2、クレセント鬼国
レオンはベッドから飛び起きて、いつも愛用している服を着ているのを見たレイモンドが訪ねてきた。
「今からお出かけするのですか?」
「あぁ、俺の国の民たちの様子を見に行こうと思ってな」
「では、お供します」
レオンは首を縦に振ると、レイモンドと共に大きな部屋から出て行った。
♢ ♦ ♢
大陸の最西端に位置するレオンの治める国の名はクレセント鬼国。数にして1000人ほどが住む小さな国である。だが、ほかの国との大きな違いは、住民の種族がばらばらであることだ。
普通は、国の中には基本的に一つの種族が―――例外として奴隷としては違う種族も―――住んでいる。つまり、レオンの治めているクレセント鬼国は異例中の異例である。
そもそも、何故複数の種族が住んでいるのか。
―――それは、レオンたちに原因があった。
レオンがまだ国も持たず、8人の仲間たちと、いつも通り殺し合い―――のように激しい模擬戦―――を行っていたところ、近くで魔獣に襲われているもの達がいた。仲間たちは、赤の他人が死のうがどうでもよかったのだが、戦いの邪魔をされたことに怒りを覚え、魔獣たちを殲滅した。
するとどうだろう。人間は、窮地を助けたことで尊敬の―――、魔物たちは、自分より強かった魔獣を倒した強さにあこがれの―――、亜人たちは、今まで虐げられていた生活から脱却できるかもしれないという期待の―――、まなざしをレオンたちに向ける。
嫌な顔をする仲間たちをいさめ、近くにあった国の跡地を再興し、出来上がったのがクレセント鬼国である。
似たような境遇であったからこそ、互いのことを認め合い、人間と亜人と魔獣が手を取り合う、ありえないような国ができた。
♢ ♦ ♢
レオンたちが城下町を歩いていくと、民からの歓声が響く。彼らは、レオンたちに助けてもらった恩をどうにかして返そうと、国を活気づけていた。
「俺の国の民たちはみんな元気がいいな。できたばっかりで住民の数や歩道の整備もまだ完全ではない国とは思えんな」
「そうですね。街には活気もありますし、種族が違うのにもかかわらず互いの得意なことを尊重し合い国の発展に生かしています。これほど素晴らしい国を私は知りません。これもレオン様の偉業ですね」
「いや、俺は何もしていない。ここまでやったのは民たちの力だ。だからこそ俺は王として民の安全を守らなければな」
「そうですね、レオン様」
色々なものでにぎわっている城下町を2人が歩いていると、建設中である砦に着いた。
「はいはいみんな頑張って~、完成したらいっぱい王様に褒めてもらえるよ~」
と、飄々とした声が砦のほうから聞こえてきた。声の主はアトモス・ボアーという男だ。
クレセント鬼国の王を除く最高戦力である王直属執行部隊のリーダー格である8人のうちの1人である。序列は4位。彼は、弓などの飛び道具を得意とするアーチャーだ。
この星すべてが狙撃範囲だと豪語する男であり、確かにアトモスが狙いを外したところを、レオンは見たことがなかった。マイペースで人が嫌がることが大好きな、はた迷惑な性格をしている。
今は序列7位であるトモエ・クレーナーが作り出した、人間に擬態する薬を飲んでいるため人間のような見た目である。
「アトモス砦の出来具合はどうだ?」
「やぁ、レオ。見ての通り、まだまだだ」
アトモスは城下街のほうから歩いてきたレオンたちを見て微笑みながら言った。