第83話 シノプシスその2
お待たせしました。最終回です。
後半を整理するのにやけに時間が掛かってしまいました。
インフィニティギフトを得たセシルは地球へ跳ぶ。
両親の死を回避するために。暴漢の凶刃から二人を護るために。
だが、転移した時刻は両親の初七日が終わった日曜日の夜だった。しかも出現場所は衛星軌道上。愕然としつつもセシルは大気圏へ突入する。ギフトをあらゆる場所で使えるようになったセシルは、もちろん宇宙空間であろうと生存できるが、居心地のいい場所ではない。
それになぜ誤差が生じたのかを調べる必要がある。
セシルが設定した転移座標のずれは、地球軌道上に出現した真ピース・ワールド号の転移に干渉されたためだとわかる。再転位しようとする矢先に大気圏を落下する隕石に気が付く。それは狙いすましたように日本の自宅に向かっていた。
衝突ギリギリで自室にいた過去の自分と悦郎を時空転移させるが、セシルとしてはほんのわずか場所を移動させるだけのつもりだった。
しかし二人は異世界のガルリア大陸に跳んでしまう。
意図しないこの異世界転移は、やはり真ピース・ワールド号の転移干渉が原因であった。異世界への転移回廊が開いていたせいである。そして二重(真ピース・ワールド号の復路と過去のセシルと悦郎の往路)に異世界転移が起きた影響か、この時刻から前後1週間程度範囲での時空移動が出来なくなってしまう。時空の攪乱だ。両親が暴漢に襲われる時刻に跳び二人を救うことが不可能になってしまった。
かくて、半ばやむを得ず過去の自分たちがいなくなった地球に入れ替わって戻って来た格好になったセシルと悦郎であったが、かといってそのまま二人に成り代わって暮らすというわけにもいかなかった。
家は隕石の大穴で壊滅状態だ。もちろん再生で直せるが、それはそれで大騒ぎになる。すでに隕石の落下と家の破壊は多くの人々が目撃していたし警察沙汰やニュースにもなった。
そしてセシルは蒼髪、悦郎は赤髪。見た目もかなり(美形化の方向に)変わっているのである。
やむを得ず学校近くに閉鎖領域を造りそこを拠点にすることにしたセシル。エルフの里が亜空間に造られていたことをなんとなく納得する。アウェイな環境に放り込まれたら、絶対的な安全地帯が欲しくなる。
一方、真ピース・ワールド号まで持ち出したにも拘らず、超神が宇宙際にもういないことに気が付いた悦郎はただただがっかりする。
落ち込む悦郎に、仕方なくセシルは自ら悪の首領となり、ギフトで巨大な敵を作って悦郎にバトルを仕掛けることにした。悦郎ヒーロー化作戦だ。
かくして真ピース・ワールド号は世界を護る防衛基地となり、亜空間から出現する謎の敵をやっつけるという物語が造られた!
全くの茶番であるが、バトルジャンキーな悦郎はノリノリで喜んだ。セシルも悦郎が喜ぶなら努力を惜しまないのであった。
セシルの繰り出す悪の巨大怪獣、たまに巨大ロボや大宇宙戦艦VS悦郎とゆかいな仲間たちという対決がなぜか週一で行われることに。
ゆかいな仲間たち。そう、いつの間にやらアレー王女やダガルらやら、あるいは時にはヴュオルズや魔将、四天龍、さらにはエルフ族、デガンド帝国の竜人皇帝や将軍たち、バッハアーガルム法王国の四天王、はてはミーシャとおかみさんらが仲間や助っ人として現れ悦郎と一緒に戦うのだ。むろんセシルのプロデュースである。
戦闘の舞台となる都市や街もそのたびに破壊されるが、住民たちは離散的領域に保護され、単なる観客というか野次馬というか、この超位存在どうしのハイパーバトルを安全に楽しむ。戦いが終われば壊れたビルや街は新品同様に再生される。むしろお得である。
主に日本が舞台となる戦いであったが、当然このオーバーテクノロジーなハイパーバトルはマスコミやSNSで拡散され世界トレンド1位となる。
世界中からハイパーバトルの観光ツアーが組まれたり、様々な国家や機関が悦郎と謎の組織の正体を探ったり、世界の先端企業が巨大怪物や真ピース・ワールド号、悦郎の能力を研究したり。怪物の壊れた破片は闇市場で高額取引されたり。
ヒーローファンクラブやらなにやら。ちょっとだけ出現したヴュオルズの人気が異常に高く悦郎推しのセシルが不機嫌になったり。テレビ特番は当然、イメージソングにコミカライズ、アニメ化(悦朗と敵の正体を独自解釈したアニオリ)も。スピンオフの日常系4コマが100万部を超えたのはなぜであろうか。
そもそもの異世界転移の原因が自分だったのは理解したセシルであるが、しかしなお多くの謎は解けていない。
ギフトとは何なのか? 誰から付与されたのか?
エルフの里の創造者やハイデ卿、また異世界創世の謎は?
偽神と創造神との戦いとは?
まあそんなことはどうでもいいか。
どんなに壊れても翌週なにもなかったようになってるコメディ世界を舞台にしたお気楽ロボットプロレスアニメみたいなものよね。
えっちゃんが楽しければ、オールオーケー!
そう、平和である。すべて世はこともなし。
―完―
……と、ここでこの物語は一旦ピリオドとなります。
とはいえ文中にもあるように伏線は投げっぱなしジャーマンなので、なぞ解きを含む第二部の構想は持っていました。完全なものではないですが。
以下アイデアスケッチ風に。
【マルチバース修復篇】
週一バトルが繰り返されていたある日、魔人化したもう一人の悦郎が突如地球に現れる。
二人目の悦郎。それはエルフの里から戻った時に遭遇した『仲間を全員殺した』時間軸の悦郎だとセシルは理解した。
同時に時空の大いなる混乱を知る。この世界に悦郎が二重に存在している。同じ人物が二つに分かれるなど、起きてはならない因果律の崩壊である。
多次元どころか宇宙際を超える超平行世界。それに干渉しすぎた。その上過去を改変したことで時間が盲腸のように閉塞し歪んだ世界が生まれてしまったのである。その一つから現れたのがこの(本当に)魔人化した悦郎だ。
歪んだ閉塞宇宙がいくつ生まれたのか今はわからないが、責任をもって削除しなければならない。歪みの原因はセシルの次元操作だからだ。
ひとまず魔人化悦郎(仮称)はバトルジャンキー悦郎(仮称)に統合し事なきを得た。悦郎の破壊のギフトを利用し、歪んだ時空ごと破壊して錬成し直すことで、閉塞した時間を正常に戻すことが出来た。
かくてセシルは悦郎を連れ無数の閉塞宇宙の補修に乗り出す。宇宙そのものを破壊できるとあって悦郎も案外乗り気であった。
「かかかか! 我が名はユニバーススレイヤー!」的なノリだ。
やがてセシルは因果律の混乱の原因は実は異世界の成立そのものにあるのではと推論をはじめる。
そもそも異世界の創造神が、セシルのような転移者であったはずなのだ。少なくともエルフの里を造ったり、聖遺物を残したのは間違いなく地球の出身者である。異世界の創世が何億、何十億、何百億年前なのかはわからないが、とてつもない時間の逆行がかつて行われたのは間違いない。
そのため、セシルは異世界宇宙の始まりの時点、異世界ビッグバン時点に転移しようとする。
だが、インフィニティギフトとなったセシルの高次空間制御でも宇宙開闢までさかのぼることは無理だった。新たな宇宙の創造は出来ても、既存の宇宙の過去への遡及には限界があった。
セシルと悦郎は時空の壁とでもいうべきものに阻まれ弾き飛ばされる。
【セシル戦国絵巻篇】
悦郎とはぐれたセシルは1000年前のガルリア大陸で目覚める。
1000年前。法王国も帝国もまだ支配域を拡大途上であり、大陸は幾多の小国が割拠する戦乱の時代である。
悦郎の捜索と帰還の方法を模索するうち、聖女ハイデの噂を耳にするセシル。
千年前の教会中興の祖ハイデ卿。もう一人のギフテッドに会えば打開策が見つかるはずとハイデを探す旅に出る。
過去世界で確定している歴史を量子化……あり得たかもしれない世界を呼び出すと、それ自体が歪んだ時空としてがん細胞のように宇宙を蝕むため差異次元操作を封印するセシル。
(作者注:これはタイムパラドックスの解決策としてよく知られている『歴史の復元力』自体を壊してしまうという意味です。歴史の改変は単に平行世界が一つ増えるだけですが、量子化は確定したはずの宇宙をもう一度不確定な状態にするということで、まさに次元の異なる事象)
そのため、平行世界の重ね合わせによる筋力・防御力アップが出来ずその意味では普通の女の子になったセシルであるが、一方重ね合わせを必要としない慣性制御や亜空間収納、瞬間移動には制限がない。むろん創造や再生も単純なもの-概念の変更程度-なら使用可能である。
まだ未開拓時代のガルリア大陸。女一人旅に危険がないはずもないのだが、弱体化してはいるが特殊能力で危機を乗り越えつつ、ついにハイデ卿と出会うセシル。
ハイデ卿の正体は異世界に転生した片山美沙希(お忘れかもしれないが、悦郎の実の母でセシルの義理の母)であった。美沙希は母(悦朗の祖母)英子をもじってHIDE、ハイデと名乗っていた(なんやそれ)。
美沙希にはギフトがなかったが、謎の声によりこの世界でセシルと出会うことを予言されていたという。聖職者になったのもその声の導きによる。
後の歴史では、セシルがハイデ(美沙希)に会うまでに行ってきた創造や再生がハイデ卿によるものと誤解されたのだった。
美沙希とエルフー主としてハイデアーノ族-の協力で法都大聖会にある禁断の聖遺物を起動。それは、過去を壊さずにセシルのギフトを全開駆動できる、やたら都合の良いアイテムだった。疑問を持ちながらもセシルはギフトで新たな宇宙を創造。その新宇宙を経由して異世界宇宙の始まりへと跳ぶ。宇宙間で生じる時間のずれを最大限利用したタイムワープだった。
【時空警察篇】
セシルとはぐれた悦郎は別宇宙の自分自身と出会い、協力してあいかわらずマルチバースを破壊していた。宇宙を一つ破壊するたび異宇宙の悦郎が一人加わるのでやがて悦郎軍団とでもいうべき数に。
やがて悦郎軍団はアルスの宇宙にたどり着く。そう超神がリセットされて無垢なる少女となったあのアルスである。が、アルスはアルスの宇宙で超神としての力を取り戻していた。
ついに宿願の強敵『超神』と戦えると喜ぶ悦郎たち。
が、アルスの力は強大であった。悦郎たちが力を併せても押し切れない。逆に一旦宇宙際に逃げる羽目に。
と、そこへ光の巨人たちが出現する。彼らは汎宇宙を統括する時空警察局員であった。
マルチバースを破壊し続ける「ユニバース・スレイヤー」悦郎を駆除するためにやってきたのである。局員の多くは悦郎とセシルが消し去った宇宙の生き残りだった。彼らにとっては復讐でもある。
かくて宇宙際を舞台に悦郎軍団VS時空警察の熾烈なバトルが始まった。
激烈な戦いの結果、悦郎軍団は敗れ、悦郎は一人に統合され流刑処分となる。宇宙開闢のプランク時間内に投獄され、無限大に伸長された瞬間の中で終身刑となるのであった。
【別たれた半身篇】
宇宙開闢の世界で再び悦郎とセシルは出会う。そこは過去と現在と未来が、そしてあらゆる宇宙が相転移し分裂していく前の、なにもかもがどろどろのスープのように混然一体となった世界。
そこでセシルは真実を知る。
宇宙の始まりに知性をもつなにかがいた。それは概念的なものであったが宇宙の開始と共に自らも実体となった。そして宇宙が相転移すると同時に自らも相転移し無限に生まれる宇宙の泡のひとつひとつに分裂し増殖していった。
つまり無数の宇宙のそれぞれの神となったのである。
その一人が他の宇宙の神と戦うことを選んだ。神の中の神を決めるために。その一人は戦神となり異なる世界の神を殺し始めた。
これが超神たちの戦いであった。
ある神が神々の争いは愚かなことだと断罪した。そして戦神から破壊の力を分離させた。戦神は創造と再生の神となった。が、失われた破壊の力を持つ己の半身と再び一つになりたいという欲求が心の底で渦を巻くのであった。
いつしかその渦は実体を持ち、創造と再生のギフトホルダーとなる……。
【つまりは】
戦神から分かれた二つのギフトがセシルと悦郎の源流である。アルスがセシルの作った宇宙で再び神となったことで、創造神は他の創造神の宇宙でも復活したり進化することがわかった。
つまり二つのギフトは長い長い時間をかけマルチバースの中で変化をとげてやがて人となり、セシルと悦郎となったのだ。悦郎をセシルが求めるのも道理。もともとの半身だからである。
今までの物語はセシルと悦郎を生み出すために用意されたストーリーであった。用意したのが善き神なのか悪しき神なのか、それはわからない。
いずれセシルと悦郎は一つの神に戻るのか、あるいは別たれたままなのか。
それもまた神々の悠久の時の物語である。
<おしまい>
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次はもっと気楽に読める(書ける)ものにしたいと思います。またいずれ!




