鬼とのお茶会1
座敷で待っていた彼岸丸は黒猫と戯れている。
香箱座りでくつろぐ黒猫の喉を指先で撫でている。
「この黒猫、どこからともなく忍び込んできまして。優秀でしょう?」
神様の店に忍び込むとは確かに優秀すぎる、と美咲が思わず頷く。
沖常がため息まじりに「これからお茶を出すから」と言うと、伍から玖の炎子たちが、慣れた様子で黒猫を軒先に運んだ。
黒猫は何度かフラフラと座敷に入ろうとしたが、その度に炎子が軒先の日向に置いてやると、ウトウトと寝始めた。
「それでは、頂きます」
おもむろに彼岸丸が言って、手を合わせる。
お前が言うんかい、と全員でツッコミたいところだが、真っ先に毒味、という建前なのである。
そら豆のケークサレを、彼岸丸がじっくりと味わう。
それからお茶を飲み、カラメルパウンドケーキも食べた。
また手を合わせる。
「ご馳走様でした。大変美味しく頂戴いたしました」
安心した美咲がにこやかにと頷く。
「それではお召し上がり下さい」
「お前が言うんかい」
またやらかした彼岸丸に対して、伍〜玖の炎子たちがバッチリツッコミをこなした。
彼らは満足げなので、彼岸丸は炎子とは絆を得ているのだろう。
「ええと。緊張がほぐれました」
沖常が「お前……さすがに失礼だぞ」と注意する前に美咲がそう言ったので、沖常はいったん小言を飲み込んで、あとで彼岸丸を叱ることにした。
全員で手を合わせて、ゆっくりとケークサレとパウンドケーキを口に運ぶ。
思いがけず人数が多くなってしまったので、台所で小さめに切り分けていた。
「しっとりとした口当たりがいいな。
チーズと黒胡椒によりそら豆の風味が引き立てられたケークサレ、甘く香ばしいカラメルパウンドケーキ……どちらも、とても美味い」
沖常が満足げに、味の感想を伝えた。
お茶を口にする。
「うん、こちらも良し。この菓子には、ほうじ茶も合ったかもしれないな」
「いいですねぇ。また今度作る時にはそうしましょうか」
洋風のお菓子は沖常たちにとって珍しいらしいので、美咲は色々とレシピを探すことにした。
和風のお菓子は花娘などからたまに差し入れがあるそうだ。
もう一度お茶を含み、食後に口を湿らせる。
沖常と美咲がにこやかに微笑みあった。
「ここで、お狐様の日記を音読いたしましょう」
「げっほ、ごっほ……!」
沖常がむせた。風流さがぶっ飛んだ。炎子たちが合掌している。
「なぜ!?」




