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間違って生まれてきた君へ  作者: ケケロ脱走兵
5/8

間違って生まれてきた君へ  (三)

 返事が遅れてすみません。君が教えてくれた番組の動画「日本は

どうして戦争へと向かったのか」をさっそく観ました。確かに放送

を観た覚えはありましたがどうも忘れてしまったようです。

 さて、かつて誰もが理性ではアメリカと戦争すれば絶対に負ける

ものと知りながら、やむにやまれぬナントカ魂によってなし崩しに

戦争やむなしへと向かったわけですが、日本側の選択肢は、まず(a)

アメリカの通告「支那及び仏印よりの全面撤兵」を呑む、か(b)通告

を拒否する、のどちらかで、(b)を選択すればアメリカの経済制裁は

まず避けられず、(b-1)アメリカとの戦争へと向かわざるを得なかっ

た、がその選択には(b-2)戦争に勝つ、という可能性はなかった。そ

の結果、(b-3)敗戦、によって(a)はもちろんのことすべての選択肢

を失った。つまり、(b-3)が予測されていたのであれば(b)の選択は

結果的には最悪の、(a-2)すべての占領地を失い国土を占領される、

を選択したことになり、国益の損失を最小限に食い止めるには(a)を

選択するほかなかった。しかし、戦費の増大によって国内経済は疲弊

し権力闘争に明け暮れる首脳たちは「神風に煽られたナントカ魂」に

呪縛されて大局を見失い理性的な判断をする余裕などなかった。そし

て、君が言ったように、まさにいま原発を再稼働させようとしている

政治家たちも経済最優先の呪いに縛られて「まったく同じ理屈で同じ

誤りを犯そうとしている」のかもしれません。

 実際、大震災による原発事故に見舞われた我々は、(a)原発を廃止

する、(b)原発を再稼働させる、のどちらかで意見を二分しています

が、(a)は狭い国土のしかも地震大国での稼働には安全性が疑わしい。

一方(b)は経済性に優れ、温室効果ガスを排出しないので環境破壊し

ない。但し、それらは核廃棄物の処理コストやひとたび事故が起こっ

た時の膨大な賠償と放射能による環境汚染は考慮されていません。し

かし現政権は新たな安全基準の下で躊躇うことなく(b)を選択しました

。ただ、対米戦争の時と違って絶対に事故が起こるとまでは断言でき

ませんが、そこで、(b-2)絶対に事故を起こさないこと、を条件で再稼

働されようとしています。ところが、絶対安全を謳っていた原発行政

の下で発生した福島原発の事故では、電力会社は頻りに「想定外の事

態」と弁明しました。しかし「絶対安全」の下で「想定外の事態」な

ど起こり得ないはずです。実際、地震予知連によって巨大地震は起こ

ると予測されていましたし、それに伴う大津波も過去の事例から「想

定外の事態」ではなかったはずです。そして、そもそも事故とは想定

外の事態によって起こるものです。つまり、彼らが謳う「絶対安全」

とは「想定内での絶対安全」でしかないのです。こうして「想定外の

事態」を安全対象から外すなら(b-2)は成り立たなくなり、絶対安全は

断言できない。つまり、(b)を選択しても(b-2)は断定されず、(b-3

)再び原発事故が起こる、可能性が残ります。そして再び「想定外の事

態」が起これば間違いなく日本は国際社会から敬遠され、(a-2)すべて

の可能性を失い術なく脱原発とそして国家滅亡しか残されていません。

しかし、それは(a)とは正反対の結果です。(a)を選択すればいずれ(b)

への可能性は残りますが、(a-2)はもはや如何なる選択も残されていま

せん。こと原発に関しては一度の大事故が生存環境の消滅すらもたらし

ます。我々は(a-2)だけは絶対に避けるためには(a)を選択するほかない

のです。再稼働やむなしと言う人々は脱原発の人々が一に求めている安

全性に対しては正面から応じようとはせず、お題目のように唱えられて

きた安全神話はすでに崩壊してしまっているので、経済的側面から反論

するばかりで議論がまったくかみ合いません。こうして大局的な見地か

らの議論はされずに国民の合意なしに再稼働されようとしています。そ

して、このような論点をすり替えた反論、大局的な視点に対しては局面

を、或はその逆を用いて反論するのはまさにこの国の官僚や政治家たち

が批判をかわすために常套的に用いる詭弁なのです。かつてこの国の指

導者たちは大局を見失い「犠牲者に背を向けて」占領地から撤退するこ

と能わず国土を焼失させてしまったが、再び我々は「未来の人々に背を

向けて」、今さえ良ければいい経済最優先から撤退できずに、今度は放

射能汚染という「想定された事態」によって国土を消失させようとして

いる。それでは、敗戦によって満蒙からの撤退を余儀なくされて生命線

を失ったわが国はその後果たして没落しただろうか?ただ、当然のこと

ですが、生存するための安全な未来は豊かな現実よりも優先されなけれ

ばなりません。つまり、実存は豊かさに先行するのです。

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