友人と【四季堂】
「いやにごきげんじゃない?」
「もっと緊張してるかと思ってた」
金曜日。真里たちが美咲にいう。
だって今日はあのことを沖常に聞きに【四季堂】に行くのだから。
「いいことがあったから。……それを二人にも体験してもらうの楽しみなんだ〜」
「「ふぅん」」
教室内が(放課後に三人デート?)(美咲さんってば他の人を楽しませるほどの経験者!?)(おとなしそうに見えて……?)(お、お姉様?)などとザワザワしたのは事故であった。
みんな真面目っこ、新鮮な話題に餓えている。
(おきつねさんは物言いが上手だから。真里たちの質問も上手くかわして、きっとなんとかなる……よね?)
放課後、女子高生の三人組がつれそって【四季堂】に足を運んだ。
やるべきことをこなして、あとは休日を各々好きに満喫するだけだ。
真里は絵を描き、ほのかは河原で走りこみ、美咲は勉強をする。
──方向性は違うものの、趣味がライフワークになっている似た者同士である。
今週末に限っては、ほのかと真里がはじめての漫画喫茶体験をするらしい。そして美咲は神様たちの舞台に呼ばれている。
「あれ。こないだと道の雰囲気が違う……?」
ほのかが不思議そうにつぶやく。
細道沿いの明かりがぼんやりとかがやいて目を惹く。
よし、と美咲が頷いた。
「これも改装の一環なんだ。ここ、塀の間だったから薄暗かったでしょう? お客さんが入ってきやすいように明るくしたいって相談をしたの。私も手伝ったんだー」
「やるじゃん美咲」
「デザインとして適切だわ」
真里のお眼鏡にもかなったようだ。和風雑貨を取り扱う【四季堂】への誘導として、鬼灯の明かりというアイデアはよく合っている。
「お客には「期待」があるもの。その期待が回収されるか、裏切られるかによって、どのような"いいもの"であっても評価はガラリと変わる。
和風雑貨を評価してもらいたいなら、最初から和風雑貨を求めるお客を店に入れるべきだもの」
画廊で絵を売ることもある真里は、価値観の合わないお客に絵を貶されたこともあるそうだ。
恨み節のようなことを聞かされて、美咲は苦笑し、ほのかは「あの時の真里をなだめるの大変だったんだから〜」と語った。
(【四季堂】には誰でも入れてしまう。それこそが縁だって考えられているから。これからはお客様が増えるかもしれないし……もしあの空間が荒らされちゃったら嫌だから、真里が教えてくれたこと、覚えておこう)
美咲たちは鬼灯の細道をゆっくりと鑑賞しながら進む。
ほのかな明かりはローファーの表面を柔らかく照らした。
「「すごく変わってる!」」
真里たちが指差したのは、店の外観まるごとだ。
【四季堂】と看板が掲げられ、六月の花である紫陽花が植えられている。しっとりとした空気感は、商店街の騒々しさと比べたらまるで別世界といえる。
「あは、なぁにこのチラシ」
「……まあこれがあることによって、店に入りやすくなってるかもね」
木の扉なので中の様子が見えない【四季堂】は入店ハードルが高かった。昨日のお客はたまたまうまく接客できたが、美咲がいつも入店案内をできるとも限らない。
「安っぽいチラシの方が親近感出るかなって」
店内の写真を撮り、コンビニプリントを駆使して案内としたのだ。あまり上手くない狐のイラストも添えて、下記の通り。
――――
お狐様の雑貨店【四季堂】へようこそ
・季節の雑貨が有ります。
・六月の雑貨が入荷しました。セール!
・ぜひ見て行ってください。
――――
「セールって。……まあ、いい判断だと思うわよ。今時どのような店でも値引きにはセールって言い方をするもの。馴染みのある言葉を使うってことはとっつきやすいのよ」
「よかった〜。和風雑貨の別のお店とかも見に行ったんだけどね、セールってシールが普通に使われていたから【四季堂】にも適用しちゃおうって」
「「ナイス」」
「傾向と対策をしたの」
「真面目だね!?」
ぶはっとほのかが噴き出した。
玄関先でひととおり騒いだら、扉を開けた。
本日、招き狐は静まっている。招き狐がしゃべると驚かせてしまうので、これで声をかけるのは対不審者か、美咲一人で来るときにだけと決めた。
少しずつ【四季堂】は変わっていく。
四季だけでなく時代の流れもとりこんで。
店の中には、写真と同じ光景が広がっている。
沖常がにこやかに、三人を待ちかまえていた。
読んで下さってありがとうございました!
じわじわだなあとも思いますが、こういうちょっとしたところを拾うタイプの作品だし、四季堂のペースでまいります₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




