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雑貨店デート2

「まさか、あんな風に現金一括でお買い物をしようとするなんて……」


美咲が、狐に包まれたような顔をして、店を出てからぽかんと呟いた。


「先程の店員も驚いていたな。……まぁ、それなりの量を買ったし。あと、いささか取り出した現金が多かったか?」


沖常は苦笑いをして、人差し指で軽く頬をかいた。


「多すぎですよ。合計五千円の買い物に、百万円の札束を置くなんて!」

「いやはや、現代の金の価値には、ちょいと鈍い」


(ちょっとの規模がすごく大きいんだよなぁ……)


美咲は、先ほどとは別の理由で、ドギマギと沖常を眺めた。

──正しくは、沖常の懐の方を。


先ほど、雑貨店のレジで、懐からナチュラルに札束を取り出した沖常。

もちろん仕舞うところも懐の中である。


(あの中に札束が三つも入っているなんて……!)


沖常は、買い物を楽しみにしていたので、神様仲間に自分が作った雑貨を売り、現世で使える紙のお金をもらったのだという。


このくらいあればお狐様が欲しがるような雑貨の一つも買えるでしょう、とその神様仲間は札束を渡したそうだ。

実際に買ったのは、マシュマロクッションと、海外製品の安価な雑貨を少しなのだが。


(おきつねさんが扱う雑貨って、やっぱりすごく高級なものなんだよね……)


神様仲間に渡した適当な雑貨が三百万円、とすると、「美咲のために」と神様が手間暇かけて作ってくれたつげ櫛など、値段もつけられないほどの高級品に決まっている。


美咲は自分の髪の毛先を少し触って、ぶるりと小さく震えた。


「寒いか?」


沖常が、着ていた羽織を美咲に被せた。


「ああ……いえ、そういうわけでは」

「着ておいたほうがいい、風邪を引かせるわけにはいかない。それでは遠慮するか? 美咲を大切にしたいので着ておいてくれ。頼んだぞ」


こう言われたら、美咲は赤くなった顔を服の袖で隠して、頷くしかなかった。


満足そうに笑っているであろう沖常の横顔も、なんだか見ることができない。

体の内側が、熱い。


沖常が腕にかけている雑貨店の紙バッグが、着物生地とこすれる音が、美咲の耳に入ってくる。


人混みの中にいるのに、それほど美咲の神経は沖常にだけ集中していることを、まだ本人はそれほどは自覚していないのだった。



数店舗、雑貨店をハシゴすると、沖常の腕に紙袋が増えていく。

オルゴール、虹色のコップ、机に敷くランチョンマット。


異国の風景が描かれたレターセットは、美咲と沖常がお互いに手紙を送ろうと楽しく話した。


「さぁ。いくつか雑貨店を見て回ったし、次は米家に行こう!」

「お米を炊くための家電量販店、ですね? おきつねさん」

「まぁそんな感じだ」


通じればそれで良い。と言わんばかりの沖常の潔さに、美咲はフッと吹き出してしまい、二人でくすくすと小さく笑いながら歩いた。





商店街の中でもひときわ目立つ、大型チェーンの家電量販店の前に、二人は訪れた。

美咲は「中に入りましょう」と沖常の着物の袖をつまんだが、しかし沖常は、眉根を寄せてピタリと足を止めてしまっている。


「ここが家電を扱うお店ですよ。……おきつねさん、どうかなさいましたか?」

「証明がやけに明るくて、目に痛くてな。それに音も大きすぎる、と感じたんだ」


美咲は「なるほど」と頷く。


(もともとが狐のおきつねさんは、耳や鼻が、一般の人よりも鋭いのかもしれない。それにこの家電量販店は4階建てでフロアが広くて、置いている商品は多いけれど、ちょっと疲れてしまうかも)


そして、最新家電特有の明るすぎる白光や、精度がいいスピーカーの周波数に、面食らっているのかも……と美咲が考える。


「沖常さん。でしたら、もう少し小さな店舗を探しましょうか。まだ他にも、家電を扱うお店はありますから」

「そうしてくれると助かる。人気がある店の視察は、雑貨店だけでいいだろう」


沖常はホッとした様子で、美咲に笑いかけた。


そして瞳を閉じる。


なんとなく沖常が神聖な雰囲気をかもしているので、美咲は話しかけることが憚られて、隣で静かに立ち尽くした。


爽やかで涼しい風が美咲を包んだが、沖常が与えた羽織があるので、温かいまま。

体温を奪われる事はなかった。


五秒が一時間にも感じられるほど、この場所だけが静寂だった。


沖常が目を開ける。


すると美咲の周りの時が動き出したかのように感じて、ハッとした。


沖常はスッと斜め左の小道を指差す。


「……ん。あちらに良い縁がありそうだ」

「そんなことが分かるんですね! おきつねさん、とてもすごいです」


ではそちらに行きましょう、と美咲が沖常の後ろに下がった。

沖常が歩き出すと、親鶏を追うヒヨコのように、三歩ほど間を空けて静かに歩く。


「はぐれたら大変だし、先程とは案内の役割を代えるのもいいだろう」


沖常が美咲の手を引く。

確かに、商店街に足を踏み入れた時とは、立場が逆転している。


(……つい。……神聖な雰囲気の黒髪のおきつねさんに、驚いてしまったのかも。近寄りがたいというか恐れ多いものを、ちょっとだけ、感じちゃったのかなぁ……。……それとも私が邪なことを考えてしまってたとか? 目はりのお化粧に叱られた?)


美咲がハッとする。


(あの大きな家電量販店でセールをやってて、5割引のチラシに目が吸い寄せられたのは事実……!)


見当違いなことを思考し、反省した。



夜が近くなりさらに薄暗くなった商店街で、影のかかった沖常の横顔を美咲がそっと眺める。


良縁を追っているのだろう。

黒真珠のような神様の瞳は、不思議な光を帯びて、前を見つめている。

思わず背筋が伸びるような、清らかで張り詰めた空間。


そんな沖常が「辿り着いたぞ! ここだ」と美咲を振り返った時には、瞳は穏やかにやんわり細められたのだった。


「家電はおまかせ、狸屋」


美咲が看板を読み上げた。



読んでくださってありがとうございました!


この場でのとりいそぎの連絡で恐縮ですが、ゴールデンウィーク始まりましたね……!(戦地に赴く兵士の顔)……予定もりだくさん!もちろん家庭イベントのほうがみっしりです(oh)


お狐様、レアクラ、冬フェンリル、それぞれ一度ずつは更新を目標に、できるだけ短時間集中でがんばってみます!


そんなレアクラ六巻は5/10発売ですので、ご予約頂けると大変助けられます(。>ㅅ<。)!

よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございました!

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