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第一章

 

 第一章


 じっとりと汗ばむ8月半ばの熱帯夜だった。私は高校生のときからの友人たち、金田瑛太と元クラスメートの高見優樹菜そして古澤摩耶の計四人、なんとなく招集したら集まったこのメンツで。登戸駅を出て東京側の多摩川沿いを歩いて十分ほどの場所にある金田の兄が経営する居酒屋で、未成年で最後になるであろう飲酒を楽しんだ。

 私は来月の十七日で二十歳になるから、そうなれば『普通』に酒を飲めるし、堂々とタバコも吸えるようになる。それは許されたという自由なのか許してあげるという束縛なのか。どちらでもいいか。

 ひねくれ者の私は自由にも束縛にも反発するように大いに酔った。便器に二回吐瀉物をぶちまけるほどに。

 私はもう平衡感覚も痛覚も失った状態だったが頭は意外と冷静であったと思う。朝まで飲もうといった金田の意見を「いや~無理だわ明日一限から講義あっから。終電までには帰りたい」と断るぐらいの理性があったからだ。女性陣も私の意見に半ばグロッキー気味になりながらも賛成してくれたので、私達四人は特別割引された料金を割り勘で出し合い、会計を終えた。

 外に出て時間を確認すると午前零時五分。終電はまだある時間だった。

 

 酒豪の金田を先頭に、千鳥足の三人が後に続く形で駅に向かった。登戸駅までもうすぐ着く頃だった。

 「なあ花火したくね?コンビニでいくつか買って河川敷でやろうぜ」

 とつぜん金田は三羽の千鳥の方を向いてそういった。

 「絶対通報されんだろ」

 私がそう言うと古澤も私の意見に肯定するように。

 「瑛ちゃん陽キャ極めすぎじゃね?」

 と否定を込めたであろう返答を金田に投げると、続けて高見が。

 「線香花火ぐらいなら大丈夫でしょ。打ち上げ花火とかはやばいけど」

 と金田の肩を持った。

 「んなまったりしてたら終電逃すじゃん……。じゃあさ一発だけでかい打ち上げ花火買って打ち上げたら帰るのはどう?」

 「相原それ正解」

 金田はマルボロに火を着けてそう答えると、私達は駅へ向かうルートからそれる形で左へ進み、ここから最短にあるコンビニへ向かった。

 三分ほど歩きローソンへ着いた、私達は入店後すぐに打ち上げ花火を見つけると、少し遅れてきた金田(タバコの吸い殻をコンビニの外にある吸い殻入れに捨ててた為)に見せる。

 金田はこの花火は俺のおごりだと言ってレジへ持っていった。まあそうだろう、金田が花火をしたいなどと言わなければ今頃駅のホームに私達は居るはずなのだから。

 私もコカコーラと酔い覚ましのウコンのサプリメントを買った。レジに並んでいると古澤が「それって効くの?」と聞いてきたので「お前も飲むかと」と言って店から出ると、彼女に二錠渡してやった。

 まあ気休めであるが、私も二錠をコカコーラで流し込んだ。思いの外喉が渇いていたのか、コカコーラがとても美味しく感じて、勢いよく半分ほど飲んだ。すると酔いが少し覚めたのか若干の頭痛を感じた、私は古澤と高見に鎮痛剤はあるかと聞くと、高見がイブプロフェンの錠剤をカバンの中のポーチから取り出し私に渡してくれた。

 「なに相原男の子の日か~」

 と高見がふざけて聞いていた。

 「ああ重い日だ」

 というと高見に「コラ!」と胸をどつかれた。

 「よしじゃあ河川敷行くべ」

 金田が言うと私達は移動を開始した。私は内心この花火を楽しんでいたのか、はたまた酔が覚めたせいなのか妙に積極性をとりもどし金田の肩に腕をかけて「俺が花火に火つけていいか」と尋ねた。

 「なんだよお前なにげに楽しんでんじゃん」

 と金田に看破されて、ちょっと悔しくて。

 「いいだろ~。楽しまなきゃ」

 そう笑いながらいうと、右腕に体重を乗せた、金田が「あぶねあぶね」と言ってこちら側によろめいた。私は笑って彼の肩から腕をのけると、ふと夜空に満月が輝いているのを見た。

 「もうすぐ秋だな、ほら俺の誕生日だろ」

 「この花火がプレゼントってことで」

 と金田が言った。

 「相原は何かほしいものあるん?」

 そう高見に尋ねられた。一瞬考えた、自分が本当に何を欲しがっているかについて尋ねられると意外と言い淀むものだ。

 「そうだな、Ninja250ccがほしい。今CBR250Rに乗ってるんだけどやっぱ単気筒エンジンは駄目だわ」

 「へー、よくわかんないわ」

 「まあ女子にバイクの話をするといつもこんな反応だよな」

 金田がタバコを加えながら言う。私の左横から古澤が「だって興味ないんだもん」と金田に言った。

 そんなこんなで多摩川の土手へ上がる階段の下まで来た。階段を登り、土手の上から河川敷の叢を見渡すと。遠くの明かりと月光に照らせれて草浪の陰影をぼんやりとだがはっきり際立たせていた。私はどこか哀愁のようなものを感じた、記憶の奥底から感じるセンチメンタルの正体がなんなのか何故メランコリーな衝動に心が撫でられるのか。それは不思議だが悪くない情動だがそれがどこから来たものなのかわからなかった。

 「おい相原、なにぼーっとしてるんだよ」

 金田に言われて我に返った。

 「ああ、なんでもない。ちょっと眠くなっただけだ」

 他の三人は私より二三歩先の位置に居た。私はどうやら足を止めていたらしい。


 私達はちょうど刈られたばかりであろう短い芝生が生える、いい場所を見つけると。金田がそこにレジ袋から取り出し、導火線を伸ばした打ち上げ花火を置いた。

 「ほれライター」

 金田が吸い終わったタバコを足でもみ消しながらライターを私に渡した。それを受け取ると私は試しに一回だけライターを灯してみた、「カチリ」と音がして問題なく着いた。

 伸ばされた導火線にドキドキと高揚感を覚えて火を着けた。「シュー」っという音とともに導火線が火花を散らす。暗夜にそれはくっきりとオレンジの火の飛沫を地面スレスレではっきりと自己主張するようだった。私は急いでそこから五メートルほど離れた場所に走った。

 振り向いて花火の筒をみるとまだ導火線に火が着いたままだったが、それから一秒もすると火花は見えなくなった、そしてコンマ一秒の後花火の筒から乾いた「パァーン!」と爆音とともに火薬が炸裂して、花火玉を打ち上げた、私は上を向くとまた炸裂音がして美しい五彩の光が夏の夜空で煌めくのをみた。

 そのときである、「キャー!」という金切り声が聞こえ、その方を見るとガサガサと土手の上から誰かが下に転がるのを確認した。

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