第81話 救援その2
ほんとすみません。投稿頻度上げていきたいのですが、まだしばらくは無理そうです。
はよ決算終われ……。
フェンツーとフェンスリーは互いに再生を掛け合い悦郎の連続破壊に拮抗している。
が、拳の紋章から出る光の剣は厄介だ。リーチが長い上に重さがないから振るスピードも速く、当たり判定が広範囲に過ぎる。わずかでも接触したら破壊のギフトによってフェンたちの身体が消滅する。
間合いを取っての魔法攻撃も、転移しての接近攻撃も、悦郎の周囲に貼られた破壊のオートバリアによって阻まれる。フェンたちが唯一成功出来ているのは悦郎を法都上空にくぎ付けにしていることだ。ピース・ワールド号はなんとか海上に脱出した。
だがそのピース・ワールド号も接舷したプリンセス・アレー号二世から飛び出したフードを被った数名に乗り込まれ襲われていた。警備ドロイドが白兵戦対応するもフードマンたちは強烈な魔法を使い撃破していく。物量を誇る警備ドロイドがたちまちスクラップされゴミの山と化す。
アレー号二世本体へは複数の主砲を用いて攻撃するものの、破壊のバリアによって超電磁ビームが直前で消滅。届かない。
この世界で最大最強と思われた宇宙戦艦ピース・ワールド号であったが、なすすべもない。
「戦闘指揮所! ようやく着いたダガ!」
ダガルがCICに駆け込む。さすがにレベル5なのでCICにはロックが掛かっているが、タブレット持ちで艦長代理権限者のダガルは顔認証で自動解錠された。ダガルが中に入ると三重シールドの扉がシューと音を立てて再びロックされる。気密扉だ。最悪の事態の場合、艦橋をパージしてCICや中央生活区画のみを宇宙でも緊急脱出出来るよう設計されている。
「艦長代理! 警備ドロイドの30パーセントが破壊されました! 防衛線が維持できません!」
艦橋付近には艦内へのエアロックが多数ある。厚い装甲で覆われているものの、取りつかれれば扉を破られるのは時間の問題だ。そもそもピース・ワールド号の表面装甲はフラーレンを圧縮して精製したエンジニアリングセラミックマーク2。プリンセス・アレー号に使用されたものをさらに改良した強化型なのだ。ダイヤモンドを超える硬度、熱・化学耐性を持ち電気も通さない。魔法で破壊することなど不可能なはずだった。しかし厚みが違うとはいえ同じエンジニアリングセラミックで出来ているドロイドが簡単に壊されている。フードマンたちにも破壊のギフトの付与がなされているようだ。
「瞬間移動で振りきれないのですか!?」
「ありゃ姉さんがいないと無理ダガ! それにあいつらも転移が使えるダガ!」
船務長フーシィ皇女はピース・ワールド号の能力の全貌を掴んでいるわけではない。それを言ったら艦長代理であるダガルだって仕組みは全く理解していないのではあるが。
「海に潜るダガ! 全速降下ダガ!」
「合点!」
航海長リキテン皇子が操舵パネルをタップする。慣性制御のため中の乗員は何も感じないが、重力ベクトルが下向きに変化しピースワールド号の巨体が海面に向かって落ちていく。重力加速度の数倍の加速だ。
外向きの重力制御は故意に切ってあるので、慣性でプリンセス・アレー号二世の重力アンカーが伸び切り、フードマンが甲板から曳き剥がされる。警備ドロイドの何体かも空中に投げ出されるが、大半は電磁石でなんとかしがみついている。ドロイドとは形の違う何かが宙を舞うが、甲板に乗り捨てられたダガルのEバイクだった。
どごん。
轟音を立て百メートル近い水柱が立つ。水柱というよりも海面の爆発である。ピース・ワールド号が海中に沈み、押しのけられた水が荒れ狂う波となる。もはや津波だ。
暴れる海の中に潜っていくが、慣性制御された艦内には微かな振動が伝わるだけだった。
「振り切ったダガ?」
「プリンセス・アレー号二世を空中で確認。重力アンカーを切り離したようです」
「アレは大気圏内航行専用ダガ! 振り切ったダガ! やったダガ!」
船務長フーシィ皇女の報告にダガルの顔がほころぶ。プリンセス・アレー号二世は気密構造になっていない。宇宙戦艦であるピース・ワールド号のような潜水艦行動は出来ないのだ。
やがて泡立ちが収まり、外部カメラの映像が鮮明になる。甲板に警備ドロイドはほとんど残っていない。海水とはいえ、鉄の壁に衝突したのと同等の衝撃である。大半が吹き飛んだのであろう。
「貴重な犠牲だったダガ・・・。南無南無」
ダガルが南無阿弥陀仏を知っているわけではない。実際に口にしたのはこの世界のブロークンなお祈りである。
しかし。
「敵8名健在! 甲板に貼り付いています!」
船務長フーシィ皇女が叫ぶ。
「なんてこったダガ!」
結構な速度で潜航しているピース・ワールド号の甲板にフードマンたちは立っていた。
ダガルには理解出来なかったが、彼らは周囲の海水を破壊し大気に置き換えていた。慣性も破壊しているので海水の抵抗や水圧にも影響を受けない。深深度潜航でも圧壊しない。
「表面装甲が削られていきます!」
「2015番から2022番までの主砲大破! 使用不能!」
「敵を振りきれません!」
フーシィ皇女、カルダス皇子、リキテン皇子の報告はもはや悲鳴だ。水中でもフードマンたちの魔法は減衰しないようだ。彼らにとって神にも等しいセシルの作ったピース・ワールド号が、かくも一方的に壊されていくのは信じがたく、それだけに恐怖でしかない。
「前方より急速に接近する物体あり! ……魔物!?」
ソナーの反応をフーシィ皇女が報告する。
「ヤバいダガ! フードの連中だけでも手一杯なのにダガ!」
「いや、これは……。アラデさん?」
「ねえさ……、船務長、嵐龍は潜水出来ないと記憶していますが?」
年齢の割に博識なカルダス皇子が冷静にただす。
「海にいる龍なら、滄龍カイディマンダーではないでしょうか」
(そのとおり! 助けを呼んだよ!)
念話が皆に届いた。
「アラデダガ! お前が滄龍を連れてきたダガ!?」
(大丈夫だと思うけど、全員ショックに備えて! 滄くんが孤立波を撃つわ!)
「ソリトンって何ダガ?」
(説明は後!)
「了解! 全主砲格納! 耐衝撃モードに移行!」
「あっ戦術長勝手にダガ!」
「艦長代理! 緊急回避です!」
その直後、猛烈な振動がピース・ワールド号を襲った。慣性吸収出来ない衝撃波に呑まれたのだった。カルダスが主砲を格納していなければ、砲身等のエンジニアリングセラミック部はともかく、ユニバーサルジョイント部等がダメージを受け相当数が使用不能になっていただろう。
ソリトン。同じ波形を保ちながら進む波だ。他の波にぶつかってもすり抜けてその波形を保つ。粒子の性質を持つ波とも呼ばれる。慣性制御をすり抜ける津波だ。当然、フードマンたちにも強烈なショックウエーブが直撃した。
「敵吹き飛びます! 離れた!」
「今だダガ! 急速浮上ダガ! 再度空に出るダガ!」
「慣性制御全力運転! 上昇します!」
海中から空中へ。海面に再び巨大な衝撃波を引き起こしつつ、ピース・ワールド号の巨体が躍り出た。
空中にも巨大な龍が飛んでいた。
龍形態のアラデ……、嵐龍アラディマンダーである。
荒れ狂う津波の中から小さな物体が飛び出してくる。フードマンたちだ。
アラディマンダーの口腔が開いた。虹色の光線が発射される。空間が歪むほどに集束した風魔法の一撃だ。フードマンの一体を直撃する。
付与された破壊によりビームは消滅するが、そもそもは風。空気の圧力だ。悦郎のオリジナルなら完全破壊できるのだろうが、付与されたギフトは能力が若干劣る。
滄龍のソリトンがフードマンらに届いたように、嵐龍の集束風もフードマンを弾き飛ばした。
直撃を受けた一体が空から海に落ちる。そこを狙いすませた滄龍のソリトンがヒット。
フードマンのフードがちぎれ飛んだ。
露わになったフードマンの姿が超ズームカメラでCICに映し出される。それはマイクロビキニのような衣装を着けただけのアレー王女であった。しかも顔をはじめ手足や胴体にも異様な彫り物が施されていた。
「あれはアレー王女ダガ!」
「艦長代理。シャレでございますか?」
「違うダガ!」
カルダス皇子はアラデの救援に若干落ち着いたようだ。冷静に突っ込む。
アラディマンダーもアレー王女に気が付き、慌てて海から引き揚げようと高度を下げるが、他のフードマンから魔法攻撃が飛んでくる。破壊のギフトが乗った火炎のビームだ。アラデ得意の風のシールドで受け流す。
アレー王女救出より邪魔者を叩く方が先。アラデは集束ビームで個別撃破の連続攻撃を行う。フードマンを海に叩き落としていく。
海面に落ちた数が増えてきたので滄龍はソリトンではなく巨大な渦巻きを発生させた。フードマンたちが渦の漏斗の底に引きずり込まれる。もちろんアレー王女も容赦なく。
空中にあったプリンセス・アレー号二世がピース・ワールド号に突進してきた。しばらく動きがなかったのでダガルたちは無人になっていると思っていたが、フードマンとは別に乗員が残っていたようである。先ほどのピース・ワールド号の急降下の際の衝撃でどこか故障したのか、慣性制御が追いつかず乗員が負傷したか気を失ったか。
それは不明だが、急に息を吹き返した。
海面の渦巻きがそのまま空中に立ち上がり、漏斗状に空に伸びて雲を巻き込んでいく。竜巻というか、もはや超コンパクトな台風である。上端は高度2万メートル程度まで伸びていた。
滄龍と嵐龍の合体技だ。
竜巻が上空のピースワールド号を呑み込む。ただの渦ではない。海水で出来た重い壁だ。みるみる渦の壁が厚く成長する。内部に稲妻が光る。
「おお……すげえダガ!」
「四天龍二体の力。信じられない威力です!」
プリンセス・アレー号二世は破壊の力で竜巻を破ろうとするが、海から供給される水量は膨大だ。局地的には疑似的に無限といっていいだろう。故に渦は破壊を上回りプリンセス・アレー号二世を翻弄する。二世号の船体がきしむ。エンジニアリングセラミックの悲鳴だ。
こんどこそいける! とピース・ワールド号の誰もが思った時、渦を光線が貫き一瞬で消滅した。プリンセス・アレー号二世が飛行の安定を取り戻し、フードマンたちがその左右に浮かぶ。
「わははは! 追いついたぜ!」
悦郎が高笑いしながら飛んできた。両手に大きな何かを持っている。血と肉の塊のようだ。
「東方の魔人!」
「フェンたちはどうしたダガ!?」
「あの鳥どもか。なかなかしぶとかったが、ここまで潰せばもう復活はしまい」
悦郎が掲げた肉塊には大きな目玉が付いていた。それは半ばミンチと化したフェンツー、フェンスリーの顔面であった。




