第79話 ピース・ワールド号強襲
投稿頻度がとても薄くなってしまい申し訳ございません。いろいろ忙しくて……。というのはいいわけなので、頻度に合わせてストーリー展開を加速させます。ファスト映画みたいですが、枝葉末節は削って展開します。
端折ったシナリオは完結後に補完します。
アドセットの街にいるフェン、帝都にいるフェンツー、法都にいるフェンスリーは、母とのリンクが消失したことにわずかに驚いた。
母がエルフの里の扉をくぐったところまでは感知出来ていた。どこにあるか母にもわからなかった里である。強大な結界に護られていることは推察できたが、リンクすら遮断されるとは意外であった。
まあしかし、だからといって母である。フェンたちも特段心配はしない。
ただ、フェンツー、フェンスリーは大魔王ヴュオルズとも契約している。母とのリンク切れが長引くと、大魔王の支配が強まる懸念があった。
まあそれとて、リンクが復活すれば元に戻るだろう。実際、母とのリンクが九割、大魔王の支配が一割というところだ。それがセシルとヴュオルズの力の差である。
ということで、リンクが切れたのは初めてだが、とくにどうこうということはなくフェンたちは今日も平常運転である。フェンツー、フェンスリーは念のため法都、帝都上空を旋回飛行し憑依者の気配や痕跡がないか警戒行動中である。
無印フェンは小鳥モードでミーシャの肩に乗っている。
エルフの里ではセシルとアリスの宇宙と神に関する問答がしばらく続いた後、他の六氏族の族長も集まりセシルとの顔合わせ兼夕食会兼懇親会が始まった。
エルフの里の料理はニホン料理に比べると数段落ちたが、珍しい食材も多くセシルは満足した。
そのまま里で宿泊することとなり、急遽ホールがゲストハウス仕様に改装された。工作の類型ジーニアス族が活躍した。
翌日は各氏族の族長が持ち寄った聖遺物の索引を確認し、セシルはエルフ族のいう神がやはり地球からの転移者であると確信した。
これらの詳細は、機会があればあらためて語ろう。
法都上空。フェンスリーの旋回飛行の中心付近に浮かぶ宇宙戦艦ピース・ワールド号。その戦闘指揮所。
トカゲ族のダガルが、モニターを見ながら腕を組んで立っていた。
ダガルはセシルがいない間の艦長代理を任されている。
シュバルやマークスらはピース・ワールド号内部に設置された法都、帝都、エトアウル王都、魔王城への転移門を慌ただしく日々往復し文字通り飛び回っている。地上側の転移門はそれぞれの国の騎士団が警護し、ピース・ワールド号への不審者の侵入を防いでいる。最も、そんな警備がなくてもピース・ワールド号内部でタブレットかルームキーを所持していないとセキュリティシステムにすぐ捕縛されてしまうのだが。
ゴズデズ、ジック、チョーキーの三人はそれぞれ魔大陸に現在三カ所ある人族宿舎の舎監をしている。採集や採掘に携わる人数が増えるにつれ、トラブルも増加傾向だ。金を盗られただの、飯の順番を抜かしただの、小さな諍いは日常茶飯事。ドローンを分解しようとしたり指定区域外に出て迷ったり。中には酔って魔人たちにちょっかいを掛けようとするお調子者もいる。低級魔族と違い、上位の魔人にはなぜか美男美女が多い。死人が出る前に仲裁するのも彼らの役割だ。
もちろん彼らでは魔人には手も足も出ないが、仮にもいまや金と銀ハンターである。人族相手なら後れは取らない。それに貿易拠点の物流センターにはアラデが常駐している。いざという時はタブレットで連絡すれば飛んでくる。
魔神、魔将クラスに次ぐ実力者である。頼れる美少女なのだ。
ふと、ダガルは疑問を感じた。
(あれ、俺なんもしてないことないダガ?)
そう、彼は日がなモニターを見たり、艦内を巡回したりしているだけである。他のメンバーと違い時間を持て余しているのである。
一番ダガルが活躍したのは法都防衛戦の終盤、このピース・ワールド号を操艦した時だ。超電磁バリアを展開して法都をカバーしたり、ゴズデズらとハンターの決め台詞を吐き六魔を退けた。それもセシルのシナリオどおりの口上だったが。
それでもそのおかげでアドセットの街のハンターギルドの格が上がったのだから、バララッド所長改め支部長はダガルたちに足を向けて寝られない。
(ま、一の舎弟はいざという時の隠し玉ということダガ! さすが姉さん戦力の遣いどころをわかっているダガ!)
自己肯定感は結構強いダガルであった。
(艦内を見回りでもするかダガ……)
ダガルはモニターを眺めるのに飽き、CICを出ていった。
ピース・ワールド号は広い。全長333メートル。しかも船体は三胴船である。主船体中央部を根にして同型の船体前半部2本が左右斜め前方に突き出している。三胴というよりは三叉である。
本艦は完全戦闘仕様で設計されており、主兵装の超電磁砲のユニバーサルジョイント化と合わせ、艦がどこを向いていても360度死角を生まない構造だ。
地球でいえば世界最大級の客船(15万トン級)2隻分の容積を持つ。しかも主兵装の超電磁砲は実体弾を積まないので火薬庫や揚薬機構などが不要である。動力も重力制御なので燃料倉庫も不要だ。
つまり内部にはめちゃくちゃ余裕があるのだ。
移動が面倒なので、主要施設は居住部含め艦橋周辺に集中させているが。
ということでダガルは第二高速移動区画に降りた。このフロアは通路が幅広の車道専用になっている。交差点には信号機まである。
ちなみに船体は大きく五層構造になっている。二層目と四層目がフリーウェイだ。その他の層の通路は徒歩専用である。第二フリーウェイは四層目、艦底に近いフロアである。
タブレットを操作すると、すぐに電気自動二輪がやって来た。バイクにまたがり走り出す。最初はおっかなびっくりだったが数回の試乗で慣れた。
そもそもAIの補助で誰が乗ってもまず倒れない仕様になっている。
艦首方向に少し走り、三叉路を左に折れる。三胴の左胴内だ。
左胴内の幹線道路を直進。ほどなく行き止まりにあたる。左艦首だ。バイクを降り、扉に入る。エレベータで上甲板に出、振り返るとピース・ワールド号の巨大な艦体が一望できる。
まさに空飛ぶ城である。左艦首からの眺めなので、左斜めに主艦体、前方には山のようにそびえる艦橋構造物がその威容を誇る。
それが雲の上に浮いているのだ。眼下にはひときわ目立つ大聖会タワーを中心にした法都の街並みが雲越しに見える。
1月前のダガルだったら夢か幻、あるいは自分の気が触れたかと思う光景だ。
セシルと出会ったからの僅かな期間にあまりに多くのことが起きた。今やこの巨大な空飛ぶ城の艦長代理である。しかも金ハンターだ。法都防衛戦の恩賞で金は腐るほどある。
(思えば遠くへ来たもんダガ……)
セシルと出会って以来ずっとジェットコースターでハイテンション状態だったのが急に落ち着いたので、反動で内省的になっているダガルであった。たそがれているともいう。燃え尽き症候群になりかけているのかもしれない。
(ん?)
急に艦橋に影が落ちた。雲ではない。
あの見覚えのある形は。
「プリンセス・アレー号ダガ!」
正確にはプリンセス・アレー号二世だ。オリジナルのプリンセス・アレー号はこのピース・ワールド号に再錬成されている。
ピース・ワールド号直上に転移してきたアレー号二世は、艦首を真下に倒立し、そのままナイフのように落下してくる。いや、1Gよりも重力を強め自由落下よりも急激に加速する。
がごん。
空に轟音が響いた。ピース・ワールド号の巨体が震える。
アレー号二世の突撃は自動展開した超電磁バリアによって防がれたが、超重力の衝撃は完全には防げなかったようだ。
それどころか、アレー号二世には超電磁バリアがないにもかかわらず、ピース・ワールド号の超電磁バリアに亀裂が走る。バリアに勝てるのはバリアだけ、ではなかった。
ダガルはタブレットの緊急アプリをタップした。
今更ながら警報が鳴り響き、戦闘モードに移行する。
「艦長代理より全艦へ、本艦は敵艦の攻撃を受けているダガ! レベル5発動、砲雷撃戦用意ダガ!」
警報アプリにより全通話モードになっている。ダガルはタブレットに向かって叫んだ。
『ブリッジ了解! 超電磁バリアオーバーブーストオン! 主砲展開!』
返答は帝国第12皇子カルダス・オミュウスだ。6歳だが、ギミック大好き少年だ。艦長代理権限でピースワールド号戦術長を委任している。
全周を覆っていたバリアがアレー号二世との接点付近に収束していく。エネルギーを集約して強度を増し、アレー号二世の艦首を捉え拘束すると同時に、主砲の軸線を通す。
「わはははは! 想定通り!」
アレー二世号から高笑いしつつ人が飛び出した。落ちながら収束したバリアの縁を蹴ってパルクールよろしくピース・ワールド号の艦橋先端に取り付いた。
「あれは! 姉さんの親戚ダガ!」
悦郎である。
「こいつは世界の終りより歯ごたえがありそうだと思ったんだぜ!」
どがん!
悦郎が一発殴るとピース・ワールド号の艦橋にこぶし大の穴が開いた。
「なに、穴が開くだけだと……。なるほどこれは強いな」
悦郎は目を細めた。今の一発で艦橋の半分は吹き飛ばせると思っていたが当てが外れたのである。
「穴が開いたダガ! 信じられんダガ!」
ダガルはセシルが造ったこのピース・ワールド号は絶対無敵だと信じていただけに壊れたのは衝撃だった。ダガルは超電磁砲がにゅきにょきと伸びた甲板をEバイクで走り艦橋に接近しているものの、肉眼ではさすがに詳しい様子は見えない。が、タブレットに表示されるダメージ情報で穴が開いたことを知って焦っている。
『ブリッジでも確認。表面装甲を帯電、侵入者の排除を試みます』
フーシィ・オミュウス帝国第11皇女だ。カルダスが戦術長なら私もとブリッジ要員を買って出た。艦長代理権限で船務長を任命した。フーシィ皇女は悦郎の足元に高圧電気を掛ける。案外殺意が高い。
「む? 何かしたか?」
残念ながら電気ショックの効果は自動的に破壊され悦郎にダメージはない。
『敵艦はどうします? 艦長代理』
『奴が外にいるうちにぶっ壊すダガ! 退路を絶つダガ!』
『了解! 主砲全自動射撃!』
艦体各部に配置された主砲はユニバーサルアームにより砲身が頂点を向き、一斉射撃した。ビーム故に反動はない。空気がプラズマ化される微かな音だけを伴って、艦首がバリアに食い込んで倒立したままのアレー号二世に向かって四方から光波が集束する。
がんごんがん。
いかなる物質も貫通するはずの超電磁ビームが、アレー号二世の装甲に弾かれた。
「弾いたダガ!」
『いえ、着弾はしましたが、効果が消失したようです。まるでビームが破壊されたみたいに……?』
「戦術長、破壊って言ったダガ!?」
「ふむ。物体への付与は上手くいっている」
悦郎がひとりごちた。
『付与!? ギフトの付与か……。そうか、それでさっき超電磁バリアが裂けかけたのだな』
これは航海長の第61皇子リキテン・キュリウス・オミュウスである。彼もフーシィ皇女たちが役職を拝命したのを見て面白そうだと立候補したのである。ちなみに悦郎の声は艦外収音装置で拾っているので全員に聞こえている。タブレット経由でバイクで走っているダガルにも。
「どういうことダガ!? 航海長!」
『艦長代理、アレー二世号は『破壊』のギフトを帯びていると具申します。主砲の超電磁ビームは破壊され消滅したと思われます』
「そりゃ激ヤバダガ!」
サブタイトルは厳密には「ピース・ワールド号強襲さる」ですが、ちょっと露骨すぎるのであいまいな感じにしました。




