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一週間ぶりのお仕事

学校が終わり、美咲は風のように【四季堂】に向かっていく。

真里やほのかが追いかけようとしたが、とても追いつけなかった。


だって、美咲の心は高揚しているのだ。

緑坊主も嬉しそうに、美咲とともにステップをふんだ。



「た、ただいまですっ」


「おかえりなさい」


美咲が【四季堂】に着くと、沖常と狐火たちが出迎えてくれる。

とても嬉しくて、にやけたような笑顔になってしまった。


「今日もお仕事、頑張ります!」


エプロンをつけて、気合いの一声!


「おお、元気があってよいな。うん、髪の艶も、顔色もよい。昨日は心地よく眠れたようだ」


「えへ……おかげさまで」


「こちらの店の事情で心配をかけたな」


「えーと。心配は、してました……でも、皆さんがどこまでも親切に迎えて下さったから。よりいっそう、こちらで頑張りたいなって思ったんです」


「ありがとう」


美咲と沖常は微笑み合い、胸がむずがゆくなるのを自覚した。


((なんて心地よい縁だろう))


沖常は、彼岸丸が「あなたの選択は間違っていなかった」と言ったことを思い出した。

ふっ、と苦笑する。


「今日は何をいたしましょう? おきつねさん」


「美咲の手料理が食べたい」


迷わずそう言われて、美咲はぱちくりと瞬きした。

沖常と、肩に乗った狐火たちがきらきらした目で美咲を見ていたので、とびきりの笑顔で頷いた。



店番に炎子を二人おいて、厨房には美咲と沖常、狐火2体が集まる。


「食材は用意してある。好きなものを使ってくれ」


「わあ! たくさんありがとうございます。今が旬のタケノコを使いたいと思います」


冷暗所に並べられた箱の中から、美咲はタケノコを取った。

皮が剥かれて、下茹でして、きちんと下処理されている。

昨日の夜に沖常たちが頑張ったのだろうか、と考えると面白く思った。


「透明な容器に入っていますけれど、これは……」


「タッパー、と言うのだったか?」


「やっぱり!」


「美咲が天ぷらを送ってくれたことがあっただろう。あの時に、軽くて丈夫でしっかり蓋が閉まって、なんと便利な容器なのだろうと思ったのだ。神仲間に頼んで入手してきてもらった」


「神様からのタッパー!?」


しかもパシリである。


「ははは。俺も神だから、俺が買い出しに行ったところで同じく”神様のタッパー”となるのだ。他の神のことを気にして、そう慌てなくてもいいさ」


沖常は軽く返す。

しかし高位の神である自分よりも他の神に注目されているので、あまり面白くなさそうだ。

唇の先が尖っているし、狐耳がピクピクしている。分かりやすい。


「おきつねさんなら安心できるんですけど、他の神様のこととなるとまだちょっと、怖くて……」


美咲が小声で本音を告げると、沖常の機嫌があっさりと戻った。

狐火と情報共有した店舗の炎子が、爆笑して椅子から転げ落ちていた。


「何を作ろうかな。メニューの希望はありますか?」


「前の天ぷらが美味かったから、タケノコの天ぷらがいいな」


「分かりました。えへへ、気に入ってもらえて嬉しいです。

タケノコがたくさんあるので、あとお味噌汁と、炊き込みごはん……もしたいけれど、さすがに時間がかかってしまいますよねぇ……。家電の炊飯器はないですもんね?」


「うちは釜だな。…………使っていないけど」


申し訳ない、と沖常が視線でちらりと釜を指す。

いつもは炊いたお米を取り寄せていたそうだ。


「その炊飯器というのは便利らしいな? 炊き込み機能、予約機能、菓子も作れるのだとか。また買いに行こう」


「おきつねさん、炊飯器について詳しいですねぇ」


「噂好きやら情報屋が、色々と現世のことを教えてくれるのさ」


風もな、というと、緑坊主の風が沖常の髪をひゅっと揺らしていった。

そのまま神の世に帰って行ったらしい。彼は反省奉仕中なのだ。


一緒に炊飯器を買いに行こう、という提案を美咲は快諾する。


「今日は天ぷらと汁物で夕食を済ませようと思う」


「えっ、そうなんですか? 主食、副菜、汁物って厳守かなって思っていました……。昔ながらの風習として、重視なさるのかなって」


「何を言う。昔の里の人々の暮らしに添えばこそ……その時にあるものを食べて生命力を維持する、身体の声に耳を傾けて、腹が減ったら満たしてやる、というのが常識だ。

食事が三食になったのもつい最近のことだからなぁ。

神々はそう厳格ではないのさ」


美咲は鳩が豆鉄砲をくらったように口をぽかんと開けた。

食事の時間、規律、マナー、細やかに定めたのは人々なのだ。

神様たちのように、柔らかにかまえて自分と向き合うことも大切な気がした。


美咲は、自分のお腹に手を当ててみる。


「……お腹が空いている気がします」


「ははは! それはいい。一緒に食事としよう」


美咲は少し考えた。


(帰宅してから夕食を作るけど、叔母さんと一緒に食事をするわけではないもんね。明日のおかずとかを作り置きしておいて、私が夜ごはんを食べていなくても分からないはず)


沖常たちとここで食事をしたほうが楽しいだろうな、と思った。


自分の気持ちに正直に、ここではそれが許される。


「はい、是非!」


「良かった!」


「やったー」狐火もくるくる舞って喜んでいる。炎がパチパチ弾けた。


「夕食の時間が少し早くなってしまいますが、いいでしょうか?」


「俺もちょうどお腹が空いたところなんだ」


沖常が自分のお腹に手を当てて、そう言って笑った。


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