「どうしたの?入るの?入らないの?」

「それでは、お邪魔します。」

私は言われるまま美緒の家に入ってしまいました。

「初めまして、丹波山夏美です。先日父の仕事の都合で山梨の上野原から引っ越してきました。よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ、初めまして。入学式ではあなたのお母さんとは挨拶しましたよ。あなたのお母さんって、とても感じのいい人だったよ。」

「ありがとうございます。」

「美緒、あとでお茶とお菓子を用意するから、とりに来なさいよね。」

「わかった。」

美緒は私を自分の部屋に案内しました。

「失礼しまーす。」

そっと入ってみると、大きなステレオとスピーカーが置いてあり、その横にはパソコンも置いてありました。

美緒は何も言わずステレオにCDを再生させました。

透き通った感じで魔女の宅急便の音楽が流れてきました。

私が持っている「サントラ音楽集とはまた違う雰囲気です。

下の階から紅茶とクッキーを運んできた美緒が「ちょっとうるさかった?よかったら、ボリューム下げる?」と気遣うように言ってきました。

「ううん、大丈夫だよ。この音楽って『魔女の宅急便』だよね?」

「そうだよ。」

「私が持っている『サントラ音楽集』とはまた違う感じだったから、驚いて・・・・」

「これ、『イメージアルバム』だから。よかったらコピーしようか。」

「いいの?」

「うん。」

「あとで、空のCD用意するから。」

「いいよ、私がプレゼントするよ。友達になった記念と、引っ越し祝いを兼ねて。」

「ありがとう。」

CDは「風の丘」の曲が終わったころ、美緒はパソコンの電源を起動してコピーする準備を始めていました。

「私、この曲好きなんだよね。いかにもテーマ曲って言うか、シンボルテーマ的に感じるから。」

「私も。」

準備が出来上がったら、一度ディスクを取り出し、コピーを始めました。

私は出された紅茶を飲みながらコピーが終わるのを待っていました。

ディスクのコピーが終わり、ご丁寧にもレーベルの印刷とジャケットのコピーまでしてくれました。

「ありがとう。」

夕方前、私は家に戻り夕食と入浴を済ませて、部屋でコピーしてもらったCDを再生しました。

最後の「木洩れ陽の路地」はバイオリンの静かな音色で癒されます。

その静かな音色が子守歌に聞こえてしまい、ベッドでそのまま眠ってしまいました。


次の日、学校ではオリエンテーションと部活紹介があり、みんなどの部に入るか迷っていました。

ホームルームで担任の鴨居先生はみんなに部活の一覧表と入部届の紙を渡しました。

「いろんな部があって迷っているかもしれない。この中でJリーグやなでしこジャパンを目指している人がいたら、『サッカー部』と書いて俺に直接提出するように。提出期限は来週の水曜日まで。ただし、『帰宅部』と書いて提出した人間は再度書かせるから、覚悟するように。」

「先生、質問していいですか?」

「どうした、川井。」

「部活って強制なんですか?」

「どうした?入りたい部活がないのか?それとも家でやることがあるのか?」

「生徒手帳に記載されている最後の校則には部活は任意と書いてあったので。」

「確かに君たちに強制していることは認める。だが考えてみろ。卒業アルバムに部活コーナーがあって、自分の写真が載っていなかったらかっこ悪いだろ。」

「入ったら、先輩怖そうだし・・・」

「先輩が怖いのか。よし、わかった。もしいびられることがあったら、すぐに俺に言いに来い。運動部も文化部も楽しんでナンボの世界だ。試合の勝ち負けや失敗や成功など、一切気にするな。特に運動部に入りたいヤツに言っておく。ケガだけはするな。あとやりすぎて、次の日の授業に影響がないように。部活の疲れが原因で授業中に居眠りしたら、1週間部活を休むように顧問に伝えておくから。」

私は部活の一覧表見て、気になったのが2つありました。

アニメ部と吹奏楽部でした。

「先生、質問していいですか?」

「どうした、丹波山(たばやま)。お前もまさか『帰宅部』なんて言うんじゃないだろうな。」

「2つ入るのって、無理ですか?」

「ダメとは言わない。兼務しない方を進める。時間はたくさんある。家に持ち帰ってゆっくり考えろ。」

放課後、私は音楽室を覗いてみました。

とてもきれいな音色で演奏してくるのが聞こえてきます。

しばらく覗いてみたら、先輩らしき人がやってきて、「こんにちは。もしかしてブラバンに興味あるの?」

「はい、ちょっと・・・でも、まだ入るって決まったわけではありませんので。」

「じゃあ、せめて前の椅子に座って聞いてもらえる?後ろで立ち聞きされると、みんな集中できないから。」

「すみません。」

「謝ることないよ。みんな最初はそうだったんだから。」

練習とは言え、目の前で聞くとさすがに迫力のある音でした。

演奏が終わり、見覚えのある人を見かけました。

「あれ、よく見たら入学式の時に校門で見かけた・・・えーっと、確か山梨から来た・・・・」

「丹波山夏美です。今宿清美さんですよね。」

「そうそう。」

「トランペット、かっこよかったです。」

「ありがとう。ブラバンに入ってくれるの?」

「実はまだ考えているのです。」

「他に入りたい部でもあるの?」

「実はアニメ部も考えているのです。」

「アニメ部!?辞めたほうがいい。卒業したころには牛久保直美という驚異の腐女子みたくなるから。あそこはBLマニアの腐女子集団の集まりだから。」

「BLって男同士が愛し合うお話ですよね。」

「そうそう。あんなところに入ったら鳥肌が立つよ!夏美ちゃん、悪いこと言わない。同じ文化部ならこっちを選んだほうがいいから。アニメ部に入って棒に振った青春を送らないでほしいの。返事は急がないから。ゆっくり考えてちょうだい。」

「わかりました。今宿先輩、失礼します。」

「私のことは清美でいいよ。あと入部したら敬語なしだから。あ、そうそう。部長紹介するね。」

白根一華(しらねいちか)です。入部待っているね。」

「夏美ちゃん、言っておくけど、アニメ部に入ったら上下関係は厳しいよ。過去に買ってきたDVDやアニメグッズを先輩に没収されて、戻らなかった話があったよ。友達同士で仲良くできるのは、ここだけだから。」

「友達も誘っていいですか?」

「もちろん!」

「ありがとうございます。実は入部したら演奏してみたい曲があるのです。」

「なになに?」

「魔女の宅急便のイメージアルバムの曲です。」

「やろうよ。」

「それでは、いったん失礼します。入部届は鴨居先生に提出しますので。」

「数学の鴨ちゃんじゃなくて、私に直接提出してもいいから。」

「ホームルームで、鴨居先生に提出するようにって言われたから。」

「どうしても鴨ちゃんに提出したいなら、そっちでもいいよ。」

私はいったん、音楽室をあとにして家に帰ろうとした時でした。

昇降口で「ねえ、そこのお嬢さん、アニメに興味ない?」

「少しだけなら。」

「じゃあ、アニメ部に入ってくれる?入部したら、一年の半分以上はアニメ見放題だよ。見たいアニメのDVDとかあったら、持ってきてもいいから。」

「実は吹奏楽部に入ろうと思っていますので。」

「もしかして、地味な今宿(いまじゅく)清美の口車に乗せられなかった?」

「失礼ですが、牛久保直美さんですか?」

「そうそう。今宿清美は地味だけじゃない。人を騙すプロなんだよ。ねえ知ってる?音楽室の別名。『たこ部屋』って呼ばれているの。一度入ったら簡単に帰してもらえなくなるんだよ。」

「どこの何という部屋がたこ部屋なのか、きちんと説明してもらおうか。牛久保直美。一年相手にでたらめ吹き込んでじゃねーよ、ごるぁ!夏美ちゃん、明日友達と一緒に来るのを待っているから。入部届は朝のホームルームに鴨ちゃんに提出すればいいから。この腐女子・・・・じゃなくてBLマニアじゃなくて、牛久保直美は私が阻止するから。」

「おい、今宿清美。わざとらしいんだよ。どこの誰がBLマニアなのかきちんと説明してもうか。」

「目の前の貴様だよ。牛久保直美!もう、学校中噂になっているんだよ。アニメ部のこともな。嘘だと思ったらTwitterでもLINEでも見て確かめてみたら?」

牛久保直美はすぐにスマホを取り出して、SNSで確かめ始めてみました。

「TwitterやLINEに書き込みしたの、テメーだろ?」

「なら、証拠だしてちょうだい。こんな不特定多数から私だとわかるものでもあったの?」

牛久保清美は悔しそうな顔していなくなりました。

その一方で私は電話で美緒に吹奏楽部へ入るよう、誘ってみました。

優しい先輩のこと、演奏したい曲のことなど話してみました。

「たばちゃん、今どこにいる?」

「公園の近くにいる。」

「じゃあ、うちに来てくれる?」

「うん。」

美緒の家に向かうなり、部屋に行ってみたら「風の丘」の曲が流れていました。

何度聞いても飽きず、学校の疲れを癒されていきます。

紅茶を飲みながら吹奏楽部への入部を誘ってみました。

「うーん、吹奏楽部ね。帰りとか遅くなるんでしょ?」

「部活だからね。もしかして帰宅部とか?」

「そうじゃないけど、私楽器触ったことないし。」

「その辺はちゃんと、先輩は指導してくれるから。先輩、みんな優しいから。2年生の今宿さんっているんだけど、あの人すごく優しいから。私、演奏してみたい曲があるの。」

「何?」

「魔女の宅急便のイメージアルバムの曲。」

「レベル高そう。でも、演奏してみる価値があるかもね。」

「明日のホームルームで鴨居先生に提出しよう。」

「うん!」

次の日のホームルームで私と美緒は吹奏楽部の入部届を鴨居先生に提出しました。

具体的には鴨居先生が吹奏楽部の顧問、小机先生に渡す流れになっているそうです。

最初サッカー部の顧問に渡すのに抵抗を感じましたが、この学校の入部届は担任を通して顧問に渡す流れになっているそうです。

放課後、音楽室に入ったら先輩と顧問がクラッカーを鳴らして、盛大に歓迎してくれました。

「ようこそ、吹奏楽部へ!3年間よろしくな。俺の名前は顧問の小机洋、普段は社会科を担当している。」

「私が部長の白根一華(しらねいちか)です。」

順に部員の自己紹介が終わった後、私と美緒の自己紹介が始まりました。

「私は丹波山夏美です。1年生の何人かはご存じかもしれませんが、3月の終わりごろに父の仕事の転勤で山梨県上野原市から引っ越してきました。楽器にはほとんど触ったことがありませんが、家でピアノを触っていましたので、ある程度の音楽の知識はあります。実は図々しいと思われる覚悟で申し上げますが、この部に入って演奏してみたい曲があります。魔女の宅急便のイメージアルバムの曲です。初めて聞いた時から演奏してみたいと思いました。生意気かもしれませんが、どうかよろしくお願いします。」

「全然、生意気でも図々しくもないよ。是非やってみようよ。こうやって提案してくれると、こっちもやりがいがあるから。」

部長の白根さんは嬉しそうに返事をしました。

「先生もこの提案に乗るよ。文化祭や定期演奏会でやってみようか。」

「あの、私の自己紹介がまだなんですけど・・・・」

美緒は小さく蚊の鳴くような声で言いました。

「あ、そうだったね。」

小机先生は少し苦笑いしながら返事をしました。

「私は都岡美緒と言います。入学式の時に丹波山さんと仲良くなりました。正直音楽の知識が他の人に比べると薄い方ですが、一度自分の手で演奏してみたいと思ったので、入部しました。皆さんの足を引っ張るかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。」

自己紹介を終えた後、白根さんは「二人はやってみたい楽器とかってある?」

「私はオーボエをやってみたいです。」

「丹波山さんはオーボエ、都岡さんは何にする?」

「私はサックスかな。」

「二人とも、レベルの高い楽器を選んだね。練習きついけど、ついてこられるかな。」

白根さんはそれぞれのパートリーダーを呼び、練習に着かせた。

吹奏楽がここまで難しいとは思いませんでした。

毎日放課後練習に励んでいました。

部活のない日は近所の公園で練習することもありました。

夕方、美緒の部屋で「木洩れ陽の路地」の曲を聴きながら楽譜を見ていたら、急に眠気が襲ってきました。

眠い目をこすりながら、起きていましたがついに限界が来て、眠ってしまいました。

気が付いたら夜になっていて、体にはタオルケットがかかっていました。

私は重たい体を起こして家に帰りました。


夏休みに入り、ほぼ毎日が練習でした。

夏休み明けには文化祭が近くなるからです。

宿題と部活を両立なので相当ハードなスケジュールでした。

やはりアニメ部に入ればよかったと内心は後悔していました。

先輩も普段は優しいのですが、文化祭が近くなると厳しくなってきます。

それだけではありません、夏休みの終わりには定期演奏会もあります。

場所は小さな公民館ですが、私たちには立派な舞台です。

そんなときに悪い知らせが入ってきました。

美緒が親の都合で転校することになったのです。

それも9月になってすぐということでした。

あまりにも急すぎてみんなびっくりしていました。

定期演奏会では「木洩れ陽の路地」と「風の丘」を演奏する予定となっています。

これは絶対に成功させたいと思い、練習に力が入りました。

そして、迎えた定期演奏会。場所はショッピングセンターの中央広場でした。

休日、親子連れでしたのでこの曲はとても受けていました。

特に「風の丘」は美緒のサックスのソロ演奏もあり、会場からは大きな拍手が沸き上がりました。

演奏が終わり、学校に戻り、美緒はみんなの前で挨拶をしました。

「今日は思い出に残る演奏が出来て、本当によかったです。9月からは岐阜へ転校します。簡単には会えなくなりますが、この思い出だけは絶対に手放したくありません。たばちゃん、一緒に卒業できなくでごめんね。白根部長、今宿先輩、本当にお世話になりました。」

「まだ、引っ越しまで時間があるんだし、放課後楽しんでいきなよ。」

「ありがとうございます。」

小机先生は泣きそうな美緒を見て、肩を数回たたきました。

「先生の実家、大垣(おおがき)なんだよ。周りは山に囲まれてきれいなところだよ。都岡はどこなんだ?」

「私は中津川です。」

「じゃあ、名古屋に近い方なんだね。向こうへ行っても元気でやれよ。」

「ありがとうございます。」

長い夏休みが終わり、新学期が始まったころ、教室で美緒の転校の知らせがありました。

教室は騒然としていて、なにもできないまま見送る形になりました。

引っ越し当日、家の前ではすでに荷物がトラックに積まれていました。

私は今宿先輩と一緒に美緒の家に行きました。

「来てくれたんだ。」

「うん。」

「これ、清美と私からの餞別。定期演奏会のCDだよ。」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと待ってくれる?渡すものがあるから。」

美緒はそう言って部屋からCDと文房具のセット。

「これ、私が大切にしていたコレクションなんだけど、二人にあげる。今宿先輩にはイメージアルバムのCD、たばちゃんには魔女の宅急便の文房具のセット。二人にはさんざん世話になったから。」

「美緒、最後に記念写真撮らない?」

「うん。」

私と清美、美緒の3人でスマホで写真を撮りました。

そのあと、美緒を乗せた車はトラックと一緒に西の方角へと向かいました。


9月になって最初の3連休でした。

久々に部活がないので、原作のキキになった気分で、黒のワンピースを着て、頭に赤いリボン、普段はめったに履かないパンプスを履いて、バスに乗って駅前のショッピングセンターに向かいました。

美緒のことも気になりますが、今は文化祭も大事なので、そっちに専念することになりました。

駅前について、最初に向かったのはアイスクリーム屋さんでしたが、ちょうどジェラートアイスの出張販売があったので、バニラ味を頼んでテラスで食べることにしました。

「同席いい?」

「はい。」

見覚えのある、声だと思って顔を見たら今宿先輩でした。

「清美さん、ピンクのワンピース可愛いです。」

「ありがとう。」

「今日は一人なんですか?」

「うん。ジェラートおいしそうだから、私も買ってくるね。」

今宿線先輩はそう言って、いちご味を買ってきました。

「都岡さんがいなくって、だいぶたつけど、もう慣れた?」

「正直慣れていません。」

「もし、夏美ちゃんさえよかったら、私が都岡さんの代わりになってあげてもいいんだよ。」

「お言葉に甘えて・・・」

「夏美ちゃん、私入部の時言ったよね?敬語は禁止だと。」

「ごめん。」

言葉はきつめでしたが、少しは気にしていたみたいでした。

ジェラートアイスを食べ終えて、私と清美はショッピングセンターの中を散策して最後にブティックに立ち寄って洋服の試着をして終わりにしました。

連休のあとは文化差に向けて練習が続きました。

時には日が暮れてからもやっていた時もありました。

そして迎えた文化祭。私達の出番は14時だったのでそれまで、屋台やクラスの出し物を見て歩きました。

時間になり、私達の演奏が始まりました。

「木洩れ陽の路地」と「風の丘」、「渚のデイト」を演奏しました。美緒、私達の演奏聞こえていますか?今日は文化祭です。あとで、DVDに録画して送るから。

文化祭が終わって、最初の金曜日、私は放送委員に頼んで文化祭で演奏した映像をDVDにダビングしてもらうよう頼みました。

そのDVDを私は美緒がいる岐阜へ送りました。

さらに数週間後、美緒から写真が手紙と一緒に届いていました。

「たばちゃん、DVDありがとう。とてもかっこよかったよ。向こうでも吹奏楽部に入ったけど、転入したばかりだったので、舞台には上がらせてもらえなかったよ。あと、話は違うけど友達できたから。」

写真を見たら、新しい友達と一緒に写っていました。

日曜日、私は電車に乗って「港の見える丘公園」に向かいました。

海風に吹かれながら、スマホに入れた「魔女の宅急便のイメージアルバム」の曲を聴きながら海を眺めていました。海から来る風がとても気持ちがよく、何時間もいたい気分でした。

そして、翌日の放課後に私も清美と新しくできた友達、峰岡洋子と一緒に写真を撮りました。

それを手紙と一緒に美緒に送りました。

美緒、離れていてもずっと友達だよ。



おわり

最後まで読んでくださった皆さん、どうもありがとうございました。

いかがでしたでしょうか。

つまんない、平凡すぎる、面白かったなど感想はそれぞれです。

読みつかれた、飽きたなどの理由で途中でやめた方いるかもしれません。

さで、横浜市にお住まいの皆さんはすでにお気付きかもしれませんが、主人公の丹波山さんを除いて、登場人物の苗字が横浜市になっているのです。

中には「私の住んでいる住所の地名が苗字になっている」という人もいるかもしれません。

もし、不快に感じられたならこの場を借りてお詫び申し上げます。

さて、自作はまだ不明です。

これからネタ探しに専念します。

出来上がったら是非読んでみてください。

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