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四季堂を訪れる

美咲は足早に帰路を歩く。

いつもはゆったりと寄り道先を探すところだが、今日はもう行き先が決まっているのだ。


途中、満開の桜の木の下を通る。


「……わぁ。ここの桜の花びら、こんなに綺麗な色だったっけ? ううん、去年はくすんだ白だったはず。毎年見てたもん。古木だから元気が無いのかなって思っていたけど……?」


思わず足を止めて花を眺める。

とても素敵な変化だと思った。

それならいいことだよね、とにこっと微笑む。


「そうだ。落ちてる花を拾っていこう」


繊細な桜の花を、そおっとメガネケースにしまった。

取り出したメガネは、壊れたら困るので顔にかける。

パソコン学習する時にだけ使うブルーライトカットのメガネは、レンズが色付いていて景色がくすんで見えるので、街を散策する時にはかけたくなかったが、仕方ない。


メガネをずらしてもう一度桜の木を見上げてから、美咲は歩き出した。

前を向いて、口元は期待にほころんでいる。





雑貨店【四季堂】を美咲が訪れる。


「お入りなさい、いらっしゃいませ」


招き狐の置物が告げて、美咲は扉を開…………


「やっときたか!」


「……わぁ。こんにちは。おきつねさん。お久しぶりです」


沖常が現れた。

美咲が扉に手をかけるよりも早く、すっ飛んできたようだ。

彼はわざわざ動かなくても扉を開くことができるのに。


あまりに嬉しそうに迎えた沖常に気押されながら、美咲はおずおずと店内に入った。


「あっ。商品がいろいろ増えていますね」


雑貨を見てころりと関心を持って行かれて、声を弾ませる。


「季節が変わったからな」


「……? まだ前回来た時から一週間ですよ。季節は春のままです」


沖常が「いやいやいや」と頭を振る。


「季節は4種類だけだと思っているのか? 一週間も、だ。少しずつ変化する気候や景色を愛おしく思わないか?」


「……! そうですねぇ」


美咲は感心しながら頷いた。


「お店の名前は【四季・・堂】ですけれど」


「……分かりやすいから」


からかうように美咲が言うと、店主がしょんぼりして、狐耳も伏せてしまう。

まじまじと美咲が頭を見ているので、沖常は落ち着かなさそうに居住まいを直した。


「君には、この狐耳が見えているな?」


「はい? もちろん。お店の佇まいとよく合った素敵な装いだと思いますよ。おきつねさんの着物も、和風な雑貨が多い店内に馴染んでいますね」


美咲はさらりと肯定した。

少し緊張しながら問いかけた沖常は面喰らう。


「……君はよく”素敵”という言葉を使う。とてもいいな」


「ありがとうございます」


機嫌をよくしながらも、沖常は続ける言葉を慎重に探す。

美咲が何者なのか、見極めたいと思ったのだ。

こほんと気持ちを落ち着ける咳払い。


「……狐耳をこんなにあっさり受け入れられたのは初めてだ」


「コスプレですよね」


「なんだそれは?」


「えっと、物語の人物を真似して装うこと、でしょうか。狐耳、まるで本物みたいですごいです。手作りですか?

あっ、また動いた。機械が仕込まれているんでしょうか?」


美咲は狐耳を本物とは思っていないらしい、とようやく沖常たちが気づく。

ぽかんと口が開いてしまった。


(どうしたものか)


思わぬ対応に戸惑いながらも、いったん美咲の認識を修正しないことにした。

もしも神の一角・・・・であることがばれたら、仲間がうるさい。


(ほんの200年ほどの間に、日本の常識はずいぶんと変わったようだ)


ふうっと息を吐いた。

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