表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/122

琥珀飴と厄介な訪問者

美咲が帰った【四季堂】の店内。

もう日も暮れた。


「美咲はよく働いてくれるな。業務にも馴染むのが早かったし、神々への対応が丁寧だし。うむ、雇ってよかった」


「本当にそうだなぁ」

「「「同意」」」


沖常たちは奥の座敷に座布団を並べて、春の庭を眺めながらお茶をすする。

ふう、とあたたかな息を吐いた。


「琥珀飴を頂こうか」


「わぁい!」


美咲が少し前に沖常に渡したお礼菓子だ。

見た目が綺麗で気に入っていたので、しばらく食べずに取っていた。

それぞれ一つづつ口に入れて、舌で転がす。

すっきりとした甘みに舌鼓したつづみを打った。


「これ、美味いなぁ!」


「そうだな。とてもいい。……いいことを思いついた。梅舞いの舞台があるだろう? その直前にこの琥珀飴を食べていこう。梅の身がより甘くなるかもしれないぞ」


沖常の言葉を聞いた炎子たちは、けらけらとお腹を抱えて笑う。


「なんだそれー」

「根拠は?」


「なんとなく」


「そうだろうなぁと思った」


「神のなんとなく、は直感のようなものだ。きっといい影響があるさ」


「お! なるほどなぁ」


炎子たちは姿勢を正して、納得したように頷いた。


「だから最後の一つは俺が食べるということで」


「あっ!? 沖常様、ずるい!」


「最後の一つって一番美味しいところじゃないかー!」


「そう。だからこそ神の舞いに影響が出るかもしれないだろう?」


「屁理屈ぅ」


炎子たちがぶーぶー言って、頬を膨らませる。


「じゃあ最後の一つまではおれたちが食べる〜!」


二つめの琥珀飴を口に入れて、炎子たちがもしょもしょ咀嚼した。


「慌てずに味わって食べなさい」


沖常が軽くコツンコツンと頭を叩いていった。

落ち着いているので、二つめの飴はもともと炎子たちに譲るつもりだったのだろう。

そうでなければ大人げなく飴争奪戦に参加していたはずだ。


(梅舞いの間までにつまみ食いをされてしまわないように、賄賂も兼ねて)


そんなことを思いながら、最後の一つ、残った飴を大切に瓶にしまった。

せっかくなので「白銀狐」と名前を書いておく。

かなり本気の所業だ。


炎子たちは口の中の甘みを堪能して、顔をほころばせている。

沖常も舌の余韻を味わった。


眺めている先、中庭には緑坊主の新芽と花姫の牡丹が鮮やかに存在している。


「それにしても。美咲があんなに注目されるとは……」


沖常が少し心配そうにぼやく。


「だって沖常様のお気に入りだぜ」

「そりゃ話題にもなる」


「気づかれたのがあまりに早くないか……? 緑坊主は風神に口止めされているはずだし。例年になく神々の訪問が多いのは、妙だ」


沖常が、むむむ、と唸って腕組みした。


炎子たちは目を閉じて、自分たちのに問いかけた。

額の「壱〜よん」の字がぼうっと光る。


「ーー自然風景に明確に影響が現れてるから」

「ーーあのピンクの桜をきっかけに、沖常様の仕事がさらに技を増したって、神の世で噂になった」

「ーー気になった神々がいても不思議じゃない、ということ」


「…………」


沖常は頭をかいて、改めて中庭を眺めた。

うむ、美しいな、と一人で頷く。


「俺の仕事が褒められるのはいい気分だ。しかし、やはり美咲の身の上が心配だなぁ……厄介な神に絡まれる前に、頼りになる味方を増やしてやりたい」


思考しながら呟いた。

集中していた沖常の肩を、つんつん、と炎子がつつく。

妙な気配を感じて、ぶわっと狐耳の毛が逆立った。


「………………………………んん!?」


沖常が振り返るタイミングで、炎子たちが合掌した。


「「「「くわばら、くわばら」」」」


(縁起が悪い!)


そう口に出して炎子と戯れることも憚られるほどの、怒気。


お狐の背後に立っていたのは…………血のような赤い衣をきっちりと着て、闇のような黒髪を結い上げた男。

蒼白な顔は険しく、頭には2本のツノが生えている。


「お狐様。つい最近、人の娘をこの店の手伝い係として雇ったそうですね? 私は伺っていませんでしたが」


沖常が額を押さえた。


鬼の背後からは、「伍〜きゅう」の炎子たちが現れる。


「「「「「よ!」」」」」


再会をきゃっきゃと喜んでいるのは、幼児ばかりであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ