6、出発
1週間たち、トモエの擬態薬がグレードアップしたところで、ラムタイ王国に向かうレオン、レイモンド、アトモスは支度をして、国民と今回任務に入っていない幹部が見送りに来た。
「王様、今度は俺を連れてってくれよ」
「私もいつでも準備オーケーよ」
と、ジャックとウルティア。国民たちも笑顔で手を振ってくる。城下町がいつも以上に活気に満ちていった。
(今から潜入の任務なのに、こんなに堂々とやっていいのか?)
「レオン様、私から渡したいものがあります。」
トモエがニコニコしながら、3つの機械を渡してきた。
「なんだこの機械?」
機械は、暗い青のような色をしており、大きさは手のひらサイズであった。
「ふふふ、これは世紀の大天才であるトモエちゃん自信作、この機械を持ってさえいれば、たとえ火の中水の中どこだろうと通信ができる、名付けてどこでもトランシーバーEX‼︎」
「・・・」
「まぁ、皆さんが唖然するのも無理ありません。こんな優れた機械を作れるものは世界でも私ぐらいですからね」
まるで背景まで影響させるほどのドヤ顔。
良い歳をした大人がこれほどのドヤ顔を披露してくれるとは夢にも思わなかった。
確かに、これほど優れた機械をたったの一週間で開発したトモエのその才能は、世紀の大天才と称しても申し分ないものだ。ただし、ネーミングセンスの才能は持っていないようだ。
3人は、 とりあえずトモエの作ったどこでもトランシーバーEXを腰に掛け、作戦に参加していない幹部と騒がしい民に見送られながらラムタイ王国に向けて足を進めた。
♢ ♦ ♢
幹部たちと民に見送られ森に入っていったレオン一行は、道に迷っていた。
迷わないために、ラムタイ王国の場所を知っているものに、案内してもらおうと思いアトモスを連れてきたのだが、俺の作戦は失敗だ。
(こんなことならアトモスじゃなくて、トモエを連れてくればよかった)
どこでもトランシーバーEXは、時間の関係で3つしか作れていないらしいので、クレセント国内にいるトモエに道を聞くということができない。
ここまで来て後悔しても時間の無駄なので、さっさと切り替えて次のプランだ。
「よし、レイモンドどうする?」
こんな時こそ、レイモンドの頭脳の使いどころだ。俺が作戦を考えるよりも確実に優れているので、当然の采配である。
「そうですね・・・」
レイモンドが次のプランを口にしようとしたとき、
「きゃあぁーーーーーーー!!」
森中に女性の悲鳴声が鳴り響いた。レオンたちは悲鳴に近づいてゆくと、国の兵士が着ているような鎧を着た少女が、10匹の魔獣に囲まれていた。
魔獣の名はグランドウルフ。この森ではあまり珍しくのない獣であり、国に常備してある訓練された人間であれば、1匹と互角以上に渡り合える。
しかし、襲われているのは兵士としてまだまだ未熟である少女で、数も多いのでレオンたちが見捨てれば、少女は確実に死ぬだろう。
「どうされますか、レオン様」
レイモンドが聞いてくる。
「この森は、ラムタイ王国付近の森だ。そう考えると彼女は、ラムタイ王国の人間だろう。であれば彼女に恩を売って、ラムタイ王国の場所や情報を教えてもらうのが手っ取り早い」
「「はーい(畏まりました)」」
2人はレオンの意見に了解を示すと、グランドウルフに近づき、攻撃する。
ーさあ、殲滅開始だ。