第82話 更なる援軍/シノプシスその1
遅くなりました。
本文中にもありますが、すみませんギブアップです。あらすじ紹介でお茶を濁します。
申し訳ありません。
「うっ」
口元を手で押さえフーシィ皇女が席を立つ。CICのトイレに駆け込んだ。うげっうげっと美少女にあるまじき汚い声が聞こえる。
ダガルですら顔面蒼白だ。トカゲ顔なので分かりにくいが。
「うははははっ」
不敵に笑いながら、悦郎が左右の肉塊を同時に投擲する。一つは海へ、一つはピース・ワールド号に向かってロケットエンジンでも付けたかのごとく真っ直ぐ飛んでくる。音速を超えているのではないか。
「バリア全開ダガ!」
「もうやってます!」
ダガルの命令にリキテン航海長が叫んで応える。しかして、肉塊はピース・ワールド号の横を素通りした。
「やばい、標的はアラディマンダーダガ! 逃げるダガ!」
当然、海へ投げたのは滄龍狙いだ。二龍とも危険を察知しアラデは嵐を、滄龍は渦をたちまち纏う。しかし、肉塊はあっさりそのバリアを破った。破壊が付与されているのだ。そして龍体を直撃。
瞬間、嵐龍が爆散した。嵐のバリアも龍のうろこも、なんの役に立たなかった。ぶつかった肉塊ごと腹部は蒸発し、頭やしっぽも粉々に砕けて吹き飛んだ。血肉の花火だ。
海の中でも爆発が起き、やや遅れて海面が盛り上がったと思うや破裂した。
「たたた…」
CICに人間体のアラデが瞬間移動で転がってきた。大したけがはしていないようだが、龍布のスーツがボロボロである。ちょっとやらしい。
「アラデ、無事だったかダガ!」
「無事じゃないっすよ本体無くなっちゃったっす! まともにいったら復活するのに500年はかかるっすよ!」
涙目である。一方ダガルは鼻の下が伸びている。このピンチに豪気である。
「あいたっ!」
もう一人、CICに転移してきた。アラデに似た虹色の髪の少年だ。少女にも見紛う美貌であるが、こけて顔面を床に打ち付け、赤くなっている。
「滄ちゃん、逃げて来れたっすね!」
「嵐ちゃんにここの座標教えてもらってて助かった。話には聞いてたけどめちゃくちゃな奴だな、ありゃ」
「あんた、滄龍ダガ!?」
海面が赤く染まっていた。滄龍も本体が粉砕されてしまったのだ。
「うん、滄ちゃんっす。あたしと同じように呼ぶなら、カイ君になるっすかね?」
「カイでいいよ。滄ちゃんは子どもの頃のあだ名だろ、嵐ちゃん」
「そういう滄ちゃんだって嵐ちゃん呼びじゃないっすか。ここはアラデでいいっすよ」
「あ、そうか。わかった、アラデ」
「ほのぼのしたやり取りは置いとくダガ。お前たちまでやられちまったらどうすんダガ!」
「大丈夫っす。あたしたちだけじゃないっす」
「!?」
黒い巨大な影が二体、大気を斬り裂く疾風のように空中に現れた。片方はキックでプリンセス・アレー号二世を、他方はパンチを悦郎に繰り出す。プリンセス・アレー号二世がコマのように舞い周囲のフードマンらをなぎ倒し、悦郎がピンボールのように弾き飛ぶ。
体にフィットした漆黒のフルプレートアーマーを着た巨人。というより黒い女性型の巨大ロボットといった方がしっくりくる二体。ディテールは異なるがよく似たスマートな姿である。片方は頭部だけ銀色だ。
「あのシルエットは、バズカドと、頭が銀なのがウイーダ、なのダガ!?」
「そうっす! バズカドとウイーダの本体っす!」
フードマンらとプリンセス・アレー号二世は海に落ちたが、悦郎は空中で止まった。仮想の足場を造り斜めに立つ。
「ヴュオルズの側近か。その鎧、何か工夫してあるな」
『大魔王様が【再生】を付与された。東方の魔人、貴様のギフトは通らぬ』
「そうか。セシルのギフトを模倣して進化させたか。かかかか。面白い! 前回より楽しませてくれよ!」
悦郎の両拳が輝き、二本の破壊の光剣が伸びる。バズカドとウイーダは左前腕でガードするポーズを取る。二人の前腕に鎧と同じく漆黒の盾が瞬間的に生成される。
がぎん。
盾が破壊され消滅する。が、瞬時に新たな盾が創造され、しかし破壊される。が、さらに創造。
人間の目では追えないナノ秒以下の破壊と創造の攻防である。三十数枚の盾が破壊された時、光剣が悦郎の手に引き戻された。
「なるほど。物量作戦か。鳥よりは知恵が回るな! くかかか!」
悦郎は頭の上で両手を組んだ。先ほどの光剣の数倍の光が合わせた手から天に伸びる。そしてその巨大な剣をぶんぶんと振り回し始めた。
バズカドとウイーダは素早い機動で光剣を避け、避けられないコースでは三十枚以上の盾を重ねて出現させて防ぐ。
悦郎は笑いながら出力を上げていく。防御に必要な盾の数が四十枚から五十枚、八十枚と上がっていく。
「あれじゃ勝てません……」
カルダス皇子がつぶやく。
「魔力がいくらあってもいずれ疲弊してやられてしまう……」
「プリンセス・アレー号二世、急接近!」
海中から出現した破壊の剣がピース・ワールド号に迫る。アレー王女らフードマンたちは甲板に貼り付いている。大してダメージを負っていないようだ。
バズカドとウイーダは悦郎の相手で手いっぱいだ。プリンセス・アレー号二世には対応できない。
「超電磁バリア急速展開ダガ!」
「巨大な物体が! 来ます!」
「なにがダガ!?」
身長90メートル、キラキラした装甲に覆われたスーパーロボットがピース・ワールド号とプリンセス・アレー号二世に間に割り込んだ。これは見覚えのある巨人である。
法都を強襲した嗜虐の元帥の本体だ。
両腕を重ねて前に突き出すと、チェーン付きの虎ばさみのような凶悪な武器が発射された。プリンセス・アレー号二世の船体をバチンと挟み込む。
「スローター・ガレッガー!」
そのまま腕を振り回す。チェーンで引きずられたプリンセス・アレー号二世が宙を舞う。
が、虎ばさみがみるみる黒ずむ。『破壊』に浸食されているのだ。
やがて砕け、アレー号が勢いで吹き飛ぶが、すぐに空中に静止する。慣性制御だ。
「アトミック・スローター!」
虎ばさみを失ったチェーンを巻き取ると、入れ替わりに重ねた両腕から四角い発射口がせり出し炎を噴-
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突然ですが、作者です。
書こうとは思っているのですが昨今の個人的事情がなかなかそれを許さず、ずるずると結論を先延ばしにしておりました。
申し訳ありません。
現状、作品としてきちんと完結させることは難しいと判断し、これからの展開を紹介して一旦本作を締めたいと思います。
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悦郎+プリンセス・アレー号二世VSピース・ワールド号+魔王軍の戦いは、バズカドとウイーダが倒されるが、まだ続く。三魔王、三魔将が挑み、そしてラルシオーグも参戦する。
本体が破壊され、人間体がピース・ワールド号に逃げ込むということを繰り返す。ラルシオーグが倒された後ついにヴュオルズが参戦。戦力の逐次投入という愚策にカルダス皇子が嘆くが、それは時間稼ぎのためであった。
ちなみに本体が倒された後の人間体はアラデたち同様ピース・ワールド号のCICにほうほうの体で逃げ込んでいる。
大魔王ヴュオルズの本体が破壊されたその時、待ちに待ったセシルが転移してくる。
速攻で悦郎の破壊のギフトを錬成して無害化、フェンツー、フェンスリーをはじめ死んだ仲間を再生する。
セシルがエルフの里からこの世界に戻った時、時間のずれが生じていたのだ。それは悦郎とセシルが地球からこの世界に来た時間が半年ずれたことと原因は同じ。宇宙どうしの間=宇宙際では経過時間が保持されない。故にセシルの主観時間では一晩だが数日が経っていたのである。
かくして、既にピース・ワールド号が破壊され仲間たちも全員殺されてしまった時間に戻って来たセシルは、瞬時にそのことを衛星ネットワークで知り、過去に遡り駆け付けたのである。
セシルの時間遡行能力ギリギリが今だったのだ。
そしてセシルと悦郎との対話。
悦郎はピース・ワールド号の主機関を必要としていたのだ。それはなぜか。
アレー王女らフードマンの紋様、そして悦郎の手に浮かぶ紋章。それは『憑依者』の慣れの果てであった。悦郎自身をはじめアレー王女やハルドの民に憑依した彼らに気が付いた悦郎が破壊した。それは悦郎にとってはうっとおしい蚊や蠅を払うようななんでもない行為であったのだが、一部の高い魔法適性のある者の表皮に、粉々になった憑依者がコピー機のトナーのごとく定着したのだ。悦郎の拳にも。
拳に同化した憑依者の記憶から、悦郎は宇宙際にいる『上位存在』、この世界の創造神とは異なる神の存在を知った。この世界の創造神に敗れたとはいえ、それもまた神である。
悦郎は宇宙戦艦であるピース・ワールド号の慣性駆動エンジンを取り込めば宇宙際まで到達できると考えたのだ。
神と対決するために。それに深い理由はない。ただ強いものと戦ってみたかっただけだ。憑依者の攻撃的な性格が多少は反映されていたかもしれない。
セシルはこのことを聞き、悦郎がこの宇宙ではない宇宙を認知できることに、状況の突破口を見出した。それは、憑依者の能力を得れば、セシルのギフトもこの世界限定ではなくなるということだ。
そこで離散的領域に捕らえた多数の憑依者を悦郎に全て破壊させトナー化し、セシルの全身に定着させた。アレー王女たちよりも濃くおどろおどろしい紋様に縁どられるセシル。ダガルやアラデたちが驚愕・落胆するが、だがそれは一瞬で、セシルは紋様を再錬成し自身のギフトに統合。セシルのギフトは宇宙を問わず使用可能な『インフィニティギフト』へと進化する。紋様は消滅。
ついでにアレー王女らフードマンたちの紋章もセシルが吸収削除した。破壊衝動が消え正気に戻るアレー王女だったが、エツロウ大好きをもう隠さなくなっていた。複雑な心境のセシル。
悦郎には慣性駆動のノウハウを伝授。これで宇宙際へ飛べると喜ぶ悦郎は、アレー王女らを連れて一旦ハルド王国に戻る。ますます複雑な心境のセシル。
宇宙際に敗れた神がいる限り、憑依者らによるこの世界への侵略攻撃は止まない。セシルは原因の根絶のため、神との戦いを決意。破壊のギフトを纏ったプリンセス・アレー号二世を圧縮錬成した破滅剣。再生のギフトを纏ったピース・ワールド号を圧縮錬成した創造剣。二振りの『神殺しの剣』を携え、セシルは宇宙際へ飛んだ。
インフィニティギフトの力である。
一方、セシルのいない間のガルリア大陸世界の戦力低下を防ぐため、破滅剣と創造剣の能力を与えた真ピース・ワールド号を7機生産。エルフの七氏族を呼び出し管理させることにした。さすがにこの超兵器を法国や帝国に貸与するわけにもいかず。
仲間たちの万一の保険として、真ピース・ワールド号よりさらに強力な兵器を秘密裡に大量搭載した裏ピース・ワールド号の起動キーをシュバルに託しておいた。
これで悦郎クラスの敵が現れても何とかなるでしょ!
とセシルは思っていた。
※※※※
宇宙ではない場所にいるそれは超神である。敗れた神、偽神という名は評価を誤る。本来、創造神と同等かそれ以上のスペックを持つ『神』だ。
しかし超神は宇宙際から動けない。宇宙際は宇宙にあらず。何らの物理法則もなく、時間も空間もない。真空や無さえない宇宙と宇宙のはざまである。故にそれは動けず、話せず、また逆に第三者が何らかの作用をすることも出来ない。
初めから戦いにはならなかったのだ。
故にセシルは超神のために新たな宇宙を創った。インフィニティギフトは天地創造の域に達していた。超神はセシルの新しい宇宙で復活し、肉体を持つ。まずは話を聞く。討伐はそれからでいい。セシルはそう考えた。
だが超神は無垢なる少女となった。超神の記憶も能力も新世界ではリセットされてしまった。
セシルは超神のサルベージに失敗したことを嘆くものの、戦いに敗れた神に安らかに過ごせる新天地を与えたと思えばこれはこれで良いことだと思い直す。そして超神の少女をアルスと名付け、アルスのために新世界を生命に溢れた豊穣の地へと開拓していく。
新世界が生まれて10年? 100年? 千年? 長い時間が経ったようにも思えるし、数日のようにも思える頃、セシルはアルスの宇宙を離れた。もうアルスは異世界にとって脅威でも何でもない。故に、セシルは元の世界、地球に帰ることにしたのだ。
一方悦郎も、アレー王女をハルドの女王に即位させ統治を任せるなど様々な出来事の末、エルフの里から真ピース・ワールド号1隻を強奪。地球の属する宇宙に転移した。しかし慣性制御に慣れていない悦郎は地球近傍で小惑星と衝突する。
真ピース・ワールド号はびくともしないが小惑星は砕け、二つの小さな塊が地球へ落ちていった。
(つづく)
次回、最終回。




