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第40話 貿易交渉開始

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

 姉弟勇者、再開です。

 今年もよろしくお願いします。

「もーひどいっすよ、あたしとばっちりじゃないすか?」


 気絶からアラデも立ち直った。顔は真っ赤に腫れたままだが、セシルは治してやる気はないらしい。

 見かねたヴュオルズが腫れた顔を再生で癒した。


「おっ、サンキューっす。大魔王!」

「ふむ。『再生』のギフト、なかなかよいものだな」


 大魔王の声が心なしか弾んでいる。貰ったばかりのおもちゃを手にした子どものようだ。見かねたというよりギフトを試したくてうずうずしているだけなのかもしれない。


「大魔王、『創造』と『再生』の力の根本は多次元操作なの。それを理解するともっと多彩な使い方が出来るわ」


 とはいえ、セシルから見れば大魔王のギフトの使い方は粗削りだ。得たばかりなので仕方がないが、基礎はもちろん応用問題が出来なければ、いまや4つのギフトを得た悦郎には対応しかねるだろう。


「なに? 多次元操作か……。なるほど」

「さすが大魔王、知ってるのね」


 アラデも知っていたくらいである。当然大魔王も魔の力の源である高次空間からの誘導エネルギーについて理解しており、多次元操作についての科学的な知識も持っている。

 故に、セシルが重ね合わせによる身体強化、可能性の手繰り寄せ、合成ギフトの『錬成』、時間制御、全世界記憶(アカシックレコード)等を説明すると、大魔王は短時間でギフトの使い方をどんどん高度化出来ていった。


 大魔王自身のギフト、『進化』の効果もあっただろう。


「そろそろいいかな?」

「おお、では参る!」


 ヴュオルズが紫に輝く剣を『創造』で生み出し構えた。

 昔ヴュオルズがまだ魔剣士であった頃の愛刀『ガーラビィ』の複製(レプリカ)だ。

 それに相対し、セシルがガザルドナイトの黒剣を空間から抜刀する。そして魔王城上空に二人が瞬間移動する。


 セシルVSヴュオルズ。

 互いに旋回するように飛翔し、そして一気に距離を詰める。剣と剣がぶつかり合う。


 がきいっ!


 空中戦(ドッグファイト)だ。

 がん、がん、がんと何度も紫剣と黒剣が斬り結ばれる。ラルシオーグたちはバルコニーの端まで出、二人を見上げていた。


「互角?」

「いえ、大魔王様が押しています!」

「セシル様、負けるなっす! 押し返すっす!」


 3人は完全にエキシビジョンマッチの観戦ムードである。


 力では勝負がつかないと見て、二人は呼吸を合わせたように互いに大きく距離を取る。離れながら、大魔王が魔力の塊をいくつも飛ばす。必ず当たる可能性を重ね合わせた魔法を帯びた弾だ。炎の魔法、毒の魔法、電撃の魔法。それらの魔法弾をさらに瞬間移動させ、セシルの四方八方から撃ち込む。

 必殺必中の集中砲火だ。


 だがセシルは、ガザルドナイトの剣に全て吸収させた。多世界の剣の位置を重ね合わせ自分の全周囲を全て覆う。魔法弾は剣に当たるので判定は必中だが、即座に吸収されてしまうので攻撃はセシル自身に届かない。その上に。


「聖魔反転!」


 ガザルドナイトの剣に残っていた滅殺魔法をセシルが放出した。それも多世界の複数の剣から同時にという鬼畜ぶりである。そしてお返しとばかり同様に瞬間移動させヴュオルズを魔力で作り出した籠のように包み込む。


「なんだと!」


 聖魔反転は対象の魔力を踏み台にして滅ぼす魔法だ。そしてヴュオルズの魔力は大魔王故相当に大きい。その全魔力を多重化した聖魔反転が吸収し、圧縮、そして一気に開放する。


 空中で大爆発が起きた。


 ヴュオルズが砕け散った。


 かに見えた。


「あ、アブないところであった……」


 セシルの隣にビュオルズが姿を現した。若干腰が引いている。冷や汗も浮かんでいる。

 間一髪、爆発直前に瞬間移動したのである。

 ただ、魔力はごっそり吸収され失っていた。もはや継戦は不可能である。


「わたしの勝ちね、大魔王」

「う、うむ。だが、次は負けぬ。貴様に貰ったこのギフト、我がもっとうまく使いこなす。『進化(イヴォルヴ)』によってな!」


 もともとヴュオルズは絶対防御と絶対再生のスキルを持っている。セシルのギフトとの親和性は高いのだ。


「そうか。それが大魔王のもう一つのギフト。『模倣』と『進化』があなたに与えられたギフトなのね」

「うむ」


 二人は瞬間移動でバルコニーに戻ってきた。


「聖魔反転を受けてご無事とは。一瞬ヒヤリと致しましたが、もはや東方の魔人を恐れることはありませんね」


 ラルシオーグがべたべたとヴュオルズにくっつくように話す。さっきシャーベットをビュオルズに創造して貰ってから、やけに大魔王との距離が近い。


「いや、まだまだだ。魔力が底をついた。せっかく手に入れた神の子のギフトだ。もっともっと我がものにせねばならぬ」

「1時間足らずでそれなら、数日あれば完全に使いこなせるようになるんじゃないかな?」

「そうなのか!」


 ヴュオルズの顔が途端に明るくなる。


「わたしも4日目だし。そんなものじゃない?」

「うむ? 4日目? まあよい。魔力が回復次第、ギフトの鍛錬に精を出す。よいな、ラルシオーグ」

「もちろんでございます」


 ギフテッドは生まれつきのものである、というのが大魔王の知る常識である。セシルが言った意味はヴュオルズには理解出来なかった。


 頃合いと見て、シュバルが切り出した。


「時に大魔王様。われわれは今後大魔王様の会社との継続的な取引を望んであります」

「取引? 何かを引き取るというのか? シュバルサーン」

「いえ、交換でございます。この魔大陸にあるものと、人間社会にあるものを交換する。それが取引でございます」

「大魔王様、しゃあべっとや新感覚の服など人族の文化を取り入れる良い機会でございます。取引について前向きに考えてはいかがでしょうか」


 ラルシオーグが横から援護射撃する。


「しゃあべっとならギフトで作れるぞ」

「それは大魔王様が人族の文化に触れたからこそでございます。われらには、料理にしろ、衣服にしろ、住まいにしろ、芸術文化にしろ、様々な新しいものをこの魔大陸にお届けできます」


 シュバルの言は、半分真実で、半分虚偽だ。シャーベットはセシルだし、ラルシオーグのいう新感覚の服はアラデのデザインによるものだ。人族世界にもこれまでなかったものである。

 それに今シュバルがイメージしている住まいとはプリンセス・アレー号の船室だ。

 決して一般的庶民が暮らす暗くじめじめとした、衛生的とはいえない住居ではない。


 そしてヴュオルズはといえば、さして人族の文化や生産物に興味はなかった。彼もずっと魔大陸に引きこもっているわけではない。かつては世界のあちこちを渡り歩いてきた。外界や人族に関する知識は当然持っていた。


 だが、ラルシオーグが人族との取引について進めたいのならば、それは別に否定する必要もない、と考えた。

 事実、セシルのもたらした力は素晴らしい。そして再生持ちが二人要れば『簒奪』に対抗出来る。他の方法では無理だというのは理解出来た。

 人族の知恵というものにも一定の価値がある、とヴュオルズは思った。

 彼は決して専制的な王ではないし、むしろ統治者としては優秀であった。

 ()()を経営出来るくらいに。


「ふむ、それで交換といったな。我は何を出せばよいのだ?」

「大魔王様、非才の身ゆえ大魔王様の会社から何をご提供いただくかは、これからこの目で見とうございます。故に、しばらくの滞在と調査の許可を賜りたく、お願い申し上げます」

「わかった。後はラルシオーグと話をせよ。この件、ラルシオーグに一任する」

「承知いたしました」

「ありがとうございます! 大魔王様」

「我は魔力の回復をする。ではこれにて」

「じゃあまたね! 大魔王」

「おお、セシル。また」


 奥に去っていくヴュオルズを敬礼して見送るシュバル。気やすく手を振るセシル。そしてバルコニーに残り腕組みをするラルシオーグ。

 セシルはシュバルとラルシオーグの目が光るのを見逃さなかった。

 なんか意気投合してる!?


「ラルシオーグ殿、取引の相談……我々は商談と呼んでいますが、商談は場所を変えてあの空飛ぶ船の中ではいかがでしょうか。人族の文化に触れる良い機会だと愚考いたしますし。ラルシオーグ殿さえよろしければ」

「それがいいっす! 今ならゼリーもあるっすよ! シャーベット以上にうまいっす!」

「まあそれは素晴らしい!」


 かくして、ラルシオーグはドローンに乗り、プリンセス・アレー号に入艦した。



◇◇◇◇


 展望食堂に全員が集まっていた。


「またとんでもなくエロい女が来たもんダガ」

「生で見るとすげー迫力だキー。どこがとは言わないけどキー」

「セシル、アラデに続きまたまた超危険な匂いのする女だック。ヤバいック」

「ぬふふゴズ。ほほうゴズ」

「ゴズデズ、お前相変わらず向こう見ずな奴ダガ。その点だけは感心するダガ」


 などと最も遠巻きしてラルシオーグを眺めるハンターたち4人。本人たちはひそひそ話しているつもりだが、地声がデカいので食堂中に聞こえている。


 ハンターより前にはマークスとコレクトの鍛冶職人コンビ。今回は商談なので、シュバル、アントロの商業ギルドにお任せだ。ラルシオーグに挨拶だけして、一歩引いて成り行きを見守っている。


 その前にアラデが座ってぱくぱくとゼリーを食べている。平常運転である。


 真ん中に陣取っているのはもちろんラルシオーグ、シュバル、アレー王女、護衛としてガリウズ。セシル。書記係として商業ギルドのアントロの面々。


 アレー王女はこのクエストのオーナーという立場でラルシオーグに接している。ガリウズは護衛騎士という立場上当然艦内に乗り込んできた魔大陸の上位魔族を警戒し面会には猛烈な難色を示したが、王女に押し切られた。


 そもそも魔族のアラデが既に艦内におり、ギフトを取り戻したセシルもいる。この二人が傍にいて滅多なことが起きるはずはない。

 それよりも人の国の中で、ハルド王国の王族が最初に魔大陸を代表する者と会うことに重要な意味があった。人と魔族の初めての特使外交である。人類史に残る偉業だ。


(第三王女のわたくしがこんな歴史的快挙の当事者となるとは! これもみなセシルお姉さま、撃滅のエツロウ様のお導きですわ!)


 アレー王女は胸を張った。

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