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アスパラガスの朝ごはん

その日の夜は叔母の目を気にして、なんとなく「春のあけぼの」を使うことなくベッドに入った。


(……眠れない)


これまでの快眠さが恋しくなって、美咲はため息をついた。

ベッドの引き出しを開けて、いつも髪を縛っているリボンを手探りでつかむ。

なめらかな手触りの淡い桃色のリボン。


(さみしいな)


うとうとと浅い眠りに入り、美咲はようやく少し眠ることができた。





美咲は早朝に目が覚めてしまったので、少し凝ったご飯を作ることにした。

冷蔵庫の中身をさっと確認して、メニューを決める。


「旬のアスパラガスを使おう」


根元の太い部分をぽきっと折って、ピーラーで皮をむいて斜め切り。

細切りの揚げと一緒にかつお出汁で煮て、味噌を溶かし、味噌汁にする。


残りのアスパラガスは、ベーコンで巻いて、春巻きの皮で包んで揚げた。

油をつかったついでに、しいたけも素揚げする。


豚肉とキャベツを炒めて、醤油風味に甘辛く味付けした。

お弁当に詰めておく。


(そういえば……おきつねさんたちに料理を作る約束をしたのに、まだ碌に作っていないなぁ。この料理を届けられたらいいんだけど)


自分と叔母のお弁当箱に料理をつめてから、もう一つ、こっそりとタッパーに料理を入れた。

揚げ物がまだ熱いので、蓋を少しずらしておく。


窓を少し開けた。


「……実は緑くんがいたりして? わっ」


妙な胸騒ぎは当たっていたらしく、吹き込んできた風が意思を持っているように美咲の頬を撫でた。


「あ、あのね。このお弁当、【四季堂】に届けてもらったりできる?」


聞くと、タッパーをつむじ風が包む。

料理が適度に冷めたので、美咲は蓋をした。

つむじ風はお味噌汁の上に移動したので、試しにお椀に少し盛ってみると、消えてしまった。

緑坊主が飲み干したらしい。


そしてタッパーを窓の外に運んでいった。


「お届けお願いね」


美咲は小声で頼んだ。

いつの間にか口角が上がって、笑顔になっていることに気づく。

気持ちも明るくなっていた。


(美味しく召し上がってもらえますように。……それにしても私、神様を運送に使っちゃったの? 今さらながら、とんでもないことをしちゃったのでは……!)


ハッと口元を押さえたが、もう後の祭りなのである。


(……今さらなんだもんねぇ)


悩むことをあっさりとやめて、登校の準備をする。

制服を着て、髪をリボンで結い上げて、「よし!」と気合いを入れた。


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