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薬剤師は魔法界を救えるのか  作者: 四季U助
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プロローグ

地方都市であるY市にある住宅街の中に、柄澤内科医院は位置していた。院長である柄澤文蔵医師は76歳にもなるのだが、地域医療を支えているという自負があるのか、閉院するつもりは当面の所はないらしい。


隣の敷地には、カイセイ薬局が店舗を構えていた。店舗の入口には「全国どの医療機関からの処方箋も応需します」と、ポスターが掲示されているものの、現状は、門前の柄澤医院からの処方箋が90%以上を占めていた。


柄澤内科医院から流れてくる患者を、カイセイ薬局に勤める薬剤師である滝島は、次々とさばいていた。柄澤内科医院に通院している患者は、新患の患者は少なかった。ほとんどが高齢の患者であり、高血圧や糖尿病といった慢性疾患を、長い付き合いである柄澤文蔵医師に診てもらっている、といった具合だった。故に処方内容は毎回同じ内容である事がほとんどであった。


「まったく……本当に毎回ちゃんと診察してるのかね。」


滝島は変わらぬ処方を見る度にそのような思いが募っていった。



そんな中、常連の70代の女性が来院し、処方箋を受け取ると、新たな処方が追加されているのに気がついた。


Rp.ボグリボースOD錠0.2mg 3錠 毎食後


ボグリボースは、αグルコシダーゼ阻害薬と呼ばれる糖尿病治療薬であり、腸でのグルコースの吸収を阻害し、食後過血糖を改善する薬効を持つ。従って、食後に服用してしまっては、既にグルコースは吸収されてしまっているため、この毎食後という用法は間違いである。毎食直前に服用するのが正しい用法となる。


滝島は柄澤医院に疑義照会をかける事にした。


「いつもお世話になっております。カイセイ薬局の滝島と申します。本日処方になった薬について疑義照会したいことがあるのですがよろしいですか?」


「あーはいはい、カイセイさんね。ちょっと待っててね。」


電話に出たのは、柄澤医院に勤めるベテラン看護師だった。


「せんせー、カイセイさんから電話ですけど。」

「また問合せ?はいはい電話変わるよ。カイセイさん、要件は?」


電話越しに聞こえてきた会話からは、面倒臭いという感情がヒシヒシと感じられた。


「先程の患者様の処方の件ですが、ボグリボースの用法は本来食直前となっています。変更してよろしいですか?」


「いいよいいよ、勝手にやっといて。それじゃ。」



滝島は、無愛想な対応をする柄澤医院スタッフに苛立ちを覚えながらも、何とか表に出さずに済んだ。これで無事、処方内容が訂正された。


それにしても嫌になる。薬剤師には処方権は無いので、この程度の変更ですら医師にお伺いを立てなければならない。


ドラマや漫画では、医師は万能超人として描かれることが多いが、実際はこのような凡ミスが多々ある。それを発見し、患者に不利益を被らせないのが薬剤師の仕事だ。


それなのに、医師には適当にあしらわれ、患者からは調剤が遅いと文句を言われるのである。



薬剤師という仕事は嫌いではないが、このような対応ばかりされていると、流石にやる気も削がれてしまう。



これが、薬剤師という職能の限界であり、仕方の無いことなのだろうと諦めるしかないのか……滝島は、肩を落とした。



やり切れない思いを抱きながらも、途切れなく来る患者の対応を続けていた。



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