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第41話 宴会

 シュバルとラルシオーグはタブレットに表示される魔大陸のマップを間に商談を進めていた。

 ラルシオーグの前には4皿目のゼリーがあった。

 黄金の止まり木亭は早くもゼリー量産体制を整えていた。アドセットの街でも大人気らしい。


「では、この辺りに褐色オイデン鉱の鉱脈が。なるほど」

「魔力溜りはこのゼゼステ湖南岸の洞窟奥が一番ですね。それとこのガルダ死火山の古い火口付近。こちらは硝毒が強いので毒耐性がないと近づくことも出来ませんが」

「なるほどなるほど」

「それにしても人族の地図は立体的で繊細ですね。わたくしたちにも飛行魔族の部隊に作らせた地図があるのですが、ここまで詳細で広範囲なものは作れません。しかもたった一日でここまで調べられるとは」

「それが人族の科学の力というものです。人の手で行ったのではなく機械が一晩掛けて自動的に調べたのです」


 しれっと言うシュバルだが、人族の世界にもこのような航空測量技術や自動化装置はこれまで存在していなかった。全てセシルの生み出したものである。


「……これで、魔大陸の調査範囲が概ね決まりました。ラルシオーグ様、ご協力ありがとうございます」

「わたくしたちも、魔大陸全域に棲んでいるわけではありませんから、分かる範囲で申し訳ありません」

「いえいえ、助かります。それで調査期間ですが、本日より10日の滞在をお許しいただきたく、重ねてお願い申し上げます」

「それは構いません。ただ、どこにいるかは常に連絡を戴きたいと思います」

「あ、じゃあこのタブレット貸しておくわ。これをこうすれば、ほらこんな風にプリンセス・アレー号の現在位置がわかる。電話でわたしたちに連絡も出来る」

「デンワ?」

「離れた場所でもお話が出来る仕組み」

「ああ。精神の糸(パスライン)で行う念話のようなものですね、セシル様」


 念話の方が分からないよ! とセシルは心で突っ込んだ。


「それと、滞在の間、魔族の皆さんと無駄な争いにならないよう探索の許可証を戴ければ有難いのですが」

「シュバルさん、それは大丈夫です。わたくし、魔大陸中の全魔族と契約しておりますので、今の商談内容は既に全土に連絡済みです。魔大陸において、魔族が皆さんと敵対することはありません」

「そうですか。重ね重ねありがとうございます」

「ただ、魔族以外の生物には気を付けてください。魔大陸には魔族以外にも猛獣や毒を持つ虫など危険生物が多数生息していますからね。まあ、セシル様やアラデがいるので大丈夫でしょうけれど」

「承知しました。調査結果と査定額をまとめ、10日後にこちらから魔王城に報告に参ります」

「楽しみにしていますよ。シュバルさん」


 魔王会社との貿易開始前の事前調査に関する打ち合わせは終わった。

 後は打ち上げである。ちょうど昼時だ。


 ラルシオーグの提案でバズガド、ウイーダも呼んだ。彼女らはヴュオルズの側近なので本来ならば魔王城でのやり取りの際にも傍にいるべき役割の者だったが、ラルシオーグが止めたのだ。

 セシルたちが3人で来ることが分かっていたので、2人が出ると大魔王側が4人になり、あたかも人族を恐れているように見えてしまうからだ。

 数を頼むのは卑怯。強さがその存在意義ともいえる大魔王ならではの社交感覚である。そしてラルシオーグはヴュオルズのそんな性質をよく承知していた。


 一方、側近としての立場を潰された形になったバズガド、ウイーダのことも気にしていた。そこで人族との交流の場に二人にも参加しないかと持ち掛けたのである。念話で。


 バズガド、ウイーダは二つ返事で了承し、自力で飛んで来てプリンセス・アレー号に入艦した。


「なんかまたヤバい女が来たダガ」

「どっちも身のこなしがめっちゃ鋭いキー。素手なのに切れ味抜群な感じだキー」

「なんでこの艦にはこうめちゃくちゃ強そうな女が集まるんだック? セシルのせいかック?」

「ぬほほほほゴズ。黒髪のねーちゃんも銀髪のねーちゃんもいい感じだゴズ」

「ゴズデズ、お前のチャレンジャー精神にはほとほと感心するダガ。性根の座った命知らずダガ」


 黄金の止まり木亭に深夜残業手当を追加し料理を揃えさせた豪勢な宴が始まった。



◇◇◇◇


超新星(スーパー・ノヴァ)?」

「そう、エッチャーンのその魔法攻撃でボクたちはあの時死んだの。あれは山の魔王の火炎爆縮と海の魔王の深層圧壊を合成したスキルね。おそらく」

「即死したのによく分析出来るわね、ウイーダ」

「少し先の未来、少し前の過去。ウイーダは自分がいる場所で起きたこと、あるいはこれから起きることを知覚出来る」

「バズガド、過去視、未来視と言ってよ」

「凄いわね。それじゃじゃんけんとかババ抜きとか必勝じゃない!」

「ジャンケーン? ババヌキー?」


 セシルはバズガド、ウイーダのコンビと話している。魔大陸では、ヴュオルズ以外で悦郎と直接対決したのはこの二人だけだ。前回出現時の悦郎について尋ねていた。

 そしてウイーダはまさかのボクっ子だった。


 そうか。ギフト以外のスキルや魔法も『簒奪』出来るんだ。そういえばえっちゃん自分で飛んでたし、魔族語も普通に使ってたわね。魔物から奪ったのね。

 なるほどとセシルは納得した。


 そして全世界知識(アカシックレコード)と簒奪の組み合わせのとんでもない危険性に思い至る。

 欲しいスキルを検索して奪うことが出来る。ヤバい。


 うん、これはとてもまずいわね。


 『憑依者』から早くえっちゃんを取り戻さないと、大魔王と共闘しても手が付けられなくなるかもしれない。


 だが、肝心の悦郎の居場所がわからない。

 プリンセス・アレー号のセンサーを最大範囲にしても引っかからない。

 よほど超長距離の瞬間移動を行ったか、あるいは別次元に身を潜めているのか。


 現状、こちらから打って出ることが出来ない。悦郎が大魔王を襲いに来る時を待つしかない。


「でもその攻撃が来るってわかったのに、なんでよけなかったの?」

「ボクたちは大魔王様の盾だから」

「なんかすごい忠誠心ね!」

「チューセーシン? それがなにか分からないけど、大魔王様を護るのがボクたちの役割だから」


 やっぱり、魔族と人間はちょっと精神構造が違うみたいね、とセシルは思う。社会ではなく、()()だし。

 魔族は魔族として生まれる。だから親や子という家族関係もないようだ。家庭という最小単位がないんじゃ社会が発達しないのも道理か。

 だから、役割、立場、肩書が重要視される。


 とはいえ、友だちになれないことはない。


「二人はいつもスーツ姿なの?」

「ん? そんなこともないよ。これは大魔王様が決めた制服みたいなもの」

「ヴュオルズが決めたの!?」

「うん。ボクたちにはこっちの方が似合うって。ラルシオーグ様みたいなのは合ってないって言われて」


 たしかに。

 ヴュオルズ、センスあるじゃん。めっちゃ意外。


「へえ、普段はどんな格好してるの?」

「あたしはあんまり変わらない。もっぱらパンツスーツスタイル。もう少しカジュアルな感じにするけど」


 バズガドの普段着はキャリアOLのようなものらしい。


「ボクは柔らかいワンピースとかだな。あそこで嵐龍が着てる服、結構好み」


 ウイーダはフェミニン系のようだ。ボクっ子なのに。髪型もショートなのに。


 一方、アレー王女はラルシオーグと語っていた。


「……ですので、わたくしは父や姉の行為を許しておりません」

「なるほど。東方の魔人、エッチャーンはある意味王家に騙され上手く使われた、ということですか」

「父にとって誤算だったのは、撃滅のエツロウ様が余りにも強すぎたということです。無茶な命令で縛ったつもりが、あっさり達成されてしまったことで、エツロウ様自身を脅威に感じたのです」

「でもそのようなことをわたくしに話してよいのですか? 王女は王家の代表なのでしょう?」

「わたくしにはわたくしの正義がございます。そしてラルシオーグ様やヴュオルズ様は今やビジネスパートナー。嘘偽りは申せません」

「なるほど。アレー王女、貴女様のお覚悟、確かに受け入れましょう」

「ありがとうございます。ラルシオーグ様」


 王女のすぐ後ろに控えているガリウズの顔色が悪い。その気になれば王女を瞬殺出来る恐るべき魔人が至近距離にいる。今は友好的だが相手は魔人だ。何かの間違いで急に暴れ出すとも限らない。彼の胃は今にも穴が開きそうであった。

 正直、打ち合わせ後に宴席を設けると聞いた時、猛反対しようとしたのであるが、それを察した王女に先んじて止められたのだった。

 シュバルからも、人族の料理をふるまうことで関係を更に良好に出来る。結果として王女の安全が保障されると諭された。


 ガリウズはただただ早く終わってくれ! と祈るしか出来なかった。


「実際、飯めちゃ旨くなってるダガ」

「そうだキー。元々定評のある黄金の止まり木亭だけど、新メニューもそうだし、元々あった煮込みなんかもすごく柔らかくて繊細な味わいになってるキー」

「確かにいくらでも喰えるック」

「おりゃ豪快な味付けも好きだゴズ」

「お前に複雑な味覚は期待してないダガ」


 ハンター組とアラデは食べる専門である。


 そしてシュバル・アントロの商人ペアとマークス・コレクトの鍛冶職人ペアの4人はこれからの探索について喧々諤々話し合っていた。料理を頬張りながら。


 そうこうするうちにおよそ2時間。

 料理もあらかたなくなり、お開きの時間となった。

 セシルがラルシオーグらをドローンで送る。


「ごちそうさまでした。人族の料理、大変堪能致しました。ありがとうございます」

「朝昼晩と食事時間があります。よかったら、何時でもお越しください」

「今度は大魔王様とご一緒させていただいても良いかしら?」

「はい、ぜひ!」


 明るく答えるアレー王女にガリウズの胃がまた悲鳴を上げた。


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