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素直じゃない2人のお迎え事情

作者: 柚子

「~○×周辺で女性を狙う事件が増えています。注意してください」


○×周辺って、会社の近くやなあ。

最近、女の子に人気の店も増えてきてるからそれを狙う卑劣な奴が

おるんやろな。


「物騒やなあ」

「おぉ!びっくりした!おはよう」

「おはよう。ケチャップ取ってー」

「冷蔵庫の前通ったんなら自分で取りーさー。はいよ。

 コーヒー飲む?」

「うん、カフェオレにしてください」

「はーいよ」


この何かぬぼーっとしてそうな感じの人は、私の彼氏の智也。

結婚を前提としたお付き合いなもんで、同棲しております。

何だかんだでもうすぐ2年。


「○×って友里の会社らへんやんな?」

「そうやねん。オフィス街やし、女の子に人気の店も増えてきてるから

 悪いやつがターゲットにしてるんじゃないかな?」

「そっか、まあ気ぃつけや」

「せやなあ。あ、もし心配やったら会社まで迎えに来てくれたり

 してもええねんで?」

「友里なら大丈夫やろ。こいつ強いかもな、って悟って向こう

 から逃げてくって」

「はー?むかつくわあ。これでもか弱い女子なんですけどー?」

「はいはい。そろそろ出な遅刻やで」

「あっ!・・・・・くそっ、今日晩ごはん嫌いなもんばっかにするからな!」

「ご自由にー。いってらっしゃい」


「・・・・てなことが朝あってさあ。どう思う?」

「それはむかつきますね。心配じゃないんですかね?」


会社に行くと、女子たちの間ではやはり朝のニュースが

話題になっていて、給湯室で最近よく一緒に居る後輩の

ミキちゃんに智也のことを愚痴ってる、なう。


「事件に対しては心配してるけど、私には関係のない話やと

 思ってるんやわ」

「心配してる、なんて恥ずかしくて言えないんじゃないですか?」

「ないない。それこそミキちゃんみたいな子しか狙われへんって

 考えてるんやろ」

「それこそないない!私、空手黒帯ですからね」


ほぉ、いかにも美人百花系女子やのに。


「ゆるふわ系女子やと思って近づいたら、痛い目見るやつやな」

「好きな服着て、好きなメイクしてるだけやのに、勘違いされるの

 迷惑なんですよねー」

「そういうハッキリしてるミキちゃんのこと、大好きやで」

「ふふっ、ありがとうございます」

「さっ!智也へのイライラを仕事にぶつけますか!」

「えいえいおー!」


奴(←)のことを思い出したり思い出さなかったりしながら、

コツコツと業務を進めていき、気が付けば退社する時間になった。


「ミキちゃん、今日ごはん行こ!」

「作らなくていいんですか?」

「知らん知らーん。勝手にしたらええねん、もう」

「めっちゃ引きずりますねえ。でも、私今日彼と約束あるんで

 駅までご一緒しますね」

「ちぇー。わかったー」


そんなことをヤイヤイ言いながら、自動ドアを出ると・・・・・・


「あ、れ?智也?」

「・・・・おぅ、お疲れ」


柱にもたれかかった、仕事着のままの智也が。


「もしかして、噂の彼氏さんですか?こんばんは、友里さんに

 色々指導していただいています。林 ミキと申します。」

「あ、話はよく。友里がいつもお世話になってます」

「なんで?てか、私より先に終わるなんて珍しくない?」

「たまたま・・・・うん、たまたま、終わったし。ほら、今日は

 火曜日やからコンビニ回って、デザートのリサーチ行かな

 アカンやろ?1人やったら大変かな?と思って」

「今日だけでは持ちきれんほど買えへんよ~」


すると、ニヤニヤしながらミキちゃんが、


「・・・・友里さん、鈍すぎません?」

「え?」

「今日自分で話題にしてたじゃないですか。心配やからわざわざ

 迎えに来てくれたんですよ。ねー?」

「え、あ、いや」

「え!?だって、お前やったら大丈夫やって。1人でも何とかなるって」

「何だかんだで愛されてるんですよ!このこのーっ!ってことで

 私は行きますね!また明日ー。お疲れ様でーす」

「あ、うん!お疲れー」

「・・・・嵐のような後輩やな」

「悪い子ではないんやで」

「まぁ、帰ろか」

「うん」


いざ並んで歩くものの、特に会話はない。

ミキちゃんが言うてたように、心配してくれて来た?

いや、でもほんまにたまたまかも知れんし、自意識過剰になっては・・・・・


「太郎くんにな」

「え、うん。あの、新入りの子な」

「太郎くんに言われてん。彼女さんのこと迎えに行ってあげてください、

 って。本当に何かあって後悔することになったらどうします?って。

 彼女も強がってるだけで怖いかも知れませんよって」

「へぇー。では、自分の意思ではないけど、と?」

「なーんでそんなトゲのある言い方するー?」

「そんなボソボソ言うからやんか」

「いや、口ではあぁ言うたけど朝からちゃんと迎えに来るつもり

 やった。なるべく友里の仕事の時間に追われるように調整したし、

 後何日かはどうにか出来るようなスケジュールを組んだつもり。

 だから、明日からは堂々と迎えに来るわな」


多分ほんまに心配してくれてたんやろう。

でも、なんか歯がゆくて。

迎えに来てくれる理由が直接聞きたくて。


「なんでそこまでして迎えに来てくれたん?」


気持ちより先にポロッと言葉が出てしまった。

すると、私の予想を上回るほどの爽やかな笑顔で、


「友里のこと、大好きやからやで」


と返ってきた。


「朝、ニュースで見た時からめっちゃ心配してたけど、ブー垂れる

 友里の顔見るん楽しくて思わずからかってん、ごめんな。

 でも、友里が行ってから仕事行ってから調整出来るように

 精一杯動いてな、何とか間に合ったわけさ。まあ、うっとうしくて

 むかつく彼氏やろうけど、許して、な?」


心の隅の方では、まだちょっと疑ってしまったりしてる。

それも太郎くんに吹き込まれたんちゃう?って意地悪なことも思ったり。

でも、今日ミキちゃんに愚痴ったことも含めて、なんかこの言葉と

笑顔見てたらスーッてなってくのが分かって。

ありったけの思いぶつけてくれてるんやなー。

仮に誤魔化してるだけやとしても、それすら愛しいなーと思えてきて。

ニヤニヤニヤニヤしてしまった。

それで、どうにか繰り出した答えが、


「ありがとう。私も大好きやで」


になった。


「明日から一緒に帰れると思うと、それだけで仕事頑張れそう。

 単純やなーって思われるかも知れんけど、私にはそれくらいの

 活力が出ること。嫌味だって言われたやろうに、わざわざありがとう。

 朝はピーマンたっぷりの青椒肉絲にしてやろうかと思ったけど、

 リクエストを聞きましょう!さあ!何がよろしい?」

「ははっ、それは危なかったなー。どうしよっかなー。

 じゃあ、ビーフシチューでお願いします」

「はーい。・・・・あ!ごめん。魚解凍してもうてるからまたその

 リクエストは明日な」

「えー!少しでもビーフシチューの口になってしまったのに!

 まあ、いいや。友里の料理は何でも美味しいし」

「じゃあ、明後日は青椒肉絲で」

「それは丁重にお断りさせていただきます」

「ははっ!さ、ロー○ン寄って帰ろ」

「あれ?行くの?コンビニ」

「一気には買わんけど、行かへんとは言うてませんよ?それに、

 今週は私の食べたいものはそこに固まっているのだ」

「あはは!リサーチ力っ!じゃあ、まあ、はい」


そう言って手を差し伸べてくる。


「拉致されんようにな。ラブラブしとこ」

「ラブラブー?それやったらこうしますー」

「えー?」


私が腕組みにすると、自分から仕掛けたくせに少し照れる智也。


「食べたいの3つくらいあるから全部半ぶんこな」

「はいはい、お嬢様」

「なあ、智也?」

「ん?」

「私こそめんどくさい彼女やろうけど、これからもよろしくな」

「かしこまりました」

「否定せんのかーい」


少し意地悪な彼と、めんどくさい彼女で帰る帰り道。

事件うんぬんじゃなくて、これからも出来る限り一緒に

帰りたいなーなんて、そこまで甘いことはまだ伝えられない。

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