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星のコンペイトウと桜ペン★

夜。なんとか一日のスケジュールをこなした美咲は、勉強机に向かって教科書を開きながら、ふと、机の端に置いたガラス瓶を見つめる。

このページだけ終わらせよう、と決めた範囲をこなしてから、問題集をぱたんと閉じる。


「星を集めたコンペイトウ……って言ってたなぁ」


ガラス瓶を手に持ち、窓に向かってかざしてみる。

夜空の背景に、コンペイトウのきらきらがよく映えた。


「本当に綺麗」


顔がほころぶ。


美咲は雑貨が好きで、時間があるかぎり店を巡っているが、こんなに素敵な商品との出会いは初めてだ。

桜のペンと交換してくれた店主に感謝した。


瓶を少し揺らすと、しゃらしゃらとコンペイトウが揺れる。


「……食べるのは、ちょっとね。成分が書かれたラベルも貼られていないし、食べたら幸せになれるっていうのも……ちょっと怖いから。大切に飾ろう。……溶けないよね?」


できるだけ涼しい場所は、と部屋を見渡して、日の光が当たらない机の引き出しにしまった。

ここなら、叔母にも見つからないだろう。


「おきつねさん、雑貨がとても好きなんだろうな。親切にしてくれて、嬉しかった……。お店に行ってよかった」


また訪れたい、と美咲は心から思った。

そのためには、しっかりと勉強をして、寄り道をしたことがバレないようにしなければいけない。

学校で自主学習をしている、と同居の叔母に言い訳しているのだから。


(こっそり、秘密の場所に宝物を隠しているみたいだ)


机の引き出しの素敵な雑貨に、商店街にそっとたたずむ【四季堂】のことは、どちらも美咲にとって大切な宝物になりそうだ。

引き出しコツンと指で叩いた美咲は、まるで秘密基地のよう、と幼少期を懐かしく思い出した。

ベッドに入って眠る。いつもより深く眠れた。





四季堂の店内を、沖常がウロウロと歩く。


「…………うーむ。今日もこないか」


木の扉をそっと開いて、薄暗くなった空を見上げると、ふう、とため息を吐いた。


「逢瀬、叶わず」「あらら」「残念」「乙女かよ」と狐火が言って周囲を舞いはじめたので、「お前たちを人間に見られるわけにはいかないのだぞ」と手で払った。

「ひゃーーっ」と狐火が机の下に潜って行く。

ぴょこん、とひとつが顔を覗かせた。


「沖常様は顔を出してるのにぃ」


「俺は良いんだ。普通の人間には、ただの同族に見えるから」


「でもあの娘は狐耳を見破ったぞ」


「……そうなんだよなぁ」


沖常が首を傾げた。

店内に引っ込んでから、また名残惜しそうに、うずうず、と扉を内側から見る。

「よほど気に入ったの」「ひゃーー」と狐火が野次を飛ばした。


沖常は店を閉店(現世から隔離)させてから、店奥の畳の間であぐらをかく。

着物の裾をたすき掛けして、作業に入った。

表面がなめらかな紙を取り出す。


「そりゃあ、そうさ。心の豊かさを説く少女に、好意を抱かないはずがないだろう?

誰も彼も忙しそうに季節を通り過ぎていくばかりで、俺が作った美しい四季に見向きもしないことの虚しさよ。でも彼女は違った。

雑貨は心を豊かにする。いい言葉ではないか、うむ!」


沖常はぶつぶつ言っていたが、気を取り直したように笑う。

桜色のペンを取り出して「良い色だ」と褒めると、紙にインクを染み込ませた。


「おお? 随分と細い線になるのだな。うーむ。今回はこうしてみようか」


桜色の4色をたくみに使い、美しい桜の絵を描いてみせる。


「いつもは和紙に筆を使って描いているが、こういうのも新鮮で良いな。さあ狐火よ」


「「「「ほいさっ」」」」


狐火が紙をしゅっとこすると、余白が燃えて、桜の輪郭が浮かび上がる。

花びらごとに細かく分かれて、ハラハラと散った。


沖常がふっと口をすぼめると春風が吹き、部屋の片隅に置かれていた”鏡水”の上に浮かぶ。

溶けるように沈んでいった。


「春を楽しむと良い。君も」


そおっと付け加えられた「君」とは、美咲のことなのだろう。

クスクス笑う狐火たちも、久しぶりに訪れた変化にワクワクしていた。



沖常イメージ

挿絵(By みてみん)


楽観的な狐店主。

美咲に会えて嬉しそうです( *´꒳`*)

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