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【四季堂】からのお知らせ・ほのか参戦

美咲の元に、待ちに待った知らせがやってきた。


『【四季堂】にいらっしゃい』


沖常と狐火たちの顔を思い浮かべて、美咲は風と一緒にくるくると踊った。

踊らされたみたいなものだ。

と、赤い顔で言い訳を考えておく。ここは公園の片隅である。

連絡は地面に緑坊主が枝で文字を書いて行われているのだ。


「嬉しい。また、みんなに会えるの」


にまっと緩んだ頬を手で包む。


「お土産は何にしよう? 美味しいご飯がいいかな? それとも甘いお菓子? ……両方持って行っちゃおう! それに、緑くんがくれた葉っぱも」


風があわあわと揺れる。


「あげちゃったりしないよ。保存方法を相談しようと思って」


ホッとしたようにつむじ風は穏やかになった。

クスリと美咲が笑う。

随分と緑坊主とも打ち解けていた。


その日の帰り道では、沖常が喜びそうな季節の植物のありかを風が教えてくれた。

美咲は大切にメガネケースに保存していく。

不思議なことに、緑坊主の風が触れた植物は5日くらいなら一切萎れることなく瑞々しいままなのだ。


帰宅した美咲はエプロンを身につけて、料理にとりかかった。





お昼休み、学校の屋上。


「美咲さんが好きなものは季節の風景。

道端に咲いている花に微笑みかけたり、揺れる木を眺めて目を細めたり、蝶々と触れ合ったりする」


「ファンタジープリンセスかな?」


その情報を真里から聞いたほのかは飲んでいたハイビスカスティーをごふっと吹き出した。

さいわいにもジャージを着ていたので白い制服が汚れることはなかったが、悲しげにシミを眺める。あとで着替えなければ。


「どう話せばいいかかえって分からなくなってしまった……」


真里ががっくり肩を落としていたので、ほのかはちょっぴり同情した。


「自然と戯れる姿があまりに絵になったのでスケッチしてみたんだけど。いっそこれを贈ればお近づきに……!」


「重い重い重い重い」


ほのかが慌てて真里を止める。

しかも美咲がいないうちに引き出しにねじ込もうとしていたらしい。

出処がわからないスケッチのプレゼント……恐怖でしかない。


「世界大会でも注目を集めた私からの絵のプレゼントだぞ? 喜ばないわけがないのに」


ムッと真里が顔をしかめる。

むしゃむしゃと焼きそばパンをむさぼり食べた。

口が小さいので少しづつしか減っていかないが。


思考が浮世離れしてるなぁ、とほのかが困ったように笑う。


「どうやってその趣味を知ったの……?」


「尾行」


「それ女子高生のクラスメイトがやったんじゃなきゃ犯罪案件だからね?」


ほのかはあからさまなため息をついた。

四つ目のおにぎりを食べ切って、サンドイッチに手を出す。


(まあ、他人と友達になろうと努力しているとこは微笑ましいんだけどねぇ)


「なに」


にんまりと真里を見ていたので、怪訝な表情を返された。

「なにも」と適当に返しておく。


ぼうっと二人で空を見上げた。


「……そうだ。美咲さんの尾行、私も付き合ってもいいよ」


「犯罪案件って自分が言ったばっかりじゃない!?」


「同調しないとは言ってなかったもーん。美咲さんの運動能力、なんだか不思議で気になってたんだ。ちょっと彼女の日常が見てみたいなって。瞬発力の秘密が隠されているなら、トレーニングに組み込みたい」


そう語るほのかの目は狩人のように鋭く、運動特待生としての好奇心が滲んでいる。

真里とほのかは、進路こそ違うものの、似た者同士のようだ。


真里は呆れた目で、ころりと対応を変えたほのかを見た。


「……じゃあ、今日の放課後は?」


「なんともタイミングが良いことに、陸上部は自主練習の日なんだよね。ソフトボール部の大会が近いから、運動場を優先的に貸すことになっているんだ。だからフリーだよ」


「決まり。一緒に絵の具の出処を探る!」


「こらこら。美咲さんの生活をこっそり見せてもらうんでしょ?」


根本の目的は変わっていないのか、とほのかは拳を振り上げる真里を見て苦笑いした。







美咲は軽やかに教室を出て行く。

今日は真里に執着されなかったことなんて気にもなっていないようだ。

そんなことより、早く【四季堂】に行きたくて仕方がない。



「今日も見事な身のこなし……!」


「ふふふ。待ってて、素敵な絵の具セット!!」


真里とほのかも教室を飛び出した。


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