間違って生まれてきた僕 (2)
先生、僕はIT化が進んだ社会ではみんなが一緒に机を並べて勉
強するという学校のシステムそのものが時代遅れではないかと思っ
ています。そもそも勉学とは独学こそが本来ではないでしょうか。
いくら教えられても関心のないものは頭に入らないと思います。も
しも社会に出て知識不足を自覚すれば学習する機会はいくらだって
あります。それに、教育の現場で起こっている忌々しき問題はすべ
て教育以外の事柄を無理やり教え込むことから派生しています。つ
まり、学校でバットの振り方や道徳なんか教えるなと言いたい。そ
んなことをするから間違ったバットの使い方をする生徒が現れるん
だ。
先生は、僕が政治に興味があると思われているようですが、実際
の政治に対してはまったく関心がありません。ただ学校じゃあ現代
社会にとって一番大事な近代史を詳しく教えないんだから自分で学
習するしかないでしょ。そして過去の政治を学んでいると今の政治
もまったく同じ理屈で同じ誤りを犯そうとしていることに気付かざ
るを得ません。先日、たまたま動画サイトを観ていて、NHK特集
で以前に放送された「日本人は何故戦争へと向かったのか」(4回
シリーズ)という番組の動画を見つけました。放送は東日本大震災
前の2011年の1月9日から震災4日前の3月6日までと放送直
後に東日本大震災が起こって悲惨な記憶が上書きされてしまったの
で多くの視聴者も忘れてしまったかもしれませんが、放送中には当
時は民主党政権だったことを窺わせる前原外務大臣が在日韓国人か
ら献金を受けた問題で辞任したというニューステロップが流れたり
して、きっと今の安倍政権下のNHK官製放送では到底制作されな
いだろうと思えるほど当時の最高首脳部への批判に終始しています
。その中で、ほとんどの首脳たちが対米戦争は避けなければならな
いと考えながら、しかし中国からの完全撤兵を求めるアメリカの条
件は受け入れられないと悩みます。ある首脳は「あれだけ人を殺し
て金も使い、ただ手ぶらで帰って来いと言うことはできない」と、
国家予算の7割余りを軍事費に費やし20万人もの戦死者をもたら
した戦争から手を引くわけにはいかないと語っています。歴史学者
ジョン・ダワ―は「人が死ねば死ぬほど兵は引けなくなります。リ
ーダーは決して死者を見捨てることが許されないからです。この『
死者への負債』はあらゆる時代に起きていることです。犠牲者に背
を向けて『我々は間違えた』とは言えないのです」と説明してます
。こうして如何に理性的な判断を行なっても感情的な動機によって
あっさり覆されてしまいます。その結果、中国どころかすべての占
領地を失い、さらに国家さえも占領されてしまいました。そして、
なによりもそれはまさにあらゆる時代に起りうることなのです。た
とえば原発の問題にしても、推進派の人々は原発を廃止すれば設備
は不良債権化して膨大な経済的損失をもたらすと訴えますが、まさ
にそれは中国からの撤退と同じことで、過去の「投資」に背を向け
て「我々は間違えた」と言えないからで、とても理性的な理由によ
るものとは思えません。つまり、我々は大義名分のためなら真実さ
えも歪めてしまいます。しかし理性的な、或いは科学的な判断は感
情的な執着からも過去のしがらみからも、そして大義や名分からも
不羈でなければなりません。理性的判断を感情や欲望が歪めてはな
らないと思います。 なお、動画「日本人は何故戦争へと向かった
のか」(第1回放送分)のアドレスを以下に記します。
http://www.dailymotion.com/video/x1x0ms8_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%B8%E3%81%A8%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B-%E7%AC%AC1%E5%9B%9E-%E5%A4%96%E4%BA%A4%E6%95%97%E6%88%A6-%E5%AD%A4%E7%AB%8B%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%81%93_news