間違って生まれてきた僕 (4)
先生、何度も言いましたように僕はわざわざ学校に行って「勉強」
させられたくありません。そもそも学びたいという欲求はそれぞれの
知的好奇心から生まれるのですから、少なくとも知的関心のない体育
や道徳の授業は受けたくありませんし、その他の授業も様々な活動も
退屈でしかたありません。ただ、もしも間違って生き延びるようなこ
とにでもなれば、修業資格は資格試験を受けるつもりでいます。先生
はえらく学校のことで悩まれておられるようですが、前にも言いまし
たがIT化が進めばやがて学校なんて「オワコン」になってしまうの
で、まあ、能力のない者は卒業証書をもらうために登校するしかない
かもしれませんが、詰らないことであまり悩まない方がいいと思いま
す。そして先生がメールで述べられたこと、三島イズムも天皇も民主
主義さえも「間違って生まれてきた僕」にとってはどうだっていいこ
とです。まったく関心がありません。もしも憲法改正されて国軍が創
設されれば志願すれば武器が手に入って苦しまずに死ねる方法が一つ
増えるくらいにしか考えていません。ところで、僕はまたしても詰ら
ない水を向けたせいで先生は三島由紀夫について述べられましたが、
先生が言うように三島由紀夫は戦時下の異常な社会環境と特殊な家庭
環境から受けた幼少期の洗礼から終生逃れることができなかったのか
もしれません。彼の処女作なのかどうかしりませんが初期の「花ざか
りの森」という小説を読むと、重厚な文章でとても十代の若い青年が
書いたものとは思えません。僕が言うのも変ですが、時代の影響なの
か死に遮られたようにまったく未来というものが描かれていなくてそ
の暗さはまさに太宰治とよく似ています。多くの者が死んでいく中で
死を覚悟した者が、戦うことなく生き延びた無念を忘れて戦後の繁栄
に浮かれることができなかった。つまり、三島由紀夫は遂に歴史と伝
統が咲き乱れた「花ざかりの森」から抜け出すことができなかったの
だと思います。彼の代表作である「金閣寺」に、跛の男性が異性の
同情を逆手にとって関係を迫る場面が描かれていますが、それは、あ
まりにも歪んだ推論による偏った心理描写だと思います。たぶん、彼
は文学的空想の中でしか生きられなかったのです。片輪者はどれほど
思い上がってもそんなに傲慢にはなれないのです。跛の僕はそのデタ
ラメさに堪えられなかった。