アスパラガスの朝ごはん
その日の夜は叔母の目を気にして、なんとなく「春のあけぼの」を使うことなくベッドに入った。
(……眠れない)
これまでの快眠さが恋しくなって、美咲はため息をついた。
ベッドの引き出しを開けて、いつも髪を縛っているリボンを手探りでつかむ。
なめらかな手触りの淡い桃色のリボン。
(さみしいな)
うとうとと浅い眠りに入り、美咲はようやく少し眠ることができた。
*
美咲は早朝に目が覚めてしまったので、少し凝ったご飯を作ることにした。
冷蔵庫の中身をさっと確認して、メニューを決める。
「旬のアスパラガスを使おう」
根元の太い部分をぽきっと折って、ピーラーで皮をむいて斜め切り。
細切りの揚げと一緒にかつお出汁で煮て、味噌を溶かし、味噌汁にする。
残りのアスパラガスは、ベーコンで巻いて、春巻きの皮で包んで揚げた。
油をつかったついでに、しいたけも素揚げする。
豚肉とキャベツを炒めて、醤油風味に甘辛く味付けした。
お弁当に詰めておく。
(そういえば……おきつねさんたちに料理を作る約束をしたのに、まだ碌に作っていないなぁ。この料理を届けられたらいいんだけど)
自分と叔母のお弁当箱に料理をつめてから、もう一つ、こっそりとタッパーに料理を入れた。
揚げ物がまだ熱いので、蓋を少しずらしておく。
窓を少し開けた。
「……実は緑くんがいたりして? わっ」
妙な胸騒ぎは当たっていたらしく、吹き込んできた風が意思を持っているように美咲の頬を撫でた。
「あ、あのね。このお弁当、【四季堂】に届けてもらったりできる?」
聞くと、タッパーをつむじ風が包む。
料理が適度に冷めたので、美咲は蓋をした。
つむじ風はお味噌汁の上に移動したので、試しにお椀に少し盛ってみると、消えてしまった。
緑坊主が飲み干したらしい。
そしてタッパーを窓の外に運んでいった。
「お届けお願いね」
美咲は小声で頼んだ。
いつの間にか口角が上がって、笑顔になっていることに気づく。
気持ちも明るくなっていた。
(美味しく召し上がってもらえますように。……それにしても私、神様を運送に使っちゃったの? 今さらながら、とんでもないことをしちゃったのでは……!)
ハッと口元を押さえたが、もう後の祭りなのである。
(……今さらなんだもんねぇ)
悩むことをあっさりとやめて、登校の準備をする。
制服を着て、髪をリボンで結い上げて、「よし!」と気合いを入れた。




