表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/122

黒猫の幸運?

「今日もありがとう。緑くん」


家の玄関先で、美咲がごく小声で言う。

つむじ風はふわっと解けるように拡散した。


そっと玄関扉を開ける。


「ただいま帰りました……」


叔母はリビングで食事中だった。

美咲をチラリと眺めると、黙って食事を再開する。

とくに何も言われないようだ。ホッと美咲が息を吐いた。


(ああ。黒猫さんに会ったからかもしれないなぁ)


【四季堂】の様子を思い出す。寄ってきた黒猫が美咲にほんの少し触れたのだ。すぐに炎子たちに軒先に運ばれたが。

黒猫は幸運の証と言われている。その黒猫に通り過ぎられてしまったら縁起が悪い、というジンクスまであるほどだ。


美咲は部屋に入って、学生服のままぽすんとベッドに倒れこんだ。


とても疲れているが、気持ちが充実している。

むずむずと胸が膨らむような楽しい気持ち。

ころころとベッドを転がって、うふふっと一人にやけた。


髪からリボンを解いて、お風呂に入る。

しっとり濡れた髪をタオルで拭いてから、ドライヤーで乾かし、部屋でそっとつげ櫛を使った。

鏡を見ることができないが、手で触るとさらりと髪が指を通り、感触がまるで違うことが分かる。


「おきつねさんの作品、さすが」


にへっと頬が緩んでしまう。

美しい櫛の装飾を指で撫でた。


机に向かって勉強を始める。

集中して今日の分を終わらせる。……つもりだったのだが、さすがに眠い。


「効率が悪くなってもいいことはないから。明日からもっと頑張ろうっと」


クマができたらきっと沖常たちが心配する。


(心配してくれる人がいる……)


美咲はまた幸せな気持ちになった。

今日はもう何度めだろう。たくさんの幸せを思い返して、そのお礼になるくらいバイトを頑張りたい、と強く思う。

彼岸丸が納得するくらいに。


「そのためには体力回復だよね」


”春のあけぼの”を手に取った。

綺麗な容器を眺めてから、しゅっと吹きかける。


心地よい眠りが美咲を包んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ