プロローグ2
患者の数もまばらになってくる頃には、外はすっかり薄暗くなっていた。医療事務として勤務している長谷川は、50代の主婦である。受付やレセプト入力の傍ら、手際良く閉店作業を進めてくれていた。
「いつも、閉店作業までやっていただいてありがとうございます」
「いいんですよ。そのかわりきっちり定時に帰らせてもらいますけどね。滝島さんこそ毎日残業お疲れ様です」
長谷川は、冗談ぽく言葉を返してくれたが、その手は全く止まらなかった。
「それじゃ、お先失礼しますね」
「お疲れ様でした」
長谷川は宣言通り、定時の勤務時間である18時に店舗を後にした。滝島は店舗に残り、今日一日で投薬した患者の薬歴を記載し始めた。一つ一つの薬歴の量は大したことは無いのだが、一日中投薬した患者の全員分の薬歴の量となると、中々辛い量となった。
滝島が薬歴記載に本腰を入れて取り掛かろうとしたとき、薬局の駐車場に車が止まるのが見えた。既に閉店時間は過ぎており、患者が来る時間ではないはずなのだが。
薬局内にのインターホンが鳴り響く。無視して仕事を進めたかったが、もし相手が患者だったらと思うと、とても無視していられなかった。仕方なく、薬局入口近くのインターホンに向かった。
「どちら様でしょうか? もう営業時間は過ぎておりますが」
「やっほーお疲れ。鍵あけてくれる?」
そこにいたのは、幼なじみである梁瀬咲良だった。梁瀬とは小中学校を共にし、高校では別の学校に通ったが、大学では再度同じ学校に進学していた。
「お前か。製薬会社の営業が顧客にやっほーはまずいんじゃないか?」
滝島は、苦笑いしながら仕方なく鍵を開けてやった。
「そんな固いこと言わないでよ。会社に勤める前からの知り合いじゃないの。はいこれ。新薬のパンフレット」
梁瀬はそう言い、遠慮も無しに薬局内に入ってくると、手に持っていた資料を手渡してきた。
「どうも。要件はこれだけか?」
「今日の仕事はここでおわりだから、徹の顔見に来たんだよ。コーヒーかなんかある?」
「来院した患者用にウォーターサーバーがある。そこから飲みな」
「ちぇっ。水かよー。まあいいや」
柳瀬は文句を言いながらも、迷わずウォーターサーバーへ向かった。
「もうさ、仕事辞めたいんだよね」
「なんだよいきなり」
「折角薬学部を卒業したのにさ、今やってる事はノルマ達成だけが目的の営業だなんて。本当はもっと、沢山の人を救うために仕事が出来ると思ってたんだよね。私も薬局に転職しようかなー」
「薬局も似たようなもんだ。結局は医者の下請けみたいな感じだよ。明らかにおかしい処方でも、医者に確認してからでないと直せない。患者からは薬を渡すだけの施設だと思われてるし」
「どこもそうなもんなのかなー」
梁瀬はそう言って肩を落とした。
話は一段落し、滝島はふと薬局の入口に人の気配を感じた。
そこには、黒いローブを着た人間がドアにもたれかかっていた。