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心ときめく外出準備

翌日のお昼休み。

美咲はほわほわと物思いにふけりながら、真里とほのかとともにお弁当を食ていべる。


「なにかいいことがあったようね? 美咲」

「口の端にお米粒ついてるけど……!? ちょっ、定番すぎて面白い」


じとっと真里が美咲をながめて、ほのかは口を押さえてプルプル震えている。


「あ、しまった。えへへ……」


美咲がお米粒を探してほっぺを触る。

思ったよりも温かくて、あれ? と首を傾げた。


「熱があるんじゃないかしら? 今日はやたらとボーッとしているし、顔が赤いわ」

「えっ!? 風邪!? 今日だけはそれは困る、絶対に違うから……!」


慌てる美咲の様子を、真里たちは不思議に思った。


「今日? 何かあるのね?」

「えっと……うん。放課後に予定があるの」

「へー。お店のこと?」


バイトのことを誤魔化すため【四季堂】と明言しないように、三人は心がけている。


「みたいな感じかな」


美咲が遠回しに発言するので、だんだんと友達の目が半眼になってきた。

じりじり、と近寄られて、美咲が少しあとずさる。


「「な・に・が・あるの?」

「……おきつねさんとお出かけの約束をしてるから」


観念した美咲が正直に話す。

真里とほのかが色めきだった。

やはり女子高生らしく、このような話題には関心が高いのだ。


「デートじゃん!? うわー美咲やるぅ! 女子校ってなかなか出会いもないしね」

「私もついて行ってスケッチしていい!?」

「デートだって言ってるじゃん真里、自重。大丈夫だよ美咲、私がきちんと押さえとくからねー」

「あ、ありがと、ほのか……えっと……デート、っていうか、ただのお買い物だから……ね?」

「それって二人で?」

「うん」

「「デートじゃん」」


声を揃えて確認されると、美咲は照れて顔を真っ赤にしてしまった。


(この反応はまんざらでもないな)

(店主、かなり絵になる美形だったしね)


真里とほのかが目を合わせてこっそりと下世話な会話をする。


上手くいくはずだよ! 頑張れ! 夕方には帰宅するんだよ!? と様々な応援を贈られた美咲は、ちょっぴり疲れてしまった。


ほのかにバシバシ叩かれた背中がけっこう痛い。

午後の授業中、二人のにやにやした視線がなんだか落ち着かなかった。


でも放課後になると、疲れなんて忘れてしまうくらい足が軽くなる。

いつもより更に手際よく荷物をまとめて、緑坊主の風に乗って颯爽と教室を出ていった。

真里たちがちゃかす暇もなかった。


(デートかぁ)


友達に冷やかされたため、妙に意識してしまって、頭の中で言葉を反芻した美咲は、ぽわわっと頬を赤らめた。


「緑くん、急いでもらってもいい?」


通り過ぎていく風が、熱くなった美咲の頭をやっと冷ましてくれた。





【四季堂】にやってくる。


「おかえり!」


美咲が玄関扉を開ける前に、沖常がひょっこり顔を覗かせた。

玄関先で見つめ合う形になる。

思いがけず近くで端正な顔を眺めることになってしまって、せっかく冷めていた美咲の頬がまた熱を持った。


「美咲が来るのを心待ちにしていたんだ! 今日の外出はとても楽しみだな。……おや、顔が赤い。熱があるのか?」

「違います! 違います! 外出が楽しみすぎて興奮しているだけです!」


あんまりな言い訳をしてしまった。

言い訳というか真実だが。

美咲がかーーっと茹でダコのように赤くなった。


「なんと正直な」

「今は……自分の物言いが恥ずかしくて……そのための顔の赤さです……」


情けなくて小声でゴニョゴニョ言う。

沖常の狐耳がひくひくと動いた。


「そうかそうか。楽しみな気持ちを共有できて嬉しく思うよ」


いっそうご機嫌になった沖常は、美咲の手を取って店の中に。


美咲の目が点になる。


「ここは反物屋さんですか!?」

「はっはっは。俺も楽しみにしすぎていたということだ。つい、着物を色々と取り寄せてしまった。美咲よ、どれを着ていきたい?」


店にはズラリと着物が並んでいる。

どれも若い女性用の華やかな柄だ。

美咲のためにわざわざ取り寄せてくれたのだろう。


「沖常様、はしゃぎすぎだぜ」

「美咲ー、早く選べよー。出かけるのが遅くなっちまうぞー」


炎子たちが声をかける。

今日、店番を変わってくれるいちの二人だ。


それはそうだね、とぼんやり着物に見惚れていた美咲が、きょろきょろと目で選別し始める。


家に帰る時間はいつもと一緒にしなければ。

夕方、叔母に異変を悟られないような時刻までに……。


それまでは魔法のように楽しい外出になるに違いない。

おめかしをして、大好きな雑貨店巡りをして、隣には沖常がいてくれるのだ。


(シンデレラみたい、なーんて)


自分でちらりと考えておきながら、美咲は(いやお姫様に例えるなんて厚かましすぎる。おきつねさんは王子様のように綺麗だけどね)と苦笑した。

ふと振り向くと、ニコニコと自分をみている沖常と目が合う。


「おきつねさん、お気遣いをありがとうございます。わざわざ着物を揃えてもらえるだなんて思ってもいなくて、とても驚きました……!」

「その学校の制服のまま出歩くと目立つし、それはマズイのだろう?」

「!!」


しっかり心配してくれていたことに美咲が気づく。

お嬢様が通う有名女子校の校則はきびしくて、放課後に遊ぶことは推奨されていない。


「出かける時の注意点について、相談していたんだよ」

「お狐様は現代常識に鈍いからにゃあ」


店の奥から登場した猫娘が、むっすりしながら美咲を眺めた。


「そう年寄り扱いするな……猫娘」

「出かける、って現代では物言いが違うのにゃあ。こーいうの。デ・エ・ト!」


気恥ずかしそうに、沖常と美咲が目を合わせて微笑んだ。


「ウチは忙しいんだからね。着付けてあげるから、早く着物を選ぶにゃあ!」



お待たせしました、連載再開です!


これから、レアクラ・冬フェンリル・お狐様のどれかを平日更新になります。


どれも軽めに読んでもらえる物語ですので、それぞれ楽しんで頂けたら幸いです♪


レアクラ最新六巻は5/10発売、予約受付中です。校正もいよいよ大詰め。


冬フェンリルとお狐様は、ネット小説大賞六の一次選考通過しました。

ドキドキ、夢が膨らみますね( *´꒳`*)


では、これからも執筆頑張ってまいります!

読んで下さってありがとうございました

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