3、ラムタイ王国
「じゃあ、みんなも休憩していいよ」
アトモスが砦を作っていた亜人に声をかけると、レオンたちに近づいてきた。
「アトモス、元気そうで何よりだ」
「当たり前だよ、レオ。この国の活気を見たらどんな陰湿な野郎も笑顔で肩を組み、騒ぎ出すだろうね~」
確かにアトモスの言うとおりだ。
祭りでもないのに城下町は常にどんちゃん騒ぎ。歩くもの達が、ステップを通り越して踊りそうなほどの賑わいである。
昼間に家にいないのか、はたまた国土が小さいからなのか分からないが、たった1000という少ない国民の数なのに、道が常に混雑しているほどだ。
レイモンドもどうやって道の混みを解消しようか頭を悩ませている。
「そうだな、こんな国に発展するとは思わなかった」
正直レオンも最初のころはみんな狂ってしまったと思ったくらいだ。だが、今では逆に声の響かない真夜中のほうが大丈夫かと心配になる。
「いや、最初からこんな国を作ろうとしたやつがいれば、そいつは夢見がちな馬鹿か気の狂ったような馬鹿だね~」
「ひどい言われようだな」
アトモスは、首を横に振りながらやれやれといったポーズをすると、
「違う違う褒めてんだよ」
と、からかたような口調で言った。
♢ ♦ ♢
ここは、クレセント鬼国から最も近くにある国であるラムタイ王国。人間の治める国である。
そこに住む少女カマラは、国の兵として働いていた。ラムタイ王国は、法で15歳の男女ともに兵として2年間国に仕えることが決められていた。
だが、ラムタイ王国は辺鄙な場所に位置しているので、他国が攻めてくるというのはめったにない。
一応16小国の1つだが、昔からあるというだけで入れられた、いわば数合わせ状態。16小国の中では、唯一5大国から監視の目がこない、放置のような扱いだ。
王は何とか16小国としての威厳を見せたいと躍起になっているが、国民は戦争の少ない弱い立場を良しとしている。
そんな大陸の中でも比較的平和である国に住んでいるカマラは、いつものように近くの森に来ていた。平和であるが、別に安全ということではない。
近くには魔獣も住んでいるし、3年前山賊に襲われることもあった。そこで、国の兵は近隣の森をグループに分けて警備している。
しかし、今回カマラは警備とは違う名目で森にやってきた。
それは、森の山菜を取りに来たのだ。
普通は、森などの危険な場所には男が行くのだが、カマラは妹のカエラと母の3人で暮らしている。
父は3年前の山賊の襲来で死んでしまったので、自然的に今兵として働いているカマラが取りに行くことになった。
(魔獣に見つかる前に早く山菜を取って帰らなきゃ)
カマラは周りに気を付けながら山菜を回収してゆく・・・
かごいっぱいに集めた頃、近くで何者かがしゃべる声が聞こえた。
(誰だろう?もしかくて山賊?)
だとすれば早く国に戻りこのことを知らせなければならない。そこで、歩いてくる3人の会話を草陰にひそみ話をきくことにした。
「おい、アトモス。ほんとにこの道で合っているのか?」
「おっかし~な、このへんのはずなんだけど~」
「はぁ、レイモンド。ラムタイ王国までわかるか?」
「申し訳ありません。ラムタイ王国にはいったことがないので」
「じゃあ、これからどうするんだよ!」
2人は大きなため息をつき、1人はにこにこ笑っていた。
よかった、山賊というより彼らは旅人だろう。
この付近にいる山賊は、当然ラムタイ王国の場所を知っている。
カマラは安堵する。 3年前のような戦争が起こるのを防げたと。だが、彼女は3人の男たちに意識を向けすぎていた。
だからこそ、カマラは、近くまで魔獣が接近していることに気づかなかった。