001 プロローグ
我が魔王となり、魔城に迎えた勇者の数もこれで100人目。
今回ばかりは楽しませてもらいたい。
初めての勇者との戦闘。あの頃は我も若かった。
伝説の剣を手に飛びかかる勇者。後衛から強力な魔法で援護する賢者。
まずは勇者を蹴散らすべく、我は炎魔法を繰り出す。
しかし、魔法使いが我の闇魔法をかき消す。
勇者の斬撃と賢者の魔法を間一髪で切り抜け、渾身の一撃を勇者に喰らわす。
あの頃は生き生きとしていた。
初めての勇者との戦闘は、激闘の末、我の放った雷魔法で幕を閉じた。
今思い出すだけでもゾクゾクする。
だが、勇者を迎え撃つ度に我の力は膨れ上がり、5人目の勇者を倒す頃に、我に敵はなかった。
我は戦闘を繰り返した。
いや、戦闘と呼べただろうか。
我の放つ一撃はあまりにも強大すぎた。
我に刃向かう者はいなくなった。
約10年に一度勇者が我が魔城に攻めてくるが、我の元にたどり着ける勇者は5人に1人程度。
我にこの世界で手に入らぬものはない。
手にあまりきった配下。豪勢な食事。広大な土地。
この世界全てが我のもの。我の望むものはすべて手に入る。
しかし、ひとつだけ手に入らぬものがあった。
それは満たされぬ心。
100人目の勇者よ。
我を存分に楽しませるのだ。
「こ、こいつが魔王かっ!オーラだけで気が飛びそうだぜ。」
『ほぅ。汝が今回の勇者であるか。なにやらいつもの勇者とは雰囲気が違うではないか。』
「こちらは異世界より召喚されし勇者様である!お前に勝ち目はない!」
なるほど。我が99人もの勇者を相手にしている1000年の間に、人間の世界では異世界召喚ができるまで発展していたとは。
今回は少し楽しめそうではないか。
「もたもたしてられないぜ。早速使わせて貰う!【転送】!!」
『クッ!なんだこれは!意識が遠のく、、、!』
どこだ、ここは。
た、立ち上がることができぬ。。。
そうだ、我には勇者との戦闘が待っておる。
戦わねば!
いや、我は、負けたのか?
我の気が遠くなる前、勇者は【転送】などと唱えておったな。
ということはどこか遠くへ飛ばされたということか。
「出たな!モンスター!いけ!ピカまる!1万ボルト!」
ほぅ。我に恐れを為さず攻撃を仕掛けるとは。
なかなか骨のあるやつが残っているではないか。
どれ。1万ボルトとやらを受けてやろう。
バチバチバチーーーッッッ!!
ふっ、所詮はこの程度。静電気にも満たぬ衝撃。
我の雷魔法には到底及ばぬ。
どれ、少しばかり反撃してやろう。
『サンダーフラッシュ!!』
ドカーーーーーン!!
「もういい!戻れピカまる!モンスターボール!」
フンッ、このような球ごとき避けるまでもない。
コツン...パカッ
ほぅ。球の中に吸い込まれたではないか。
なかなか居心地はよい。
面白い魔法を使うようだな。
コロコロ..コロコロ...コロコロ...カチッ
「よし!モンスターゲット!ボールから出してあげる!名前はどうしようかな〜。じゃあメタきち!」
メタきち?モンスターゲット?
なにをほざいておるのだこの小童は。
「メタきちかわいいね!なでなで。はじめて自分でモンスターゲットしちゃった!」
メタきちとは我のことか?我がかわいい?
面白いことを言うではないか。
そしてなぜ我がこのような小童に持ち上げられておるのだ。
この小童は我をも凌駕する大きさだとでも言うのか?
笑止。我と対等な大きさの生物は大型のドラゴンや海底に住むシーシャークぐらいなもの。
「メタきちは弱そうだなぁ。ぷにぷにの小さいピンクのモンスター。僕にぴったりだな!これから一緒に強くなろうね!」
この小童。図に乗るのもそこまでだ。
我の魔法で粉々にしてやる。
『ファイヤーブレード!!』
「え!メタきち喋れるの!?ファイヤーブレードってなに?かわいいね!」
な、なに!?どういうことだ!
我の魔法が発動しないではないか!
この小童には魔法が発動されないということか?
どうなっておるのだ。
状況を整理しよう。
我は勇者との戦闘中、勇者の【転送】により意識を失った。
そして眼が覚めると小童と黄色の小さな魔獣が1匹ずつ。
小童の放った球攻撃によって、我は一時的に球に吸い込まれた。
次に出てきた時には我は小童に持ち上げられ、メタきちと呼ばれ、かわいいなどと言われる始末。
どうやら我は異世界へ転送され、かわいい魔獣へと変貌させられ、さらには小童の従魔となってしまったようだ。