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春の終わり。

 



 廊下は長く、これまでよりもさらに奥へ奥へ──神々の領域へ。


 障子がスラリと開けられると、拡張されたお座敷が。

 美咲を迎える神々は、緑坊主に四季の花姫たち、カマイタチに彼岸丸に猫娘。


「み、みなさん……ただいまです」

「遅いにゃあ!」

「ありがとうございます。お迎えしてくださって」


 美咲がふんわりお礼を言うと、勢いのぶつけどころを失った猫娘が赤くなって固まり、どっと笑いに包まれた。


「美咲、こんなもんじゃない。まだまだ来るぞ」

「そうなんですか!?」

「縁があったものが集まる予定だ。心当たりはまだまだあるだろう?」


 美咲があれこれ指折り思い出して、本当に多いなぁと微笑んでいると……



「こーんにちはー! お届けものですぅ! う、きゃわっ」


 ポンポコポポポーーン! と弾むような足音が途切れて──ずどん!! と巨大な質量が転がってくる。


 米俵。

 それから大きな風呂敷包みを後生大事に抱えた子狸。

 せっかく大人の姿に化けてやって来たのに、転んだ瞬間に変身が解けてしまった。

 小さな鼻をカリカリとひっかく。


「ふきゅうぅ。でもでも酒瓶は守りましたからぁ……」

「これこれ……はぁ。まあ、客の前でそういえたのはあっぱれだ。酒を振るのは如何なものかと思うが、起きてしまったことは仕方がないし、自分よりも酒を守る店主の心意気で酒がさらに美味くなるだろうよ」

「そうでしゅか〜!」


 狸は舌を噛んだ。行動すればするほど、ツッコミどころが盛り沢山になる狸だ。


「えへへみなさま、本日お持ちしましたのは、追加の米と酒でございます。家電ならお任せ! 狸屋でございます。ええと、ご縁を繋いでくださってありがとうございます。御狐様〜!」

「地力があったということだ。誇るだけの米と酒、炊飯器が」

「わあぁ!」


 タヌキチですタヌキチです! と手をブンブン振ってにこやかに自己紹介したタヌキチは、神々の端っこにピョコリと座った。


 つぶらな瞳をきらきらさせて美咲を眺めている。


 というか、神々みんなが美咲のアクションを待っているようだ。



 美咲はたまらなくなって視線をそらし、安心安全安定の沖常に、事の次第をたずねる。


「それにしたって、今日はどうしてこんなにも集まっていらっしゃるんですか?」

「ズバリ本質だな」

「ウチの功績なんだからね!」


 猫娘が割って入って、無い胸を張った。

 美咲は思わず目を丸くする。


「……もしかして先に伝えてくれたんですか?」

「フン! そんな無粋なことはしないにゃあぁ。美咲の祝い事があるからみんな集まれ! ってだけ連絡したの!」


 畏れ多いー! と美咲が震え上がる。

 いい知らせは、確かにある。

 いいお土産も持ってきたつもり。


(でもこんな、神様だらけのところで発表するようなことかなぁぁ!?)


 思いきって、言うしかない。

 だってもう彼岸丸が「静粛に。さあ来ますよ、さあさあ」とか言ってみんなの期待を高まらせているのだ。

 長引けば絶対もっといじられる。


(おきつねさんなら喜んでくれるはずだから、きっと大丈夫だから……!)


 自分自身の勇気づけ、完了!


「あの! 【四季堂】のバイト、正式に家の許可をもらえました。平日19時まで、働けます。これからもよろしくお願いします!!」


 バッ! と美咲が頭を下げた。


 わああ!! と拍手喝采の音。


 こんなに喜んでもらえるとは!? と美咲が頭を下げたまま赤くなっていると、トントンと肩を叩かれる。このゆったりした調子は、沖常だ。


「この光景を見ないとは、勿体無いぞ?」

「……うわっ!?」


 緑坊主がその姿を現して、吹き抜けるように踊るたびに髪から生命の緑を立ち上らせる。

 びゅっと風が吹き込んできて、花姫たちの着物から花びらを散らし、花吹雪を巻き起こした。

 カマイタチが共演として踊りに加わり、彼岸丸が一礼をすると、庭に緑の龍が頭をあらわす。

 きゅきゅっとタヌキチが酒瓶を開けると、ふわっと酒の匂いが香り、誘われるように美しい童女がやってきた。

 猫娘は待ちきれなかったのか鰹のヅケをつまみ食いしているし、ろくななはちきゅうの炎子たちがお盆いっぱいのおにぎりを持って現れる。ツヤツヤとした白銀色は狸屋の自慢。


 ぽかんと眺めるしかできない美咲に、沖常が声をかけた。


「おめでとう美咲。これからも是非、よろしく頼む」

「……猫娘さんの幸運と、友人の協力のおかげなんです。それから何よりも、ここにいていいってご縁を繋いでくれたおきつねさんのおかげですからぁ」


 美咲の目にぶわっと大粒の涙が浮かぶ。

 しゃくりあげて話せなくなる前に、とひといきに言葉にする。


「嬉しいです。幸せです。ありがとうございます……!」


 沖常は穏やかに「同じ気持ちだ」と言った。

 美咲のこぼれ落ちた涙は、波紋のように広がって、やわらかな緑の芽生えの助けとなった。



 白銀のおにぎりに、緑の若葉をそっと添えて、みんなで食べる。その全てが「とてもいいもの」である。




 ーお狐様の雑貨店【四季堂】春の終わり。ー








読んでくださってありがとうございました!


最後の緑の若葉は美咲が摘んできたものです。

添えてあるだけだけど、見た目をみんなが楽しんでいます。沖常の彩りの仕事と、美咲の心遣いと、おにぎりとのご縁と全部。



★しばらく、夏編の書き溜めです。

ブックマークなどでチェックして頂けると嬉しいです。


ここまでお付き合いをありがとうございます!

では、またみなさまと四季堂のご縁がありますように。




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