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第26話 魔大陸到着

 アラームが鳴った。

 しっかり2時間寝ていた。


 セシルはベッドから起き上がり、窓のブラインドシャッターを開く。太陽は予想より傾いている。そして、水平線に横に長い影が浮かんでいる。


 魔大陸を取り囲む断崖が見え始めたのだ。現地時間は午後4時半。後1時間弱で大陸に到着する。予想より2時間程度遅い。嵐龍戦で速度を落としたのと、魔大陸が想定よりも西だったせいだ。東回りに飛んだ方が早かったかもしれない。以前の調査の時、西回りでよく船でたどりついたものねとセシルは思った。


 顔を軽く洗いブーツを履く。異世界キラキラ化のおかげでメイクしなくて済むので早い。元々ファンデとリップぐらいだったけれど。

 

 他のメンバーはどうしているのかとタッチパッドのフロアマップを確認すると、アレー王女とガリウズのアイコンは自室。他のメンバーのアイコンは相変わらず展望食堂にある。

 ライブ動画に切り替える。食堂ではシュバルはマークスと、アントロはコレクトとそれぞれ別のテーブルで話をしている。ハンターチームは4人でこれも別テーブルで食事をとっていた。

 アラデはひとりで何か食べている。


 龍布の服はどうなったんだろう。セシルは食堂に向かうことにした。エレベーターに乗ろうとして、思い出して転移してみた。一瞬で景色が切り替わり、食堂に出た。床から1メートルほど浮いていた。


「おっと」


 膝を曲げて着地する。転移は精緻なコントロールが必要なようだ。床に埋まるよりはましだったが、考えてみれば転移時に誰かと重なったりしたらグロい。準備無しで使っていいものではなさそうだ。

 転移の穴を再錬成し消すのも忘れずに行う。


「うみゅ、セシル様。さっそく空間転移でお出ましすか」


 ボアステーキを頬張りながらアラデが顔を上げた。

 転移ポイントはアラデのテーブルに一番近かった。3メートルずれてたら重なってたわねとセシルは思った。


「試しにやってみたけど、これって出る時のコントロールが難しいわね」

「自分が転移する時は一瞬ですが座標を喪失しますからね。物を転移させるのとは違います。普通は座標を固定したアイテムを使うんすよ。転移門とか、魔法陣とか」

「なるほど、確かに。あんたやっぱり賢いわね」

「長く生きてますんで。えへへ」

「ところであんたずっと食べてたの?」

「いやあ、シュバルさんとマークスの商談が結構長くて、さっき食べ始めたとこっす」


 シュバルは()()付けと指示したが、マークスは呼び捨てで構わない。セシル自身がそうだし。

 アラデは龍布と抜け殻がそれぞれ1千万円で売れたのを得意げに話した。


「ええっ、そんなにするの!? 軽く服頼んで、なんか悪かったわね」

「いえいえ、セシル様への忠誠の証っすから。雇い主の姫様の分も含めて」

「そう、じゃ遠慮なく。でも抜け殻はちょっと引くなあ。なんかそれ恥ずかしくない?」

「自分、魔物なんでその辺はよくわからないっす。人間は恥ずかしいんですか?」

「わたしの抜け殻なんて誰にも見せないわよ!」


 えっちゃんが欲しいって言ったらリボンつけて渡しちゃうけどね!


「毛はいいんすか?」

「それって羊毛(ウール)みたいなものでしょ。でも、人間のは……髪の毛なら鬘の材料になるし、まあいいけど、それ以外は嫌だな」


 えっちゃんが欲しいって言ったらもちろんぶちッと抜いて……ってなに考えてんのわたし!


「なんか赤くなってません? セシル様」

「なんでもない!」

「そうっすか? ……ごちそうさまでした!」


 喋りながらもアラデは食べるスピードを落とさず、食器を片付けた。


「じゃ、ちょっと取りに行ってくるっす。でも、服はいいとして、抜け殻はどうしましょうかね」

「折りたためる?」

「薄いので軽いしたためますが、結構場所は取りますよ」

「じゃあ格納庫に置いといて」

「了解っす!」


 アラデの周囲に紋章のような文字列が発光し、キラキラとしたエフェクトと共にその姿が高次空間に消えた。


 うわっ、ファンタジー!

 魔法といえばこうよね! いいなあ、なんでわたしのはエフェクト出ないのよ?


 とセシルはおかんむりだが、それは当たり前だ。

 アラデは風を始原とする空間魔法を使っているが、セシルは物理的に時空を歪曲させているからである。

 それに、魔法陣や詠唱無しで即結果が発現するセシルの能力の方が魔法よりも使い勝手が優れている。文句を言うようなことではない。


「姉さんが突然出てきたと思ったら今度はアラデが消えたダガ」

「やべー美少女たちだキー」

「あの二人はあんなものと割り切った方がいいック」

「触らぬ神にたたりなしゴズ」


 離れた席でちらちら見ながらハンターたちがため息をついた。


「龍布と抜け殻、アラデが取りに行ったわ。格納庫に入れとくように言ったわよ」


 セシルがシュバルとマークスのテーブルに近寄りながら伝える。


「そうか、それは助かる。どこで受け取ろうかとさっきも話してたところだ」


 シュバルがセシルに相談するつもりだったようだ。


「魔大陸が見えてきたな。いよいよだ。着いたらドローンで降りるんだろ?」

「さすがにいきなりは無謀だ。マークス」

「でも魔大陸だぜ、早くこの目でつぶさに見たいじゃないか。あんたもだろう? シュバルさん」

「それはそうだが、魔人の大陸だ。アラデの話では都を治める大魔王もいるそうだしな。ここは慎重に行動すべきだ。幸いこの空飛ぶ船はとてつもなく頑丈だしな」


 四天龍の攻撃にもびくともしなかったプリンセス・アレー号である。既にセンサーでマッピング出来ることを知っているシュバルは、安全な空から走査して大陸の詳細な地図を作成、その後に調査ポイントを絞って上陸すべきだと主張した。


「この時間からの詳細マッピングだと夜になるのは避けられないわ。解像度は落ちるけど、センサーの範囲を広げて全体地図を作ったらどう?」

「確かに魔大陸の広域マップは必要だな。なにせ前人未到の地だ。天然城壁の内側がどうなっているのか、ざっと俯瞰したい。魔都ガデューラがどのあたりにあるのかも確認しないと。大魔王ヴュオルズには関わりたくないからな」


 といいながらシュバルはセシルを見た。エルフ姫なら大魔王でも何とかするかもしれんが……。

 いや、不要な争いは避けるべきだ。

 ここにはハルド王国の姫君もいらっしゃるのだから。

 セシルが大魔王に勝ったら今度は何が手に入るのだろうかと少し考えたが、それは表情には出さなかった。


「なら、このまま魔大陸を東西南北に何回か飛んでマッピングするわね。それなら暗くなるまでに終えられると思うわ。魔大陸の大きさにもよるけど」

「じゃあ上陸はその後か!」


 マークスがやる気満々だ。


「いや、夜間に上陸するのは危険だ。大魔王の配下の高位魔族がうようよいるのだろ? 魔族の闇の力は夜強化されるしな」

「ここまで来て一晩待つのかよ」

「わたしも早く降りたいけど、アレー王女もいるしね。マッピングは夜中だろうが自動で出来るから、最初から詳細マッピングを一晩かけてやった方がいいかも」

「リスクが少ないほうが良いだろう。最終判断は依頼主のアレー王女に決めていただかなくてはならないが、上陸は明日に持ち越すべきだと思う」

「わかった。王女様が出て来たら聞いてみましょう」


 アラデが消えた同じ場所に文字列が浮かび、キラキラとしたエフェクトと共にアラデが再出現した。


「戻りましたー」

「早かったわね」

「魔法で縫製しますから、服も布もすぐ出来るっす。皮はそのままですし。はい、これ」


 アラデがやや青みが勝った反物をシュバルに渡す。


「これが龍布か!」

「思いのほか細番手だ。手触りがいいな。魔力を感じる」

「僕にもよく見せてくれ」

「こっちも」


 テーブルに布を広げシュバル、マークス、アントロ、コレクトがワイガヤを始めた。

 ハンター組のテーブルからオークのチョーキーもやってきた。既に食事を終えていたようだ。


「魔力を帯びた布、おいらにも見せてほしいキー」

「チョーキーさん、魔法使いだったわね。そういえば」

「それはいい。ちょっと布の魔力を見てくれ」

「布を見せてくれるならお安い御用っキー。ほいっとキー」


 チョーキーが呪文を唱えながら杖を振ると魔法陣が飛び出した。それがふわりと龍布にかぶさる。

 次の瞬間、魔法陣から七色の光が飛び出した。まるで縦に真っすぐの虹だ。そしてかなり強力な光なのだが不思議に眩しくない。魔法だからだろう。


「全属性反射効果があるようだキー」

「内包する魔力量も相当だな。これは調べがいがあるな。詳しくはギルドに戻ってからになるが」


 シュバルが満足そうにつぶやく。


「格納庫に抜け殻を置いてあるんすけど、確認します?」

「おう、するする!」

「布もそっちに持って行こう!」

「えっと、わたしの服は?」

「ご依頼人がいないようなので、お二人揃ってからのお楽しみでいかがです?」

「あ、そうか。じゃ、わたしも格納庫へ行こうかな」

「姉さんが行くのなら俺らも行くダガ」


 結局全員でぞろぞろと格納庫に向かった。セシルもアラデも瞬間移動はしない。お付き合いは大事。


 アラディマンダーの抜け殻は格納庫の半分ほどを占めていた。何重にも折りたたまれているので高さも2メートル程度ある。


「あれ? 鱗が表?」

「へ? セシル様そんなところを気にするっすか?」

「いや、蛇の抜け殻は裏がえしなのよ。めくるように脱皮するから」

「ああ、あたしら天龍は瞬間移動で脱皮するんで、そのままの形です」

「ということはこの皮はどこも破れていないということだな!」

「チョーキー君、また魔力を測ってもらえるか?」

「了解キー」


 シュバルに頼まれたチョーキーがまた測定の魔法陣を当てると、今度は黒い光が出た。若干意味が分からないが、魔法だから仕方がない。


「龍皮は闇の魔力を帯びているのか」

「今一瞬、背中がぞくっとしたゴズ……」

「皮だけでもこの威圧。よくこんな魔物と生身で……」


 シュバルがセシルを見た。そしてその横のアラデに視線を移す。


「とんでもない二人だな」

「そりゃ今更だ、シュバルさん。それより、龍皮の利用法ってなんだ」

「呪符と同じように武器や防具に貼り強度や魔力効果を底上げするのが一般的だが、これだけの量があるなら鎧一式全部に内張り加工してもいいし、鱗を重ね張りして盾にしてもいいだろう。詳しくはこれもギルドに戻ってからだな」

「了解だ」

「あのー、確認終わったんなら、お代を……」


 アラデが手を出す。


「そうだな、部屋に置いてあるから取ってくるよ」


 各人の部屋には貴重品を入れる金庫を作ってある。


「シュバルさん、俺流石に今それだけの現金の持ち合わせがないんですけど、貸しといてもらえます?」

「いつものことだな、マークス。1日1分だ」

「そりゃ高い!」

「冗談だ。金利は負けといてやるよ」

「恩に着ます!」


 マークスがシュバルを拝む。


 確認できたので下部展望室に移動。その後部屋から戻ったシュバルがバッハアーガルム金貨20枚をアラデに渡す。アラデは大喜びでスキップした。

 ちょっときまり悪そうにシュバルとマークスが顔をそむける。コレクトとアントロの視線が痛い。


「これが魔大陸か」


 ガリウズの声がした。先導するガリウズに続いてアレー王女がエレベーターから姿を現す。

 既にプリンセス・アレー号は魔大陸の外壁部分を越えていた。壁の内側の、運河のようにも見える内海はもとより、深い森林地帯とその向こうに険しい山も見えた。夕日に照らされて橙から紫色にグラデーションが掛かっている。


「着きましたね」


 話題転換とばかり、シュバルが先ほどの地図作成予定を述べ、着陸は明日になってからでどうかと進言すると、アレー王女も同意した。


「夜に殿方を訪れるのは姉上たちだけで結構です」


 というのが理由だったが。

 アレー王女の脳内では悦郎が魔大陸にいるのは確定事項らしい。

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