第57話 第四勢力
いつもよりちょっと長めですが、登場人物のおさらいを兼ねています。急にキャラクター増えたので。
ストーリーはあんまり進んでいないので、適当に読み飛ばしていただいて構いません。
前方のスクリーンが切り替わり、人物が映った。10人いる。
『おお、繋がった。セシルの言ったとおり向こうも大勢だな』
『ヴュオルズ様、こっちから向こうが見えるということは、向こうからもこっちが見えているということです。もう本番が始まっていますよ』
『そ、そうか、ラルシオーグ。おっほん! では改めて。デガンド帝国の皇子、皇女たちよ。我は大魔王。大魔王ヴュオルズである!』
真ん中に大魔王ヴュオルズとラルシオーグ。一歩後ろに下がって左右にバズガドとウィーダ。さらに一歩下がって向かって左に不死の王、始祖の獣王、奈落の竜王。右に紅蓮大将軍、嗜虐の元帥、夢魔の姫騎士が正面から全員が映るようにハの字に並んでいる。セシルの指示だ。
「大魔王!?」
「では彼らは魔人ですか!!」
「魔族って言葉を話せたのでしょうか!?」
「頭蓋骨や獅子の顔は仮面ではない。髪の毛が燃えている者もいる! 間違いなく魔人だ!」
皇子、皇女らがパニックになる中、一人カルダスは(超強力な魔人がこんなに。なんとかっこいい……)と目を潤ませていた。
「はいはい、騒がない。黙ってヴュオルズの話を聞いて」
セシルがパンパンと手を叩き落ち着かせる。ちなみに通信にも自動翻訳システムが効いているのでヴュオルズの言葉は彼らには帝国語に聞こえている。
『諸君ら帝国の機動艦隊や機甲師団、そして法国の魔導大隊が出兵したのは国家同士で戦争をするためではない! 魔王軍から人族を護るためである!』
「え?」
『我ら魔王軍は、法王国の魔獣部隊。召喚士と調教師に隷属された不幸な同胞たちを解放するために立ち上がったのだ!』
「は?」
『法王国が襲撃される前に魔王軍の動きを察知した帝国軍はやむなく皇帝の命を待たずに出撃したのだ。そうしなければ間に合わなかったからだ。我が魔王軍はとても早いのである!』
「へ?」
『魔王軍は現地時間朝7時に攻撃を開始する。だがその目的は魔獣の解放のみである。抵抗があれば止む無く武器は壊すが、命は取らない。それは我が保証する!』
「あら……?」
『今の話、しかと記憶せよ。ことが終わり次第、帝国に戻り皇帝に伝えるのだ。これだけの皇子、皇女の言葉なら真実となるだろう』
「わかりました!」
「え? いいんですかフーシィお姉さま?」
ニアはフーシィが承知したことに驚いたが、フーシィは大魔王がデガンド帝国を救うための助け舟を出してくれているのだということに気が付いた。
ヴュオルズの言葉はこれは詭弁だと言っているのと同じだが、兄たちを救えるのなら便乗するしかない。
確かにこの数の皇族が証言すれば嘘も真実となるだろう。政治とはそういうものだ。
大魔王は敢えて敵役を引き受けてくれてるのだ。
「ということで彼らが第三勢力、すなわち魔王軍です。ではここでメンバーを紹介しましょう」
セシルがそういうと、カメラがズームした。リモート操作である。
『我は大魔王ヴュオルズ、……はさっき言ったな。セシルの友人でギフテッド仲間でもある』
「ギフテッド!?」
「あの伝説の、ですか!」
「ハイデ卿と同じということなのでしょうか!?」
「はいはい、ギフトの話はまた今度ね。もうヴュオルズ、ややこしい話急にしないでよ!」
『うむ、すまぬセシル』
「大魔王が謝りましたわ!」
「この女の子、一体何者なんだ!?」
「ギフテッドのセシル……様?」
「はい黙って! 次!」
『ラルシオーグです。大魔王の秘書であり、七魔常勤取締役の一人です。以後お見知りおきを』
カメラが自動でパンしてラルシオーグを正面に映す。以下同じなのでカメラの動きは省略する。
『大魔王の側近、バズガドだ』
『ボクはウイーダ。ボクも側近の一人だよ!』
『七魔が一人、不死の王である。不撓不屈が身上である』
『同じく七魔の始祖の獣王だ。魔獣を奴隷のように扱うとは許せぬ』
「気持ちはわかるけど、魔獣部隊を殺しちゃダメよ。手加減してね」
『わかっておりますセシル殿』
『奈落の竜王。呪詛が得意だ。七魔が一人である』
『七魔常勤取締役の一人、紅蓮大将軍である。炎のたてがみが燃えている限りわしに敗北の二文字はない』
『七魔のひとり嗜虐の元帥だ。特に語ることはない』
『さいごはあたい、夢魔の姫騎士だ! こう見えてサキュバスなんだぜ! 以後よろしく!』
なんか……思ってたよりノリが軽い。ホントに大魔王、ホントに魔王軍なのか? セシルとかいう女に担がれているのではないのか? と皇子、皇女たちはつい疑いを持ってしまった。
「大魔王、じゃ、そういうことで打ち合わせどおりよろしくね!」
『うむ、ではまた後でな、セシル』
画面がまたデガンド帝国の二画面ライブ映像に戻った。
同時にざわめきだす皇子、皇女たち。
「お兄さま、お姉さま方!」
カルダスが急に立ち上がり、声を大きくした。
「今画面に映っていた10人の魔人。どのお一人をとっても強大な力をお持ちです。そこにいらっしゃるアラデよりももっともっと強いです!」
「カルダス、何を?」
突然演説を始めた弟にフーシィが戸惑う。
「あの魔人の皆さんを相手にするならば、確かに法王国軍、帝国軍の全軍が力を合わせないと無理でしょう。いや、それでも対抗出来るかどうかというところです」
「鑑定か。カルダス皇子がそういうのなら、間違いないのだろう」
リキテンが納得する。カルダスが鑑定魔法を使えることは聞いていた。
「急ぎベイハムお兄さまが軍を動かしたのも納得です。それにダガードお兄さまが法王国と連絡を取っていたのは戦時同盟を結び魔王軍に対抗するためだったのです!」
「う、うむ、そういうことになるな!」
「そう、そうよね! カルダス!」
「ええ、やはりお兄さま方はお兄さま方でした! 人類の存亡をかけたこの戦いの英雄です!」
「おお!」
出たよお兄さまはお兄さまという謎理論。
とセシルは思いつつも、この子たちがこの茶番劇を真実にしてくれると確信した。
そして世界を滅ぼすという『憑依者』の企ての全てを木っ端みじんに砕いてやると改めて心に誓うのだった。
悦郎を取り戻しキャッキャウフフな異世界ライフを送るために!
「もう紹介した人もいるけど、あらためてこの艦のメンバーを紹介するわね。はい、セシルチームの皆さん前に並んで……。揃ったわね。まずわたし。金ハンターのセシル。このピース・ワールド号の艦長であり、チームリーダーよ。よろしくね!」
「私はシュバルトリウス。エトアウル王国の商人です。シュバルとお呼びください」
「シュバルさんね。さんは大事よ!」
「いや、皇族の方々にそれは……」
「シュバルさん」
「話が進まないから次な。俺、いや私はマークゼウスと申します。マークスとお呼びください」
「申しますだって! そんなキャラじゃないでしょマークス。堅苦しいなあ」
「だって帝国の皇族様たちだよ! 下手したら不敬罪になるじゃないか!」
「あの、そもそも助けていただいたし、世界を救おうとされてますし、龍神様や大魔王様のお友達ですし、わたくしたちの方こそ気軽に話せる立場ではないと思うのですが……」
フーシィがおずおずと言葉を挟んだ。
「フーシィ皇女のいうとおりです。僕たちの方こそ、畏まらなければなりませんでした」
リキテンも首を下げる。
「ほらー。年長さんの皇子皇女がそう言ってるし、ここはお互いフランクに。フレンドリーで行きましょ」
「マジかよセシル。まあ、そういうなら、それでいいか、ということで俺はマークス。エトアウル王国の鍛冶職人だ、よろしく」
「皇族様方を前に慣れませんが、わたしはアントロノート。シュバルさんの部下の商人です。アントロとお呼びください」
「アントロは相変わらず丁寧だな。まあ商人だから腰が低いのはしょうがないか。僕はコレクト。マークスの同僚の鍛冶職人だ。よろしくな皇子さん、皇女さん」
「アドセットの街の鉄ハンターのダガルだダガ。見てのとおりトカゲ族だダガ。セシルの姉さんの一の舎弟ダガ」
(アドセットって、どこでしょう?)
(聞いたことありません)
「アドセットの街はエトアウル王国の西の端にある宿場町よ。マルチ山脈ガウゴーン渓谷の入り口ね」
ひそひそ声に思わずフォローしたセシルであった。
(ああ、あのあたりの街ですか)
(ぼく、まだ習ってない……)
(そうか、ストロングはまだ5歳だったね)
「次だゴズ。俺はゴズデズ。アドセットの街の鉄ハンターだゴズ。オーガ族ゴズ」
「女の子はこいつと二人きりになっちゃダメよ。万一の時はタブレットの防犯キー押してね」
「なんもせんゴズっ! 俺はこんなケツの青いガキは対象外だゴズ!」
「ま、前科持ちは信用ないダガ。あきらめるダガ」
「ふんっ、だゴズ」
「俺はジック。アドセットの街の青銅ハンターック。ウェアウルフ族だック」
「おいらはチョーキー。同じくアドセットの街の青銅ハンターキー。オーク族の魔法使いだキー」
(アドセットの街の人多くありませんか?)
(というより、全員エトアウル王国の民のようだね)
「質問です」
「はい、カルダス君」
手が挙がるとつい指名してしまうセシル。クラス委員長だった時の癖だ。
「セシル様もエトアウル王国のご出身でしょうか?」
「セシルでいいわ。ハンター登録はアドセットの町だったけど、わたしはエトアウル王国民じゃないわ。ニホン出身よ」
「ニホン?」
カルダスはもう地理を習っているが、そんな国は聞いたことがない。
「こことは違う世界。この話はややこしくなるから、というかわたしにもまだよくわかってないことが多いから、今はちょっと置いておいて」
「……わかりました」
「さて、大トリっすね! あたしは四天龍の一体、嵐龍アラディマンダー。この姿の時はアラデでいいっすよ! よろしくーっす!」
「大トリって、まだ皇子、皇女が残ってるじゃない。まあセシルチームはこれで全部だけど。じゃあ今度は皇子、皇女の自己紹介よろしく。年齢順で行こうか。はい、まずリキテン皇子!」
セシルは完全にノリがホームルームになっている。
「えっ、はっ、はい。わっ、わたくしはデガンド帝国第61皇子リキテン・キュリオス・オミュウスと申します。14歳で、父は当然ながらラーセン・オミュウス皇帝。母は第6夫人のミコサムネ・キュリオスです。姉が第61皇女スザンヌ・キュリオス・オミュウスです。先ほどのお話では姉は南部諸国へ参戦勅命を届ける特使として向かっているとか。姉は成人したばかりだというのに、戦争の使いにされるなんて、そんなことが許されるのでしょうか」
「大丈夫よ、リキテン皇子。そのための第三勢力だし、お姉さんは必ず守るわ」
「そう、そうなのですか。本当に大丈夫なのですか……?」
「そうよ。第一、この映像どうやって映していると思っているの? 現地に既に味方を配置しているわ」
「あっ!」
確かにそうだ。この艦に来てからというもの全てがあまりに凄すぎて今更気にしてもいなかったが、遠く離れた帝国の様子が手に取るようにわかるというのは異常だ。
魔法の一種なのだろうが、少なくともこの映像を送っている味方が帝国内にいるのは間違いないとリキテンは理解した。
「だから大丈夫よ。それともっとフレンドリーに話していいからね。はい、次は……。あ、同い年か。じゃあまずフーシィ皇女よろしく!」
「はいっ。第11皇女フーシィ・オミュウスです。13歳です。兄の第11皇子ダガード・オミュウスがご迷惑をお掛けして申し訳ありません。なんとお詫びしたらよいか……」
「フーシィ皇女、それはいいから。ダガード皇子も被害者の一人なの。みんな助けるからね!」
「お、お願いします。セシル様!」
「だからセシルでいいって。はい次。バーラヴィ皇女」
「はい。第71皇女バーラヴィ・トレジャー・オミュウスでございます。フーシィ様と同じく13歳でございます。母は第7夫人のカンバーシ・トレジャー。同母の兄弟はおりません」
「堅いな~。まあ皇族だからしょうがないか。アレー王女もこんなだったしね。はい次、ニア皇女」
「第81皇女ニア・パントーネ・オミュウス、12歳です。母は第8夫人ウギット・パントーネ。同母兄弟はおりません」
「ついでに抱いてるスティングレー皇子の紹介もよろしく」
「あ、はい。この子は第101皇子スティングレー・エミネント・オミュウス。まだ1歳を迎えていません。母は第10夫人リリーナ・エミネント。ベイハム皇子と同じ19歳です」
「自分の息子と同じ年の女を嫁にしたのかゴズ! しかも10人目! さすが皇帝そこに痺れるゴズ憧れるゴズ!」
「ね、絶対女子は二人っきりにならないように!」
「墓穴掘ってるダガ」
「まあ、ゴズデズだからなーキー」
「ほっとけゴズ」
「はい次。カルダス皇子」
「はい、皇子は結構です。カルダスと呼んでください。ハンターセシル」
「お、フレンドリーね。いいわね。でもハンターはいらない、わたしはセシル呼びでいいわ」
「ではセシル。僕は第12皇子カルダス・オミュウス、6歳だよ。父は当然ラーセン皇帝、母は皇后ベアリース・オミュウス。ダガードお兄さま、フーシィお姉さまとの三人兄弟だよ。よろしくね、セシルチームの皆さん!」
「鑑定魔法が使えるのよね」
「あっ、はい……。いや、うん。そうだよセシル」
「私の鑑定出来る?」
「え? うーんと……。あれ? 何も見えないや。基礎ステータスも見えないなんて、不思議?」
武器屋のグローブスが鑑定魔法を使った時と同じだ。
「あー、やっぱりね。ありがとう、ごめんね」
「いや、こっちこそ鑑定が効かない人がいるってことが知れたのはありがたいよ。気を付けなくちゃね」
「カルダス、あなた6歳とは思えないわ。聡明なのね」
「好奇心が強いだけだよ、セシル」
「ふふっ。面白い子ね。はい、次が最後ね、ストロング皇子」
「はははいっ、す、ストロング・ヴュルツ・オミュウス。第91皇子、5歳です! 母は第9夫人アルフェネー・ヴュルツです! ええと、アルフェネー母様のこどもはぼく一人ですので、どうぼ? のきょうだいは、いませんっ!」
「はい、ありがとう。これで全員の紹介は終わったわね。ここでのミーティングは以上だけど、助けた時間がバラバラだからあれよね。おなかすいた人、眠い人がいると思うの。おなかすいた人!」
フーシィ、カルダス、ハンター4人、アラデが手を挙げた。
「じゃ、その7人はアラデが先導して食堂に行って。眠い人!」
バーラヴィ、ニア、ストロング、マークス、コレクトが手を挙げた。
「じゃ、客室でお休みね。7時間後に朝食にするからそれまでゆっくりね。ニア皇女はスティングレー皇子も連れていってね」
「はい」
「じゃあごゆっくり。あ、これから艦が移動するから現在時刻が変わるけど、タブレットのアラームはきっちり6時間30分後に鳴るので大丈夫だからね!」
「時刻が変わる?」
「時差のことだよ、バーラヴィ皇女。詳しくはタブレットのQアンドAにある」
「は、はい……???」
食事組、睡眠組が出ていき残ったのはセシル、シュバル、アントロ、そしてリキテン皇子の4人になった。
「リキテン皇子はおなかもすいてないし眠くもないの?」
「セシルさんたちに聞いておきたいことがあります」
「何かな?」
「魔王軍はカルダスの鑑定のとおり、帝国軍、法王国軍を蹴散らしてしまうでしょう。その後はどうするおつもりなんですか? 魔獣部隊から魔族を解放して、じゃさよならって魔王軍が何もせず去っていくなんて不自然です」
「ああそれか」
セシルが笑う。
「ちゃんと考えてるって。第四勢力の登場よ」
「はい?」
『憑依者』を出し抜き戦争を止めるために壮大な茶番劇をやろうとしているということだけ記憶にとどめて頂ければ。




